新エリア
季節は廻り、少しだけ暑さが和らいできた。
本日は俺、アイン、オートレイ、ディカッサ、メーリアで地下遺跡を探索している。
まったくこの遺跡の大きさは計り知れない。
これまで5キロメートル以上は踏破したというのに、まだまだ底が知れないのだ。
総延長はいったいどれくらいあるというのだろうか?
だが、俺たちも漫然と遺跡に臨んでいるわけではない。
着実に奥地へ進み、少しずつながらレベルも上がっている。
戦闘ではあれだけダメっぷりを見せていた隊員たちも、今では普通の兵士レベルになっているのだ。
かく言う俺の実力も上がってきている。
いまなら連隊の闘技大会どころか国のナンバーワンを決める大会に出場したって、優勝を狙える気がしている。
それくらい天空王の用意した修練場はすごかった。
はじめて来るエリアに入り、俺たちは緊張していた。
これまでは普通の石壁の遺跡だったのだが、ここからは白っぽい石壁に変わっている。
「魔物のレベルが上がるかもしれない。みんな気を引き締めていくぞ」
歩き出してすぐに目のいいメーリアが声をかけてきた。
「隊長、前方に見慣れないものがあります。あれは……祭壇?」
「何かのトラップかもしれないな。俺が先に行く。みんなはここで待機してくれ」
右手に剣を持ち、いつでも魔動波を撃てるよう左手に魔力をためながら俺はゆっくりとそれに近づいた。
頭には閃光の特殊効果がついたヘッドランプも装備している。
魔物の奇襲があっても即応できる構えだ。
緊張しながら近づいた俺だったが、そこにあったのは天空王からのメッセージだった。
第一エリア突破、おめでとう!
たゆまぬ努力を続けた諸君らに栄光あれ。
横にあるのは転送装置だ。
これを使えば入り口までの瞬間移動が可能になるぞ。
赤いボタンを押して起動させれば、入り口付近にも同じものが現れるだろう。
そうなれば、次回はここから探索が始められるというわけだ。
おおいに活用してくれたまえ。
天空王
メッセージを読んで安心した俺はみんなを呼び寄せた。
天空王の粋な計らいにみんなも喜んでいる。
興味深く転送装置を観察しているディカッサも満足そうだ。
「これで探索が楽になりますね。本当はこれがどういう構造になっているか分解して調べたいところですが……」
「やめておくのが無難だな。壊れてしまったら二度と直せないかもしれないんだから」
まったくもって天空王のチートは驚異的だ。
「残念です」
心底無念そうに天を仰いだディカッサだったが、そのポーズのまま固まってしまった。
「どうした、首でも傷めたか?」
「いえ、この竪穴はなんなのかと思いまして……」
言われて俺も見上げると、一辺が2メートルほどの四角い穴がかなり上部まで垂直に続いていた。
「たしかに気になるな」
薄暗くてよくわからないが、穴の深さは20メートルくらいはありそうだった。
道具があれば登れるかもしれないけど、いまはなにも持ってきていない。
だが俺たちにはあれがある。
「調べてみるか」
ディカッサの目がきらりと光った。
こいつは真実の探求に貪欲なのだ。
「ついに牛丼の具を使うときがきましたね」
ドライフードである牛丼の具は重さが25グラムもない。
だから何かあったときのために、ずっとザックに入れっぱなしだったのだ。
「アイン、お湯を沸かしてくれ。牛丼を食べて飛んでみよう。他の者は周囲の警戒を怠るな」
俺たちは竪穴にのぼるべく準備を開始した。
立方体状の牛丼の具を皿に置き、湯をかけた。
牛丼の具はお湯を吸い込み、みるみるうちに膨らんでいく。
やがて、ドライフードとは思えないようなふわふわな牛丼の具が完成する。
「本当はご飯にのせて食べたかったけど、贅沢は言っていられないか」
「隊長、スプーンをどうぞ」
アインからスプーンを受け取り、俺は段取りをみんなに説明した。
「まずは俺が先行する。バックアップにはディカッサがついてくれ」
狭い穴の中だからメーリアの弓よりディカッサの攻撃魔法の方がいいだろう。
「それじゃあ食べてみるぞ」
牛丼の具を慎重に十等分に分けた。
行きと帰りの分を考えてのことだ。
十分の一となるとひとさじ分くらいのものだが、今回は満腹になる必要はないのだ。
俺は牛丼の具をすくい口の中に入れた。
「うまっ!」
叫んだ瞬間に俺は浮いていた。
「ディカッサも食べてみろよ。飛ぶぞ!」
言われてディカッサも牛丼の口の中に入れる。
「おいしっ!」
あまりの美味しさにディカッサも浮いていた。
だが味の余韻に浸っている暇はない。
「よし、行ってみよう」
二口分の牛丼を携帯して、俺たちは竪穴に侵入した。
空を飛ぶというのは気持ちの良い体験だった。
こんな閉鎖空間ではなく、グローブナ地方の草原の上を飛んだらもっと気持ちがよかっただろう。
そう考えれば残念な気がしたが、遺跡の探索だって重要なことである。
全方位で満足できることなんて、なかなかないというのが現実だと思った。
竪穴を20メートルほど登ると、そこは行き止まりになっていて、今度は10メートルばかりの横穴になっていた。
ヘッドランプの明かりに照らされて奥の方にまたもや看板が見える。
あれもきっと天空王からのメッセージだろう。
「問題ない。みんなも牛丼を食べて上まで来てくれ!」
下に向かって叫び、俺はみんなが揃うのを待った。
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