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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第二部

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チートがもたらす恩寵


 夏の盛りは過ぎたが、グローブナ地方はまだまだ暑かった。

 俺たちは汗だくになりながら畑仕事をしている最中だ。

 最初は手探りで作り始めた畑だったが、俺たちも野菜作りに慣れてきた。

 今では様々な作物が元気に実っている。


 作業中に城門のノッカーが来客の訪れを知らせてきた。

 やってきたのはエイニアさんという、レビン村に住む未亡人だ。

 七年前に魔物との戦闘で旦那さんを亡くし、ずっと一人で頑張っている人である。

 年齢はまだ二十九歳だったかな。

 ニワトリをたくさん飼っていて、たまに砦にも卵を売りに来てくれるのだ。

 のぞき窓から顔を出すと、エイニアさんはあでやかな笑顔を俺に向けてきた。


「こんにちは。今日も卵を買ってもらおうと思ってやってきました」


 田舎では物々交換が多い。

 だが、砦に来れば現金に換えられるので、こうして10キロメートルもの道のりを歩いてくるのだ。


「暑い中を大変でしたね。すぐに門を開けますから、どうぞお入りください」


 俺は心の中でエイニアさんの入城を許可した。

 とんでもチートのサインペンで名前を書いて以来、そうしなければ誰も入ってこられなくなってしまったのだ。

 もちろん隊員やファーミンは自由に出入りができるようにしてある。

 ちょっと面倒だけど安全面を考えれば悪くない仕様だった。


「ふぅ、こんなに暑かったら卵がヒヨコになってしまいますよ」


 卵の入った大きなかごをおろすとエイニアさんはハンカチで額の汗を拭いた。

 胸元が大きく開いた服を着ているで豊かな胸の谷間が丸見えである。

 エイニアさんは美人かつ色っぽいので求婚する人が後を絶たないらしいが、ずっと独り身を貫いている。

 涙ボクロのある憂いに満ちた瞳、ぽってりと厚いくちびる、胸も尻も肉付きがよく、性格だって優しいから、求婚者たちの気持ちはよくわかる。

 ただ、俺にとっては運命の人ではない気がしている。

 おそらくエイニアさんとキスをしても異世界転移は起きないだろう。

 それは感覚としてわかるのだ。


「卵は何個ありますか?」

「今日は四十個持ってきましたけど、お買い上げいただけますか?」

「ぜんぶもらいましょう」


 うちはよく食べる隊員たちがそろっているので、それくらいすぐになくなってしまうのだ。


「メーリア、支払いを頼む」

「はっ!」


 会計はしっかり者のメーリアに任せてあるのでお金を取りに行ってもらった。


「こちらの畑も立派になりましたねえ」

「土魔法を使える隊員がいるので助かっています」


 オートレイの魔法だけでなく耕運機なども活躍しているのだが、それは内緒だ。

 また、土や肥料も日本のものを使っているから野菜の出来は最高である。

 さらに、たまにではあるが超促成チートがついた苗も入ってくる。


「本当に立派なナスですこと」

「…………」


 わかっている、俺はバカだ。

 だが、微笑みながらナスをつつく未亡人がエロく見えて仕方がない。

 俺は内心を隠すように咳ばらいをひとつした。


「よかったら少しお持ちになりますか?」

「よろしいのですか?」

「たくさんありますから、遠慮しないで持っていってください」


 収穫した野菜はファーミンによって既に鑑定済みである。

 エイニアさんに渡しても問題はなかろう。


「それじゃあ、このナスとキュウリとズッキーニをいただいていこうかしら。うふふ、本当におおきなおナス……」

「…………」


 わかっている、俺は大バカだ!

 自分の頭を軽く殴ってから、俺はエイニアさんのかごに野菜を入れた。



 それから数日して、またエイニアさんがやってきた。

 卵は買ったばかりなのにどうしたというのだろう?

 隊員たちは遺跡に行っており、本日の留守番は俺とファーミンである。


「こんにちは、エイニアさん。今日もなにか売りに来てくれたのですか?」

「そうではありません。あの、神官さまはいらっしゃいますか?」


 ファーミンを訪ねてきたのか。

 顔色が悪いけど、なにかあったのだろうか?

 きっと悩み事を打ち明けに来たのだな。


「神官さんならお部屋にいますよ。どうぞお入りください」

「ありがとうございます……」


 エイニアさんは俺の目を避けるように行ってしまった。

 神官というのは村人にとっては心のよりどころである。

 エイニアさんに限らず悩み事を相談する村人はよくいるのだ。

 エイニアさんは独り暮らしが長いので、寂しく思ったり、不安を感じたりすることも多いのだろう。

 今日は美味しい紅茶とクッキーがあるから持って行ってあげるとするか。


 キッチンで二人分の紅茶を淹れてから、俺はファーミンの部屋を訪ねた。

 おや、話し声が聞こえるぞ……。


「神官さま、私は罪深い女です。神様はこんな私を許してくださるでしょうか?」

「ですから、あなたの罪とはなんなのですか? さっきから言い淀んでいるようだが……」


 ふむ、エイニアさんは罪の告白をしに来たんだな。

 これも村人によくある話だ。

 もっともレビン村は平和だから、とんでもない告白はほとんどない。

 せいぜい、隣の畑の作物を勝手に食べてしまったとか、隣の奥さんをエッチな眼でみてしまったとか、酒を飲んで夜のお祈りを忘れてしまった、といった類のものばかりである。

 だが、告白の最中に入室するのはよくないな。

 俺はドアの前でエイニアさんの告白が終わるのを待った。


「私、とんでもない罪を犯しました」

「人は誰でも罪を犯します。そんなに気にしないで」

「でも、私、隊長さんにいただいた野菜で……」

「野菜がどうかしましたか?」

「じつは…………」


 エイニアさんが声を潜めたので、具体的になにをしたかは聞き取れなかった。

 だが、ファーミンが狼狽している雰囲気はドアのこちら側にも伝わってきているぞ。


「お許しください、神様! でも、このナスは今まで使ったどんなものよりもすごい快感を与えてくれたのです。私は悪魔に憑りつかれてしまったのでしょうか!?」


 エイニアさんがさめざめと泣く声が聞こえる。

 本当に恐れているようだ。


「つかぬことをうかがうが、このナスがそれなのですか?」

「そうです。あ、きちんと洗ってきましたので……」

「ふむ」


 室内でファーミンの魔力が動くのを感じた。

 きっと鑑定魔法を使っているのだろう。

 しばらくしてファーミンの声が聞こえてきた。


「安心してください。あなたは悪魔に憑りつかれてなどおりません」

「本当でしょうか? ですが、昨夜の私は乱れに乱れ、夜が明けるまでこのナスを使って……」

「あ~、それはナスのせいです……」

「この……ナスが……?」


 まさか、そういうチートがついてしまったのか!

 だけど俺はちゃんと鑑定済みのカゴから野菜を渡したはずだぞ。

 ひょっとして、鑑定漏れ……?

 まあ、野菜は大量にあったもんな。

 一つくらい忘れても仕方がないか。


「でも、どうしてこんなナスが私のもとに来たのでしょう……?」

「あ~、それは……いつも頑張っているあなたに神様がご褒美をくれたのでしょう」


 苦しい!

 苦しすぎる説明だぞ、ファーミン!!

 だが、エイニアさんは納得してしまったようだ。


「ああ、神様、感謝いたします! あの人が死んでしまってから、私はずっと寂しい思いをしてきました。神様はそんな私を憐れに思召してくださったのですね」

「たぶん……」


 たぶん、って……。


「それでは、今日もこのナスを使ってもよろしいのでしょうか?」

「う、うむ、いいんじゃないかなぁ~……」

「よかった……」

「あ~、ただ、それがもたらす快感の効力はしなびるまでです。ナスの張りがなくなったらもう使えないから、食べるなり捨てるなりしないといけませんよ」

「ということは、長くて後五日から六日ですね……。悔いが残らないようにいたします」


 寂しそうだけどエイニアさんはきっぱりとそういった。

 きっと、残された日をフルに使って楽しむのだろう。

 丹精込めたナスだから人の役に立つのは嬉しい。

 うれしいけど……。

 いや、これ以上考えるのはやめよう。

 俺は紅茶の載ったお盆を手にしたまま回れ右をして引き返す。

 どんな顔をしてお茶をだしていいかわからなかったのだ。


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