クロマグロ!?
日本で買ったアウトドアギアを装備して、遺跡の探索に出かけた。
本日のメンバーは俺、メーリア、リンリ、ディカッサ、アインの五人だ。
日々着実にマッピングしているので俺たちの探索速度はかなり上がっている。
また隊員たちのレベルも上がり、日を追うごとに少しずつ奥地まで進めるようになってきた。
今日は未踏破の場所をかなりの深度まで探る予定である。
「全員、くれぐれも無理をしないように」
いちおうここも砦の内部なので、いざとなれば日本へ逃げることもできるが、戻ってくるのもキスをしたポイントになってしまう。
レベルアップに慢心することなく、慎重にやるとしよう。
昨日手に入れたヘッドランプはとても有効で、俺たちは楽に敵を倒しながら遺跡を進んだ。
途中で休憩を入れ、いままで来たことのない場所に突入する。
そして、開始からそろそろ二時間を超えようというころ、メーリアが小さな看板を発見した。
よくぞここまでたどり着いた、我が同胞よ。
約束のご褒美の一つがこの先にある。
魔物の出ない安全地帯になっているので、心行くまで楽しんでくれ。
天空王
普段は生真面目なメーリアにも笑顔がこぼれた。
「ついに来ましたね、隊長。いったいなにがあるのかしら?」
「金銀財宝か、はたまたレアアイテムかなにかかな?」
「とにかく行ってみましょう」
ワクワクしながら50メートルほど歩くと、そこは大きな空間になっていて、部屋の真ん中に小さな池があった。
池と言っても、一周25メートルほどの水たまりだ。
この部屋に魔物の気配はない。
書いてあった通り安全地帯なのだろう。
池のほとりには、またもや看板が設置されている。
『釣り堀 天ちゃん』
「釣り堀というからには、魚が釣れるのだろうなあ……」
リンリが部屋の隅で竿を見つけてきた。
「隊長、これ、使えそうですよ」
古い竹竿である。
釣り針は錆びていないようだが、本当に使えるのだろうか?
糸も劣化していないようには見えるな……。
「やるだけやってみましょうよ」
リンリに言われて、弁当のおかずのチキンソテーを削いで餌として釣り針につけてみた。
「こんなので釣れるのか?」
物は試しと投げてみたが、一分ほどでアタリがあった。
クンクンと魚が餌をついばんでいる感触だ。
やがてガクンと大きな引きがきたので、それに合わせて俺は竿を立てる。
「これは大きいぞ!」
とてつもない手ごたえを感じながら俺は糸を引き寄せた。
そしてついに魚が水の上に出たその瞬間。
ブチンッ!
釣り糸は音を立てて切れてしまった。
「あ~、残念。きっと道具が古すぎたんですね」
メーリアが慰めてくれたが、俺はそれに答えられないほど驚愕していた。
だって、いまの魚はどう見てもマグロだったから……。
サイズは小さいけど、あれは間違いなくクロマグロだった。
ガキの頃は友だちと堤防まで釣りに行っていたので、魚のことはある程度知っているのだ。
「…………」
「どうしたのですか、隊長? 急に黙り込んで」
「キスの順番はメーリアだったよな?」
「そうですが?」
「いますぐキスしてくれないか?」
「きゅ、急にそんな……」
いきなりキスをせがまれてメーリアは照れている。
「悪いが、実家に戻って自分の釣道具をとってきたいんだ。みんなはしばらくここで待っていてほしい」
釣り堀の周辺は安全地帯だ。
また、遺跡内であってもキスをすれば異世界転移できること、日本でキスをすればキスをした遺跡内に帰ってくることも実験済みである。
少しの間、他の隊員たちをここに置いていっても問題はないだろう。
俺の意を受けてメーリアはすぐに近づいてきた。
「承知しました。みんなは向こうを向いていてくれるかな? 見られると恥ずかしいから……」
メーリアの言葉に隊員たちはこちらに背中を向ける。
俺はそれを確認してからメーリアとキスをした。
実家に戻ると倉庫で自分の釣り道具を探したが、どれもすぐに見つかった。
古いギアばかりだけど、手入れだけはしてある。
池の横にあった竹竿よりはましだろう。
竿と仕掛けの入ったケースを肩にかけ、台所でクーラーボックスに氷を詰めていると、メーリアが荷物を半分持ってくれた。
「ずいぶん変わった釣り道具ですね」
「向こうのものとはだいぶ違うだろう?」
レンブロ王国にもリールはあるようだが一般的ではないらしい。
だが、リールは絶対に必要だと俺は踏んでいる。
『釣り堀 天ちゃん』は小さいけど、作ったのはあの天空王だ。
海の魚がいるへんてこ池である。
おそらく水はかなり深いだろう。
リールで糸を伸ばしていろいろな水深を探れば、それに応じた魚が釣れると思うのだ。
「よし、準備完了だ」
「帰りますか?」
メーリアが一歩俺に近寄りニコニコしながらキスを待っている。
とても生真面目なんだけど、こうして俺に尽くしてくれる優しい女性だ。
そんな人を、俺の趣味のためにまた異世界転移を付き合わせてしまったな。
「メーリア、いつもありがとう。感謝しているんだ」
「ど、どうしたのですか、突然?」
「大切な気持ちだから……。言葉にしなければ伝わらないだろう?」
はにかんだ笑顔を見せながらメーリアは言う。
「いいんです。私は隊長とキスをするたびに喜びを感じていますから……」
「俺もだよ」
「へっ?」
それ以上は俺も照れくさくて、言葉は継がずにくちびるを重ねた。
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