ワクワク鑑定大会
砦に戻って、みんなに荷下ろしを手伝ってもらった。
「あらリンリ、顔色が悪いわよ」
治癒士のアインがリンリの顔を覗き込んでいる。
最近のアインは治癒士としての自覚がさらに強くなったようだ。
治癒魔法の上達だけでなく、こういうふうに隊員の様子を見る観察眼が身についてきている。
もっとも、どうしてリンリの顔色が悪いのかは言えないけどな……。
持ち帰った品物をさっそく鑑定してもらうことにした。
他の隊員たちもワクワクした顔でファーミンを見守っている。
「量が多くてすまないが頼むよ」
「さすがにすべてを一日で終わらせられる量じゃないな。三~四日かかってしまうと思うが構わないか?」
鑑定魔法は多くの魔力を必要とするのだ。
魔力切れを起こせば回復には時間がかかってしまうので無理はさせられない。
「もっとゆっくりでも大丈夫だ。のんびりやってくれ」
広間のテーブルに買ってきたアイテムを並べて鑑定会がはじまった。
やはり、すべてのアイテムに特殊効果がついたわけではなかったけど、有用そうなのも混じっていた。
ヘッドランプを鑑定していたファーミンが俺に笑顔を向けた。
「これはなかなかいいぞ」
「特殊効果がついたのか?」
「ああ、光魔法だ。殺傷効果はないが遺跡の中では有効な武器になるだろう」
ヘッドランプについていたのは光魔法の閃光という効果だった。
普段は普通のヘッドランプとして機能するのだが、敵に向けて魔力を込めて使うと目つぶしの効果がある。
ファーミンは壁に向けて閃光を試してくれた。
人間で試したら失明の恐れがあるくらい強烈な光だからだ。
「いくぞ」
強烈な光が砦の壁を白く染めた。
「おお! これは使えるな。前衛の俺かリンリが装備すれば強力な武器になりそうだ」
これにはリンリも喜んだ。
「視力に頼る魔物や人間が相手なら、あまりのまぶしさに動きを止めずにはいられませんね。怯んだところに必殺の一撃をいれてやりましょう!」
スタン効果のある武器が手に入ったのはかなりありがたかった。
その後も鑑定はすすみ、次にファーミンが手を止めたのは食料品の鑑定をしているときだった。
「これは……」
ファーミンが持っているのはドライフードの牛丼の具だ。
お湯をかけるだけで温かい牛丼の具ができるという便利アイテムである。
これをご飯の上にのせれば美味しい牛丼になる。
探索の荷物は軽い方がいいと思って買ってきたのだが、これにも特殊効果があったか。
「なにかあるのか?」
「うむ、飛べるようだ」
「はっ?」
「鑑定によると、あまりの美味しさに飛べるらしい」
なんだそりゃ?
もともと美味しいのは知っていたが、特殊チートでそこまでなるのか!
ファーミンは説明を続ける。
「飛行可能時間は全部食べれば十五分。食べた分量に応じて飛行時間が変わる。ちなみに、食べた瞬間に5センチメートルほど地上から浮き上がるようだ。念ずれば高度や移動も可能になるぞ」
「移動速度は?」
「そちらは走る速さくらいのようだ」
なんともおもしろいアイテムだな。
残念なのは、今後この牛丼の具を買えっても、いつも同じ効果がつくわけではないというところだ。
「おもしろそうだから、みんなで食べてみるか? 味も効果も気になるぞ」
こう提案したのだが、隊員たちに止められてしまった。
みんな、いざというときのために取っておこうと言うのだ。
賞味期限も長いことだし、慌てて食べなくてもいいか。
俺も納得して、続く鑑定を見守ることにした。
次にファーミンが特殊効果を見つけたのは布テープだった。
段ボール箱の梱包などに使うあれである。
「これは便利だな」
「うん、それは知っている」
布テープは応用範囲が広い。
梱包作業はもちろん、傷の止血、火をつければ燃料としても優秀だ。
だが、ファーミンはそれだけではないという。
「この布テープは拘束用具として使える」
「たしかに、強盗なんかがこれを使って押し入った家の人を拘束したなんて事件を聞いたことがあるな」
「そんな単純なものじゃない。これで両手首か両足首を縛ると四肢の力が完全に抜けてしまうのだよ。動かせるのは首から上だけになってしまうようだ」
「それはすごいな!」
「もっとも、手や足のない魔物には効かないらしい」
それでも便利なことは間違いないだろう。
職業柄、俺たちは盗賊などを捕縛することだってある。
そんなときは活躍してくれそうだ。
「ちょっと実験してみるか?」
「小官が志願いたしますっ!!!!」
真っ先に大声で反応したのはリンリだった。
その頬は期待で薔薇色に輝いている。
スリーパーホールドをくらって、さっきまで青い顔をしていたのに……。
だが、君以上の適任者を俺は知らないよ。
「やってくれるか?」
「よろこんで!」
腹パン、締め技ときて、今度は拘束か?
リンリは次々と新しい扉を開いていくな。
展開が速すぎて、俺はとても追い付けないよ……。
「では、両手を前に出してくれ」
布テープを一周させて、付きだされた両手首を軽く固定した。
すると、それだけでリンリは動けなくなってしまったではないか。
「おっと!」
力が入らずに倒れそうになったリンリを抱きとめて、その場に寝かせた。
「本当に動けないのか?」
「はい、まったく動けません。こんな無防備な状態……、考えただけでゾクゾクします!」
ずいぶんと元気だな。
ディカッサが寝ているリンリに近づき、いきなり脇をくすぐりだした。
「なにをするの?」
「くすぐったい?」
「うん、感覚はある。でも、体は動かないよ」
リンリはくすぐられても、あまり感じない体質らしい。
「おもしろいわね。もっと刺激を与えたらどうなるのかしら? それでも動けないのなら本物ね」
顎に指をあてながらディカッサはなにごとか考えている。
きっと、ろくでもないことだろう。
「隊長、リンリの腹を殴ってください」
やっぱり、ろくでもないことだった。
「拘束された人間に暴力をふるうなんて卑怯な真似ができるか」
「これは実験です。それに、リンリにとってはご褒美です」
そうかもしれないけどさ!
俺の気持ちも考えてほしい。
だが、リンリまで哀れな声を出して哀願してきた。
「憐れな実験動物にお情けをぉ……」
「いや、だけど……」
ディカッサも俺を説得にかかる。
「これは大切な実験です。拘束された人間が本当に動けないのかを見極めなければ、安心してアイテムを使うことができません」
「ああ、わかった、わかった」
まったく、なにをやらされているんだ、俺は?
「軽くだからな」
利き腕じゃない左拳を使って本当に軽くパンチを繰り出した。
「のっほぅ!」
リンリは顔を左右に振って喜んでいる。
だが首から下はまったく動かず、息を荒げているだけだ。
「これ、もう少し強かった確実に漏らしていました……」
「わかったから、もうガムテープは取ろうな」
「いや!」
リンリは激しく首を振って拒否する。
「だったら放置プレイだ」
これ以上は付き合いきれないので、俺はその場から離れた。
「冷たい隊長……、嫌いじゃない」
いつまでそうやっているつもりだろう?
無防備な姿をさらしているというのに、本人も周りの隊員たちもたいして気にしていない。
俺は気を取り直して、ファーミンに次の鑑定を促した。
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