状態保存
砦に戻ると隊員たちは遺跡から帰ってきていて、俺たちを待っていた。
屈託のない笑顔で問いかけてくるメーリアに俺はしどろもどろになってしまう。
さっきまでオートレイとあんなことや、こんなことをしていたのだから仕方がない。
「遅かったですね」
「ああ、看板の設置にちょっと手間取った」
やっぱり本当の理由は言えないよな。
俺とオートレイのただならぬ雰囲気はすぐにばれそうだったが、それを救ってくれたのはディカッサだった。
「大変なことがわかりました!」
ディカッサは俺たちの態度など気にも留めずに興奮している。
他の隊員たちも同じような感じで、ただならぬことが起きたのがわかった。
「どうしたんだ?」
「例の空き缶ですよ!」
「空き缶というと、アインの焼いたクッキーを入れていたやつか?」
母さんが日本から持たせてくれたものだな。
あのとんでもない夜に、催淫クッキーは隊員たちですべて平らげてしまっている。
いまはもう空っぽでキッチンのどこかに置いておいたはずだ。
ディカッサが説明を続ける。
「遺跡の探索はお腹が減ります。ですから、本日はアインが焼いたパンを缶に入れて持っていきました」
「まさか、そのパンを食べてムラムラしたのか?」
「違います。おやつに食べたパンが温かかったのです」
だからどうしたというのだ?
「焼きたてのパンを持っていったのだろう? だったら少しくらい温かくてもおかしくないじゃないか」
「少しくらいなんてもんじゃありません。時間がなかったので、すぐに缶に詰めたのですが、焼きたての風味そのままでした。温度も熱いくらいだったのです」
どういうことだ?
焼きたてのものを缶に詰めたら普通は湿気がこもってしまうはずである。
それなのに風味がそのままだっただと?
興奮しているディカッサの後を継いで、ファーミンが説明してくれた。
「さすがにおかしいと思って私が鑑定をしたよ。すると、とんでもなことがわかった。なんと、この缶には物質の状態を保存する力があったのだ」
「おお!」
またとんでもないチートがついたな。
空き缶のサイズは35×40×20で容量は大きくない。
だが、状態保存となるとアーティファクト級のアイテムだぞ。
「状態保存って、どれくらいの期間可能なんだ」?
「百年でも二百年でもだよ」
とんでもないアイテムだが、ものが小さいだけに使いどころが微妙だな。
経年劣化させたくない品を入れておけばいいのだろうけど、パッとは思いつかないぞ。
俺が考え付くのなんてぜいぜい、お弁当を入れておけば出来立てを食べられていいな、くらいである。
それと、非常食を入れておけば一生安心かな?
日本でも保存技術が進んで、七年保証、なんならもっと長持ちする防災食料を売っているのは知っているけど、それらの商品が裸足で逃げ出すレベルだぞ。
「とりあえずこれは、みんなのお弁当箱にしよう」
そう提案するとディカッサが呆れた顔をした。
「こんなすごいアイテムをランチボックスにするのか?」
「だって、他に用途を思いつかないからさ。有効利用するにはこれがいちばんだと思ったんだよ。もっといいアイデアがあれば採用するぞ」
けっきょく、空き缶はお弁当箱として活用されることになった。
ところで、防災バッグっておもしろそうだな。
ああいった品々って遺跡の探索に役立ちそうな気がするんだよね。
べつに防災バッグにこだわっているわけじゃない。
登山やキャンプなどのアウトドアグッズだっていいんだ。
それに、こちらに持ってきたらおもしろい特殊効果がつくかもしれない。
明日はそういったものを買いに行こうと決めた。
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