ネガティブなオートレイ
楽しい毎日が続いていた。
国境に異常はなく、ここのところは魔物の気配すらない。
俺たちは畑作りや料理、異世界転移に精を出す日々だ。
もちろん地下遺跡の探索もしている。
砦を無人にするのはよくないので、遺跡には五人チームで入ることにした。
二人は居残りだ。
滅多にないことだけど、レビン村から救援要請が来ることや、来客だって考えられるからである。
隊員たちは少しずつレベルがあがっている。
俺とファーミンはまだだけど、これは仕方がないだろう。
俺たち二人は元の戦闘力が高い。
遺跡の奥まで行って強敵を討伐すればいいかもしれないけど、隊員たちに無理をさせるわけにはいかないのだ。
少しずつやっていけばいいと思う。
いまのところ天空王のご褒美は見つけていないけど、それだっていずれは回収したいものだ。
ご褒美は複数あるようなので、それを励みに頑張っている。
本日の居残りは俺とオートレイで、他の隊員たちは地下遺跡へ行っていた。
「しっかり支えていてくれよ」
「死ぬ気で支えますので、思いっきり打ち込んでください」
『これより先、カトリ領』
俺たちは領地の境界に看板を設置しているところだ。
オートレイが支える杭を俺が大木槌で地面に打ち込んでいく。
こうしておけば、ここが誰の領地かわかりやすくなるというわけだ。
「ふぅ、これでよし、と!」
「これで、ここがどこかわかるようになりましたね、隊長。あ、よく考えたら、もう隊長はおかしいです。ご領主さまか、カトリさまと呼ばないと」
「そう言われても、ピンとこないな。今まで通り隊長でいいよ。ふぅ、暑い、暑い」
季節は夏真っ盛りで、少し運動をしただけで汗をかいてしまうくらいだ。
俺は大木槌を傍らに置いて軍服の上を脱いでTシャツ姿になった。
山から吹き下ろす風が汗にぬれた体をクールダウンしてくれる。
「わ、私も上を脱いで、よろしいでしょうか?」
「そんなに気を使わなくてもいいんだ。それくらい好きにすればいい」
オートレイはいまだに他人行儀なところがある。
というか、やたらと他人に気を使ってしまうのだろうな。
俺の了解を取ってから、オートレイも上着を脱いだ。
「…………」
前言撤回だ。
他人に気を使うのなら、ダイナマイト級のボディーをこんなにも無防備に晒すはずがない。
俺が日本で買った黒いTシャツをオートレイは着ているのだが、素肌に直接着けているのでボディーラインがこれでもかというくらい、くっきりと出てしまっている。
しかも夏だから汗でぴったりと張り付いているのだ。
特にオートレイは大きいからなあ……。
それに、この世界の人はブラジャーをつけないので、もう大変なことになっているぞ。
俺もだいぶ慣れたけど、やっぱり目のやり場に困ってしまうな。
「あ~、暑い日が続きますね……。私は暑いのが苦手でして、その、胸もお尻も大きいのでとても蒸れるんです。谷間なんて汗がたまってしまって、もうベトベトです」
沈黙が苦手なオートレイが勢いよくしゃべりだした。
俺が黙ってしまうと不安になるようで、いつもこんな感じで話し続けるのだ。
いいかげん、慣れてほしいんだけどなあ。
「タオルならあるぞ。木陰で拭いてくるか?」
汗疹ができてしまっては厄介だろう。
だが、オートレイは手を振って断ってきた。
「それには及びません。私にはフンドシパワーがありますので!」
オートレイが持っているのは緑色のフンドシである。
そして、緑のフンドシの特殊能力は、どんなものでもきれいにしてしまうというものだ。
「ずっとフンドシをはいているのか?」
「はい、この通りです!」
オートレイはパンツのボタンを外して緑のフンドシを見せつけてきた。
「わざわざ見せなくてもいい!」
「あ、汚くないですよ。能力を使って清潔に保っていますからね。私の服や体も同じで、手をかざせばこの通り!」
オートレイが自分の顔を手でさすると、汗ばんだ肌がサラサラのスベスベになっていた。
「すごい能力だよなあ」
「夏場はとても便利です。どんなに汗をかいても、ひと撫ですれば臭いませんから」
そう言いながら、オートレイはTシャツの中に手を突っ込み、腋や胸などを直接なでまわしている。
うわ、下乳が見えたぞ!
「おい、俺の前でやらなくてもいいだろう」
「し、失礼しました。効果をご覧に入れたくてつい……」
しょんぼりとうなだれたオートレイを慌ててフォローした。
このこは気が弱いから、叱られるといつまでも引きずってしまうのだ。
「怒っているわけじゃないんだ。ただ、俺も男だからさ、そういうのを見せられると困るんだよ……」
「つまり、こんなブサイクな体は見たくないと……。はい、わかります……、はい」
ネガティブだなあ。
「そうじゃないって。オートレイはちっともブサイクじゃないぞ。顔も体も」
「慰めていただかなくてもいいんです! 自分のことはよく知っていますから」
「お世辞じゃないって」
「どうせ、私の裸を見たって、神官さまのときのようにアソコを大きくしてはもらえないんです。私なんて天空王の花嫁なんて柄じゃないし……」
「なんだと?」
「私なんて天空王の花嫁って柄じゃありません!」
「そこじゃない!」
いまオートレイはとんでもないことを言ってなかったか?
「神官さまのときのようにアソコを、ってどういうことだ?」
「っ!」
オートレイは怯えた目で俺の方を見上げた。
まるで、肉食獣に追い詰められた草食動物みたいに震えながら。
沈黙の数秒過ぎ、突然オートレイがその場に土下座した。
「申し訳ございません! 隊長室の洋服入れに隠れて覗いておりましたぁあああっ!」
どういうことだ?
たしかに、隊長室で俺とファーミンは互いを慰め合ったことがある。
うん、ソファーを使って、かなり官能的にやらかした。
だけど、扉にはきちんと鍵をかけておいたはずだぞ。
とにかく、深呼吸して落ち着こう。
「ふぅ……。なんでそんなことになったんだ?」
オートレイを怖がらせないよう、俺は優しい調子でたずねてみた。
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