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ディカッサと面談


 隊長室で待っているとディカッサ二等兵がやってきた。


「失礼します」


 冷たい印象を与える声である。

 身長は160センチメートルくらい。

 赤紫のストレートヘアを肩まで垂らし、目は切れ長で涼し気だ。

 警備隊の隊員の中ではいちばんの年長の二十五歳である。


「そこに座ってくれ。いまから面談を始める。君は攻撃魔法兵だったな」

「そのとおりです」

「どういった魔法が得意なんだい?」

「魔法はまったく使えません」


 俺の耳がおかしくなったんじゃないよな?

 飛距離7メートルの弓兵に続き、今度は魔法がまったく使えない攻撃魔法兵だと?

 頭が痛くなってきた。


「資料によると君はもともと補給大隊所属だったとあるが?」

「薬草の知識を買われ補給部隊に採用されたのです」

「なるほど。薬草の知識はどうやって身に着けた?」

「父が薬師でした」


 調薬ができるものは優遇される。

 それで補給大隊か。

 俺はディカッサの資料を読み進める。


「もともとは上等兵待遇で採用されているな。それなのに魔法兵部隊への転属を希望したのか。どうしてだ? 魔法は一切使えないのだろう?」

「知的好奇心です」


 ディカッサは恬として恥じるところがない。


「つまり自分の知的欲求を満たすために、魔法が使えないのもかかわらず魔法兵部隊に転属を願い出たのか」

「そうです」


 はっきり言いきっちゃったよ。


「自慢になってしまいますが、私の魔法の知識は非常に豊富です。アカデミーの学者にも負けないと自負しております」

「だけど、魔法を使えないんだろう?」

「前線に出て生命の危機に瀕すれば魔法が発動するかと思ったのです」


 その結果、自分だけでなく味方の生命まで危機に瀕したわけだ。

 魔法が使えないのに自己都合で魔法兵部隊に入るなんて身勝手すぎるぞ。

 サイコパスかよ。


「だが、どうやって転属できたんだ。入隊テストはあっただろう?」


 さすがに魔法が使えなければ入隊は認められないはずだ。


「賄賂をつかいました」


 すがすがしく犯罪を告白!

 こいつはまったく悪びれていない。


「ところで、隊長は異世界へ行けるそうですね」


 ディカッサは刺すような視線で俺を見つめてきた。


「メーリアに聞いたのか?」

「はい」


 口止めをしておかなかったのはまずかったかもしれないな。

 だが、この様子では小隊のみんなには話してしまったのだろう。


「このことは他言無用だ。砦以外には漏らさないでほしい」

「それは命令ですか?」

「そうだ、命令だ」


 なにがどう作用するかわからないのだから、用心するに越したことはない。


「命令とあれば守りますが、私もお願いがあります」


 さすがはサイコパス、交換条件を出してきたか。


「言ってみろ」

「私も異世界へ行ってみたいです」

「ふむ……。メーリア上等兵は異世界への行き方を話したか?」

「いえ、隊長に連れていってもらったとしか言っていません」


 さすがにキスの話はしなかったか。

 俺でも言いにくいもんなあ……。


「どうして異世界へ行きたい?」

「ひとつには好奇心です。自走する馬車とか世界の珍味を集めたマーケットとか、メーリアの話はあまりに突拍子もないものでしたが、不器用なあの子が嘘をついているとは思えません」


 ディカッサは好奇心が強いのだな。

 それで異世界を見てみたいのだろう。

 そしてもう一つの理由は――。


「君も異世界へ行けば能力を授かれると考えているんだね?」

「おっしゃるとおりです。あのメーリアの矢が飛ぶようになったのです。私も異世界へ行けば魔法を使えるようになるかもしれないじゃないですか」


 その可能性は大いにある。

 だけど、ディカッサとキスをすれば日本へ帰れるのかは不明だ。

 そもそも他の女性とキスをしても転移できるのか?

 こちらの世界に来てからは生きるのに必死で恋人を作ったことがない。

 だからメーリアとのキスが異世界では初めてだったのだ。


「私、異世界へ行くためならなんだってします。ご一考ください」


 なんでも……だと……?

 クールなディカッサがやけに媚びた目つきでお願いしてきた。

 目的のためなら手段は選ばないタイプかもしれないぞ。

 ということは、共通の利益のためにキスをしてくれるのかな?

 いやいや、こういう手合いの誘いに乗るのは危険だ。

 軽々しく考えるのはやめておこう。


「面談はここまでだ。リンリ二等兵を呼んでくれ」


次の奴はもう少しまともであってくれ、そう願いながら俺はディカッサの退出を促した。


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