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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第二部

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ファーミンが帰ってきた


 日本で外食をした日、俺はいろいろと考えて天ぷらの専門店へみんなを連れて行った。

 俺が大好きなことはもちろんだが、隊員たちの食の好みの傾向から考えて、おそらく全員が好きだろうと踏んだからだ。

 予想は的中して、隊員たちはすごく喜んでいた。

 ファーミンが帰ってきたら天ぷらパーティーの開催が決まったくらいである。

 アインは目を見開いて職人さんが天ぷらを揚げる姿を凝視していたなあ。

 砦で再現するつもりなのだろう。

 ものすごく見るから、職人さんも苦笑してたよ。


「外国人なんで珍しいんです。許してください」


 まあ、嘘は言っていない。

 それに、日本にいる間はレンブロ語で話すように取り決めていた。

 そうすれば、おかしな会話を聞きとがめられることもないからな。

 魔法や魔物、地下遺跡の話をしても、痛い子扱いされないのはありがたかった。



 監察官が帰ってから、俺たちは平和な日々を過ごしていた。

 国境に異変はなく、畑作りも順調だ。

 朝の見回りを終えると、俺は今日も地下遺跡の入り口までやってきた。

 ここのところ通路に彫られた天空王のレリーフを見て過ごすことが多い。

 紙芝居を見ているようでおもしろいのだ。


 まずは天空王が荒野に降り立つシーン。

 突然この世界に来て呆然としている様子が描かれている。

 よく見ると手にタオルを握っているぞ。

 だったらアソコを隠せよ、と突っ込みたくなるな。

 ひょっとしたら、このオッサンは風呂場で転んで異世界転移したのかもしれない。

 俺も玄関で転んでここに来たもんなあ……。


 次のシーンは天空王が両手で龍の首を掲げているシーンである。

 この地で暴れている龍の首を討ち取ったのだろう。

 天空王を取り囲むように民衆がひれ伏している。

 ひょっとして素手で龍を倒したとか?

 先ほどとは違い、服は身につけているけど、武器らしいものは持っていない。

 だとしたら、天空王はとんでもない戦闘力の持ち主だったことになる。


 続いてのシーンは天空王が病人を癒している場面だ。

 天空王が笑いながら病人の脚に手を当てている。

 歩けなかった人が歩けるようになったのか、天空王の傍らには杖が山のように捨てられているぞ。

 こいつは治癒魔法も使えたのだな。


 お次は灌漑用水路を整備している天空王の図だ。

 これは土魔法だろうか?

 周囲の畑には麦やら作物やらがいっぱい実り、人々が笑顔で収穫をしている。


 ようするに、この異世界人はとてつもない戦闘力と治癒をはじめとする多彩な魔法を持っていたのだろう。

 魔動波しかない俺とは大違いである。

 もっとも、俺には日本へ帰れるという能力があるか。

 隊員の力を借りなければならないとはいえ、これはとてつもない恩恵を俺にもたらしてくれている。


 レリーフの最後は大勢に看取られながら死んでいく天空王の図だ。

 この人は最後まで故郷には帰れなかっただろうな……。

 他人のことではあるが物悲しい気持ちになっていると、リンリが走ってやってきた。


「隊長、神官さまが帰ってこられましたよ!」

「おお、ついにか!」


 ファーミン帰還の知らせに、俺の心は一気に明るくなった。



 隊長室で再開したファーミンは、変わることなく元気そうだった。

 旅の疲れもほとんどないようだ。


「久しぶり。遠路たいへんだっただろう?」

「いやいや、早くここへ帰ってきたくて、ずいぶんと馬に無理をさせてしまったよ」


 本当はハグをしたかったけど、みんなの手前もあったので握手をするにとどめておいた。


「無事にマスクメロンを献上してきたぞ」

「ん? ああ、あれね!」


 そういえば、ファーミンは大神官長と国王にマスクメロンを献上しにいっていたんだったな。

 監察官やら地下遺跡やらに意識がいっていたから、すっかり忘れていたよ。

 だが、大神官長と言えば神殿の最高権力者だ。

 そんな大物にいきなり面会できるとは、ファーミンは特別なコネクションを持っているのだろうな。

 神殿におけるファーミンの地位は俺が考えていたより高いのかもしれない。


「まずは大神官長にお会いしてマスクメロンを献上したのだ。鑑定の結果も添えてな」

「うん、それで?」

「大神官長はマスクメロンをいたく気に入り、すぐに国王陛下に献上することとなったのだ。私も一緒に謁見したよ」

「とんでもねえな」


 この国のトップ二人に謁見したというわけか。

 庶民感覚ではありえない話である。


「陛下も褒めて下さり、例の話も決まった」

「例の話?」

「イツキを騎士にするという話だ」

「おお、そんなのもあったな」


 そのこともきれいに忘れていた。


「喜んでくれ。正式にイツキは騎士に叙任されたぞ」

「へ? 叙任の式典とかは?」


 普通は王の前に出て、肩を剣でペチペチされたりするんじゃなかったっけ?

 だがこの話をふると、ファーミンは気まずそうな顔になってしまった。


「あ~、それは省略だ。なんというか、ここは外れの地だし、王都へ戻るのも一苦労だからな……」


 ようするに面倒だから省かれたのだろう。

 だが、俺としてもその方がありがたい。


「いいよ、いいよ。身分と領地さえ認めてもらえれば。それで、この砦の扱いはどうなる?」


 そこがいちばん肝心なのだ。


「ここは正式にイツキの拠点となった。書類もあるぞ」


 ファーミンはでっかいハンコが押された書類を何枚も出してきた。

 それは騎士の叙任状、砦の譲渡証明書、領地を定めた書類などだ。


「領地は砦を中心に半径3キロメートルか。無駄に広いな」

「広くて悪いことはないだろう? イツキには引き続きこの地方の国境を守るように、という命令が出ている」

「やることは変わらないってことだな」

「そういうことだ。これまでは北部方面の軍人だったが、これからは国王直属になるという感覚で解釈すればいいだろう」


 給料もこれまでどおり支払われるそうだ。

 逆に言えば、騎士になっても給料は同じらしい。

 まあ、金には困っていないからいいけどさ。


「隊員たちの扱いは?」

「それはイツキたちで決めてくれ。軍籍を残してもいいし、カトリ家の家人けにんという登録でもいいだろう」


 それは追々決めていくか。


「ありがとう、ファーミン。いろいろと苦労をかけたな」

「私の受けた恩を考えれば、これくらいどうということはない」

「なにを言っているんだよ。お互い様だろう? でも、これで懸案事項が減ったな。身軽になった気分だよ」


 ここが自分の領地になれば、もう監察官の目を気にすることはない。


「これからは砦を好きに改装できるぞ。リフォームとか」


 聞きなれない単語に反応したのはディカッサだった。


「リフォームとはなんでしょう?」

「日本から資材をたくさん仕入れて、砦を快適にするのさ」

「たとえば?」


 それは……。


「屋根をふきかえたり、城壁を広げたり。あとは……風呂とか……かな……?」


 さりげなく本命を最後にぶっこんでやったぜ!

 べつにエッチなことなんて考えてないぞ。

 あったらいいなあ……、とそれくらいのレベルの話である。

 みんなで入りたいとか、洗いっこしたいとか、そんなことは微塵も考えていないからなっ!


「風呂とかプールとかシアタールームとかいろいろだよ。娯楽室をもっと充実させてもいいし、農地を広げるのもありだし、家畜を飼うのもいいな」


 せっかくの領地だ。

 ずっとこの地で楽しめるようにするのが大切である。


「ところでイツキ、私が正気を失っていたときに発した古代魔法言語のことだが……」


 ファーミンは襟を正して、話題を変えた。

 その表情はこれまでのような明るいものではなく、やや緊張をはらんでいる。


「なにかわかったのか?」

「うむ。ひょっとすると大変なことになるかもしれない」


 俺はゴクリと唾を飲み込み、ファーミンが話すのを待った。


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