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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第二部

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監察官とグレンヒルの鬼


 アイテムを地下の遺跡に隠して三日が経ったけど、監察官はまだやってきていなかった。

 一同のフラストレーションは溜まっている。

 監察が終わるまで日本の道具は使えないので、不便な暮らしを強いられているからだ。

 こう言っちゃなんだが、早く来てほしい気持ちでいっぱいだ。

 レンブロ王国軍の中にあって、監察官の到着を待ちわびている軍人なんて俺たちだけだろう。


 昼近くになったころ、塔の上で見張りについていたリンリから無線連絡が入った。


「隊長、それらしいのが来ました!」


 報告を受け、俺は塔へと走り目を凝らした。

 それらしい人影はない。


「どこだ?」

「いまは丘のかげです。ほら、出てきました」


 俺はポケットから双眼鏡を取り出した。

 もちろんこれも日本から買ってきた品物だ。

 本来の倍率は六倍だけど、異世界転移チートのおかげで6~40倍まで切り替えられるようになった。

 それだけの機能なら日本で売っている粗悪品にもある。

 だが、これのすごいところは、倍率が上がっても映像が鮮明なままのところだ。

 普通は画像が暗くなったりするのだが、そんなことはまったくない。


「監察官でしょうか?」

「間違いない。腕の立ちそうな従者を二人連れているし、紋章入りの軍旗も掲げている」


 帽子を目深にかぶっているので監察官の顔は見えない。

 だが、がっちりした体格をしている。

 監察官は少人数で行動するので腕の立つものが多い。

 さもなければ魔物や山賊に対抗できないからだ。

 この人もきっと強いのだろう。


「いよいよ、来ましたね。出迎えますか?」

「もう少し近づいてからでいいさ。向こうは抜き打ちの監察に来ているんだ。少しくらい慌てた演技をした方がいいだろう」

「演技なんて、私にできるかなあ?」


 格闘センスは優れているけど、リンリには不器用なところがある。

 でも、それがチャームポイントだったりもするんだよな。


「リンリは普段通りにしていてくれればいいんだよ」


 無線で隊員たちに監察官到着を知らせておくか。


「監察官御一行が到着だ。無線機を隠してくれ。打ち合わせ通りに頼むぞ」


 俺は彼らを出迎えるためにゆっくりと階段を下りた。



 監察官たちが到着する少し手前で門を開けて、出迎えに外へ出た。


「軍務、お疲れ様です。第184番砦隊長のイツキ・カトリです」


 敬礼すると、監察官が声を上げた。


「こいつは驚いた。グレンヒルの鬼がこんなところにいるとはな!」

「え?」


 嬉しそうに声を上げながら監察官が帽子を脱ぐ。


「ひょっとして、ログリー大尉ですか?」

「いまは昇進してログリー少佐だよ」


 前髪が少々後退していたが、それは俺もよく知る人物だった。


「これは失礼しました。どうぞお入りください、少佐」

「うむ。腹が減ってかなわん。なにか食わせてくれ」


 ログリー少佐とは前線で同じ部隊にいたことがある。

 いわゆる同じ釜の飯を食った戦友というやつだ。

 監察がどうなるかと緊張していたけど、昔馴染みが来たので肩の力が抜ける思いだった。



 全員が食堂にそろい昼食となった。

 本日のメニューはジャガイモの茹でたのにバターを添えたもの、チーズ、固いパン、以上である。

 少佐はジャガイモをつつきながらため息をつく。

 

「ろくなものを食っとらんな」

「配給が滞っているんですよ。士官用のワインなんて一度も届いたことがないんですから。少佐からも本部に言ってください」

「わかった、わかった。俺からも口添えしておく」

「お願いしますよ、本当に」


 俺と少佐の打ち解けた様子を見て、メーリアが意外そうな顔をしている。


「お知り合いなのですか?」

「カトリとは同じ戦場にいたのさ。こいつには何度も命を救われている」


 それは事実だ。

 ロブリー少佐は熱くなると突っ込む癖があって往生したものだ。

 悪い人じゃないんだけどね。


「先ほどおっっしゃっていたグレンヒルの鬼というのは、隊長のことですか?」

「なんだ、自分の隊長のあだ名も知らんのか?」


 ナプキンで口の端についたバターを拭って、ロブリー少佐はしゃべりだした。


「グレンヒルというのは二年前の大戦における激戦区の一つだ。俺たちは一万、対して敵は三万の魔物、そんな絶望的な戦場だったのさ。まあ、逆境を跳ね返して俺たちは勝利したがな。わが軍では伝説になっている一戦だぞ」


 三万は盛りすぎである。

 敵の数はせいぜい二万くらいのものだった。

 それでも、彼我の戦力差がとんでもなかったことは事実だ。


「カトリに初めて会った日のことは今でも覚えているよ。あの日、俺たちの隊はかなり攻め込まれていたんだ」

「激戦続きで、みんな疲弊していましたからねえ」

「そうだったな。そこへきて大型のサイクロプスが後方から現れたもんだから、これはいよいよ詰んだかなと、誰もが絶望したもんだよ」


 リンリがゴクリと唾を飲み込みながら問いかける。


「そ、それでどうなったんです?」

「サイクロプスは巨大な丸太をブンブンと振り回して、兵たちを一撃のもとに葬り去っていったんだ。そのときの指揮官はかなり勇猛な人だったが、さすがに撤退を命じようとしていたな。だがそのとき、ただの一兵卒が突進し、たった一人でそのサイクロプスを撃破したんだ。それが、このイツキ・カトリだったのさ」


 隊員たちから尊敬のまなざしを受けるのは悪い気分じゃなかった。


「あのときは必死でしたからね」

「だが、あれで完全に潮目が変わったよ。魔物たちは総崩れ。勢いに乗った俺たちは大勝利を得たんだ」


 この世界にやってきたばかりで、軍以外に行き場がなかったからなあ。

 いまにして思えば、けっこうな無茶をやったものだ。


「カトリはあの出来事で一気に出世したんだよな?」

「二等兵からいきなり伍長になりましたね。おかげで美味い飯が食えるようになったのを覚えてますよ」

「あのまま前線にいたら、いまごろ追い抜かれていたかもしれないな」

「かもしれませんね。勲章なんかジャラジャラさせちゃって」


 俺たちの会話を聞いてメーリアが不思議そうに質問する。


「隊長はどうして前線を離れたのですか? それだけ優秀な人材なら指揮官だって手元にとどめておきたいと思いますが」


 ため息交じりに答えたのはログリー少佐だった。


「出世が早すぎて、名家の若造どもに嫉妬されたのさ」

「どんな激戦でも俺がなかなか死なないもんだからさ、少尉になった時点で中央の連隊に移されたんだ。これ以上、階級を上げてほしくなかったんだろうなあ」


 庶民出の俺に命令されるのが相当嫌だったらしい。


「ところで、どうしてお前さんがこんな辺境の砦にいるんだ?」

「中央でもいろいろとありましてね。けっきょく、ヒープ家のお坊ちゃんといざこざを起こしてしまったんですよ」

「どこにいても出る杭は打たれる、ということか。カトリはもう少し処世に長けていると思ったんだがな」


 そんなことを言われても俺は肩をすくめるしかない。


「なに、俺には田舎暮らしが性に合っているようです。今の暮らしは気に入っていますから」

「かわいい部下に囲まれているしな」


 ログリー少佐は意味深長な目つきで隊員たちを見回した。


「ま、まあ……」

「おい、手を出していないだろうな?」

「そんなことはありません」


 いまのところはね……。

 ていうか、あちらからのアピールがものすごいのだ。

 たとえそうなっても、俺だけの責任にしないでほしい。


「まあいい。カトリには何度も命を救われているからな。監察の評価は望むままだが、どうする?」

「可もなく不可もなく、ってことにしといてください。これ以上目立つのはごめんですよ。降格されなければ、それでじゅうぶんです」

「わかった」


 昼飯を食べ終わると、少佐はぐるっと砦を一周しただけで帰ると言い出した。


「泊まっていってもらってもかまいませんよ」

「やめておこう。ここにいたって碌なものが食えないからな」


 本当は珍しい食材がたくさんあるのだけど、秘密にしておいた方がいいのだろう。

 出立するログリー少佐を見送って、俺たちは大きなため息をついた。

 これでようやく元の生活に戻れるのだ。

 だが、その前にやることは多い。


「さて、倉庫にしまったアイテムを戻すか」

「はい、フンドシをはいてまいります!」


 メーリアが元気に宣言している。

 それを言われると、メーリアの青いフンドシ姿を思い出してしまうんだよな……。

 可憐だけどエッチだった。

 瞼の裏に焼き付いているその姿を思い出して、俺は自分を奮い立たせた。


「それじゃあ、一気にやってしまうぞ!」

「はいっ!」


 青い空の下、隊員たちの元気な声が響いた。


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