地下倉庫の奥で
砦に戻ると、隊員たちを広間に集めて対策を話し合った。
「というわけで、近々監察官がやってくると思う」
「具体的に、いつくらいなのでしょうか?」
生真面目なメーリアが質問する。
「そこまでは、わからん。早ければ今日かもしれないし、今月中とも言える」
村長さんは監察官の情報をロファットの町長さんに聞いたと言っていた。
ロファットはレビン村から50キロメートルくらい離れている。
途中にいくつか町村があるけど、そろそろこの辺りまでやってきてもおかしくない。
「問題は異世界の品々をどうやって隠すかだが……」
ディカッサが手を挙げて意見を述べる。
「自動車に積み込んで森の中に隠すというのはどうでしょう?」
「それはなあ……」
軽トラの荷台は雨ざらしになってしまう。
シートをかけるという手もあるが、横から水が浸透してしまうことも考えられるのだ。
「それに、魔物が来たらどうする? 自動車くらい大きければ持ってはいけないが、抱えられる荷物なら盗られてしまうぞ」
「それもそうですねえ。だったら、自動車ごと異世界に持って帰るのは?」
「それも無理だよ。実家にはとてもそんなスペースはないからね」
「私に考えがあります」
そういったのは普段あまり自分の意見を言わないオートレイだった。
「妙案でもあるのか?」
「地下倉庫を利用するのです」
砦の地下には牢屋の他に、要らないものをしまっておく倉庫があるのだ。
普段は使っていないので、長らく閉ざされたままになっている。
「あの倉庫か。だが、監察官が倉庫の中を見たがったらどうする?」
重箱の隅をつつくような輩は意外と多いのだ。
掃除がなっていない、と咎められるくらいならいいが、正体不明のアイテムがザクザク見つかれば大問題になる。
だが、オートレイは自信たっぷりに巨大な胸をそびやかした。
「ただ隠すのではありません。倉庫の奥を拡張しましょう。秘密の小部屋を作って、扉は石でふさいでしまうのです」
ワクワクしながらオートレイは計画を説明している。
なるほど、穴掘りが大好きなオートレイらしい考えだ。
「いいアイデアだと思うけど、うまくいくかな?」
「ご安心を。私の魔力も上がっていますし、隊長に買っていただいたシャベルを使えばなんとかなります!」
オートレイがいつになく頼もしい。
「それじゃあ、オートレイに任せるとしよう。さっそく取り掛かってくれ。他の者は俺と一緒にアイテムの移動だ」
見張りを一人だけ物見の塔に置いて、俺たちは作業を開始した。
アイテムの移動は困難を極めた。
なにせ地下へと向かう階段は狭いうえに勾配が急だ。
それなのに発電機や洗濯機など、重いものがたくさんあったからである。
だが、こればかりは避けて通れない。
「段差に気を付けろよ。せーの!」
俺、リンリ、メーリア、ディカッサの四人がかりで発電機を運んだ。
みんなで体をプルプルさせながら階段を下りる。
「も、もう少しだ。みんな平気か?」
「も、もう……、腕が……限界……」
魔法使いのディカッサは特に非力だ。
そのぶん俺と、パワーアップの青いフンドシをつけたメーリアが支えているのだが、ディカッサは苦悶の表情で発電機を抱えている。
「もう少しだ。あと七段」
「くぅっ! これが終わったらご褒美を所望します。約束してくださったら頑張れると思うので」
「ご褒美!?」
リンリが目を輝かせている。
「というと、魔動波をお腹いっぱい喰らわせてもらえるとか?」
「そんなもので喜ぶのはあなただけよ。どうせ喰らうのなら美味しいものがいいわ」
「余計なおしゃべりをしてないで、いまは力を出してくれ。ご褒美については後で考えるから!」
俺たちはヒイヒイ言いながら、なんとか階段を降り切った。
踊り場で一息ついていると、オートレイの叫び声が聞こえてきた。
「なんじゃこりゃあっ!」
オートレイは一人で倉庫の拡張作業をしていたはずである。
それなのにあんな大きな声を出すなんて、何事だろう?
急いで倉庫の方へ行ってみると、奥に作られたばかりの穴が開いており、入り口にはオートレイが立っていた。
「どうした、大きな声を出して?」
「隊長、これをご覧ください!」
オートレイが横に避けると穴の中がよく見えた。
ランタンの明かりに照らされているのはぽっかりと開いた空間と、その奥に続く遺跡だった。
「なんじゃこりゃあっ!?」
「それ、さっき私が言いました」
「いや、こんなものを見たら言いたくなるだろう! って、すごいなあ……」
穴の奥には石を積み上げた空間が広がっており、奥の方には重そうな金属製の扉が見えている。
「ほんとにこれはなんなんだ? ずいぶんと凝った作りの建造物だけど」
石の一つひとつにはレリーフが施され、装飾的な通路になっているのだ。
どうやら、通路に沿って削られた彫刻が紙芝居のように連続した物語になっているようだ。
レリーフに見入っているとディカッサに袖を引っ張られた。
「隊長、これは天空王の物語ですよ」
「これが……?」
「ほら、ここをご覧ください。これはよく知られた『降臨の図』ですから」
ディカッサが指さす先には、荒野に裸で立っている男の姿があった。
異世界からやってきた天空王が、この地に降り立つ場面らしい。
なんだか懐かしい気がするぞ。
そういえば俺もこんな感じだったよな。
まあ、俺は裸じゃなくてパジャマにサンダルをつっかけていたけど……。
「そういえば、このオッサンの顔に見覚えがあるな。チョビ髭危機一髪で遊んだときに、金色に変化した髭のオッサンだ。でも、これに髭は生えていないな」
「天空王が髭を伸ばされたのは、この世界にご降臨あそばれた後ですから」
だから、降臨の図の天空王は、髭なしが当然なのだそうだ。
メーリアも近くに寄ってきてレリーフを覗き込む。
「やっぱり、隊長は天空王にどこか似ていらっしゃいますわ」
「そうかあ? 俺、こんなにスケベそうな顔をしていないと思うんだけどな」
メーリアは誉め言葉として言ったかもしれないけど、俺としては心外だ。
にしても、このオッサンの顔はやっぱりどこかで見たような気がする。
「扉の奥も調べますか?」
「いや、その時間はない。まずはこの空間に荷物を移してしまおう」
遺跡のことは気になるが、優先順位を過つことはできない。
俺たちは直面しているトラブルに対処すべく、日本から持ち込んだアイテムをせっせと隠すのだった。
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