スッキリと
解呪の枝に魔力を込めると、ファーミンの体に黒い煤のようなものが見えた。
この煤をすべて払い落とせば呪いは解けるのだろう。
「頭の方からやっていくから、椅子に座ってくれ」
「ここに直接すわっていいのか? 私は裸なんだが……」
俺の椅子が汚れるのを心配しているようだ。
「気になるのならタオルを敷こう。その上に座ればいいだろう?」
俺がタオルを敷くとファーミンは安心したように腰かけた。
「それじゃあ、はじめるぞ。心の準備は?」
「呪いが解けるんだ、楽しみで仕方がないさ。いつでも始めてくれ」
まずは頭頂部をサッと解呪の枝で撫でてみると、ファーミンはヒャッと声を上げて腰を浮かせてしまった。
「平気か?」
顔を覗き込むと、ファーミンはうっすらと額に汗をかき、喜びとも苦悶ともつかいない表情を浮かべている。
「少しびっくりしただけだ。大丈夫だから続けてくれ……」
気丈にふるまってはいるが、あまり大丈夫という感じはしない。
だが、中止するという選択もできないか。
もう少し様子を見てみよう。
ほこりを払うように優しく撫でていると、やがて頭の黒い煤が薄くなった。
うまく呪を祓っているようだ。
「いいぞ、効果が出ている!」
「ああ……私も……クッ……感じる……ぞ……」
感じるって解呪のことだよな?
それとも違う意味か?
たぶん、両方なんだろうな。
太ももをモジモジさせながらファーミンは耐えている。
もう少し頑張ってくれよ。
そういえば更なる解呪を促す、金の塩もあったよな。
これも使ってみるか。
一つまみとってパラパラとファーミンに振りかけた。
「きゃあっ!」
塩を振りかけたとたん、ファーミンは背中をエビ反りにして硬直してしまう。
「ど、どうした?」
「な、なんでもない……経験したことのない感覚が急に押し寄せてきたから……」
続けてもいいのだろうかと不安になるが、ここでやめれば元の木阿弥だ。
俺は心を鬼にした。
「続けるぞ」
短く言い放ち、有無を言わせずファーミンの頭についた煤を払っていく。
「んくっ! ん……、あっ!」
必死に耐えているファーミンの姿に複雑な気持ちになったが、俺はかまわずに頭の煤を払い続けた。
「よし、頭部は終了だ。次は首から肩だな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
荒い息を吐きながらファーミンが休憩を要求してくる。
だが、そうはいかない。
せっかく払った煤だが、肩の方からじわりじわりと増殖して、再び頭部を侵食しようとしているのが見て取れたからだ。
俺は状況を説明した。
「のんびりしていたら苦労が無駄になる。続きに取り掛かろう」
「わかった。だが、その前にタオルを変えてもらえないだろうか?」
「ん?」
「その、だいぶ汚してしまって……」
そこで初めて気がついたのだが、木製の椅子の表面がテラテラと光っていた。
そういうことか……。
これ以上の吸水はきついのだろう。
棚から新しいタオルを出して無言で渡した。
余計な会話は気まずい思いを増長させるだけだからな。
ファーミンは新しいタオルをお尻の下に敷き、大きく深呼吸をする。
「よし、続けてくれ」
「もう少し頑張ってくれよ」
首、肩、鎖骨の順番に俺は煤を祓っていく。
その間ファーミンはくちびるをかみ、声を上げないように我慢していた。
よし、上の方はあらかた祓ったぞ。
さて、次は……。
「腕を上げてくれ。腋の下を祓うから」
その瞬間、ファーミンはしまったという表情をした。
だが、俺は手を取って強引にファーミンの腕を上げる。
「…………」
なるほど、恥ずかしがる理由はこれか。
ファーミンの脇にはうっすらと毛が生えていたのだ。
レンブロ王国の女性は腋毛を剃るのが一般的だ。
それは砦の隊員たちも同じで、みんな定期的に剃っているようだ。
ファーミンも普段は剃っているのだろう。
だが、まさかこんな事態になるとは思わなかったので、今日は処理があまかったようだ。
女の人の脇ってあんまり見る機会がないよな……。
「あまり見るな……」
「わかっている」
興奮を隠しながら、解呪の枝で脇下の煤を祓った。
ついでに塩もかけてしまうか。
「んんんんんっ!!!!」
これまでにないくらい切なげな喘ぎ声がファーミンから漏れたが、俺はかまわずに続けた。
こんなふうに解呪の儀式は一時間も続いた。
胸やお尻(けっこう奥も)、に加え、内もも、足の裏まで祓わなければならなかったので、ファーミンにはとても口にはできないようなポーズをとってもらわなくてはならなかった。
これは断言できるが、ファーミンの体で見ていない場所はなくなってしまったと思う。
きっと強烈な快感に襲われていたのだろう、最後の方などファーミンはずっと叫び続けていて、解呪が終わったときは息も絶え絶えで、ぐったりと床の上に寝そべっていたくらいだ。
俺は自分のジャケットを脱いでファーミンの上にかけた。
「すまない……イツキ……。しばらくこのままにしておいてくれ……。足腰が立たないんだ……」
「かまうことはない。水を持ってこようか?」
「それより……手を握っていてくれないか……?」
俺はファーミンの近くに腰を下ろし、手を握りつつ、彼女の背中をなでた。
ファーミンをいたわりながら、俺は手にしている解呪の枝を見る。
枝には葉が一枚も残っていない。
煤を祓っている最中に、すべて枯れ、灰になってなくなってしまったのだ。
俺の魔力もあとわずかしか残っていないぞ。
保有魔力量には自信があったけど、危なかったな。
リンリが買ってきたダンベルで筋トレと魔トレをしておいてよかったぞ。
「どうだ?」
「すごかった。こんなの……はじめてだ……。まだ体の中の波が引かないんだ……」
「そ、そうじゃなくて、呪いのことを聞いているんだが……」
「呪い……? はっ! の、呪いだな。うむ、完全に解けたようだ!」
自分の勘違いに気がついて、ファーミンは手で顔をおおっている。
だが、指のすき間からうかがうと、毒の抜けきった顔をしていた。
「イツキ、平気か?」
不意にファーミンがこちらを向いた。
「ん? 魔力ならギリギリ足りたぞ。魔力切れは起こしてないから問題ない」
「そうじゃなくて、コレ……」
ファーミンが凝視しているのは俺のアソコだった。
当然のごとく、それはギンギンに膨れ上がっている。
すごい光景をたくさん見てしまったからなあ……。
「辛そうだな」
「す、すまない……」
謝ると、ファーミンは小さく笑った。
「お堅い女神官でも、男の生理現象くらい知っている」
「うむ……」
動くに動けずにいると、ファーミンは無言で俺のアソコに触れてきた。
「おい!?」
「楽にしてやる。せめてもの恩返しだ」
「だが……」
「言っておくが、最後まではしないぞ。楽にしてやるだけだ。私はまだ神官でいるつもりだからな」
ああ、神官の性交は禁止だったな。
でも、これはいいのだろうか?
限りなくグレーだと思うのだが……。
などと考えながらも、俺は俺の股間に顔をうずめるファーミンを払いのけることはできなかった。
それほど時をおかず、俺たちは連れ立って広間へと降りていった。
俺たちを見つけて隊員たちが駆け寄ってくる。
メーリアが嬉しそうに聞いてきた。
「解呪が成功したのですね!」
「わかるか?」
「お二人ともスッキリとした顔をしていらっしゃいますから!」
「ま、まあな……」
「うむ、おかげさまで……」
笑顔がぎこちなくなってしまうのは俺もファーミンも同じだった。
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