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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第二部

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蹂躙


 その夜もファーミンは正気を失った。

 ケドムの中毒は完全に抜けたが、呪いの方はまだ残っているのだ。

 体を拘束されたままファーミンはしゃべり続けている。

 隊員たちは耳栓をして寝ているけど、俺はファーミンが気になってしていなかった。


「見つけたぞ。お前だ! おい、こっちにこい!」


 興奮するので放っておこうと思ったのだが、何度も呼ばれて俺はファーミンのところまで行った。

 血走った眼で俺の姿を確認すると、ファーミンはニヤリと笑って声を落とした。


「お前はイツキだな?」


 いまさら聞くことか?

 そんなことはとっくにわかっていることじゃないか。

 それとも、ファーミンに別の誰かがとりついているのだろうか?


「聞いているのだ! お前はイツキだな?」

「ああ、そうだよ」


 答えてやるとファーミンは満足そうにうなずいた。


「やっぱりそうだ。お前こそが正当な後継者だ」

「後継者?」

「わからないのか? お前こそがこの城の主なのだよ」

「ここは城じゃなくて砦な。それと、俺は主じゃなくて隊長だぞ」

「違う! グラシオーゾ! エブナ ブケ」


 俺の返事が気に入らなかったのかファーミンはまたまたわけのわからない古代魔法言語でわめきだした。

 こうなってしまってはもう会話は無理だ。

 念のために今夜の様子もスマートフォンで録画してある。

 翻訳を頼めば解呪のヒントになるかもしれない。

 そうでなかったとしても、明日届くお祓いグッズもある。


「もう少しだからな。きっとなんとかしてやるから」

「アガート ロムレッサ! ピビン スペクトラ……」

「ファーミン、わからないよ」


 ブツブツと独り言を続けるファーミンを牢に残して俺は宿直室へと戻った。



 長い夜が明け、オートレイが俺を起こしに来た。

 昨日とは打って変わって顔色がよい。


「おはよう。よく眠れたようだな」

「耳栓のおかげでぐっすりです。隊長は眠そうですね」

「まあな。だが、それも今日までかもしれない。日本に帰ればお祓いグッズが届くはずだ。今日はよろしく頼む」


 順番から言うと、一緒に転移するのはオートレイの番なのだ。

 つまり、この後、俺とオートレイはキスをすることになる。

 そのことに思い当って、オートレイがわたわたしだした。


「こ、こちらこそよろしくお願いします! 転移の前に忘れずに歯磨きをするので隊長のやりたいようにやっちゃってください。私は受け身の方が楽というか、口の中を隅々まで蹂躙じゅうりんされるのも悪くないかなって……。いえいえ、もちろん、隊長にその気があればの話です! いつものように軽いキスでも私はぜんぜんいいのです。ぜ、贅沢は言いません……、ハイ……」


 これまた早口でまくし立ててくる。

 うーん、つまりディープなキスを望んでいるということか……。

 オートレイのことだって好きだから、俺もかまわないんだけどな……、ハイ。

 じっさいに、蹂躙するようなキスをしたらオートレイはどんな反応をするのだろう?

 ちょっと楽しみである。

 いきなりやって、びっくりさせてみたい。


「朝飯にしよう。今日のメニューはなにかな?」


 キスについて、この場ではそれ以上はなにも言わずにおいた。



 朝食が終わると隊員たちに指示を出してオートレイと軽トラに乗り込んだ。

 俺は何気ない感じでオートレイの方を見る。

 オートレイは俺から視線を逸らしながら天気のことなんかを話している。

 よし、お望みどおり蹂躙するようなキスをしてみるか……。


「オートレイ、もう少しこっちに寄ってくれないか?」

「ふへ? は、はいっ!」


 近づいてきたオートレイの手首を左手で掴んだ。

 右手はオートレイの後頭部へ回す。


「た、た、た、隊長!?」


 驚くオートレイを引き寄せ、ディープなキスをした。



 転移した後も俺たちはしばらくくっついたままだった。

 遠慮を忘れて俺はオートレイの口中を野獣のように貪っていく。


「んっ……」


 切なげな声を上げるオートレイに俺の興奮も高まり、時間を忘れてしまう。

 だが、いつまでもこうしているわけにはいかないか……。

 名残りを惜しみながら俺は口を離した。


「…………」


 ぐったりと放心しながらオートレイは俺を見ていた。

 いや、視線は俺の方なのだが、焦点があっていない。

 オートレイが見ているのは遥か彼方だ。


「すまん。やりすぎたか?」

「…………」

「オートレイ?」

「真っ白らぁ……」

「はい?」

「萌えつきて真っ白れす……。こんな気持ちのまま死ねたら幸せなんらろうなぁ……」


 呂律が回っていないのは、舌を絡めすぎたせいだろうか?


「おいおい、死ぬなんて言うなよ。まだ帰り道もあるんだからな」

「そうでした!」


 脳が再起動したみたいにオートレイは跳ね起きた。


「なんか、ごめん。嫌だったか?」

「ぜんぜん嫌じゃないです! むしろ夢がかなってしまって、こんなに幸せでいいのかなって、怖いくらいです。隊長こそ嫌じゃなかったですか? 自分でも信じられないのですが、私も積極的になりすぎてしまいました! 恥ずかしすぎて、穴を掘って入りたいです!」


 オートレイの場合、『穴があったら入りたい』じゃなくて、自分で掘って入りたいのね。


「あんなキス、俺も初めてだよ」

「隊長のはじめて……」


 ぼんやりしているオートレイの肩を軽く叩いた。


「さあ、中に入ろう。とりあえず荷物が届くまで待機だ」

「は、はいっ!」


 お祓いグッズが届けられるのを待つため、俺とオートレイは家に入った。



 ほどなくして、玄関のチャイムが鳴った。

 宅急便が到着したのだ。

 俺は荷物を受け取り、すぐにオートレイのところへ戻る。


「すまないが、今日の買い物はなしだ。一刻も早くこれを鑑定してもらいたいんだ」


 本当は買い物をして帰る予定だったけど、アイテムを手にしたら居ても立っても居られなくなってしまったのだ。

 段ボール箱を開けて中身を確かめると、写真にあったとおりの大きな大麻ぬさと清めの塩が入っていた。


「これで神官さまの呪いが解けるのでしょうか?」

「わからないけど、なにもしないよりはマシさ」


 アイテムを箱に戻し、俺たちは再び軽トラへ乗り込んだ。


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