いろとりどり
55 いろとりどり
仮眠から覚めたファーミンは幾分スッキリした顔をしていた。
少し手が震えているのは薬物依存症のせいだろう。
完全に抜け切ることはできないらしいが、薬をやらずに時間が経てば、落ち着く状態には戻るらしい。
それまではしっかりと寄り添っていくつもりだ。
「もう少しで昼飯の準備ができるよ。今日はご馳走だぞ。少しでも食べて力をつけてくれ」
「日本から持ってきた食べ物かい? それは楽しみだな」
青白い顔でほほ笑むファーミンの手を取って寝台から立たせた。
昼食を食べる前に、ファーミンには昨晩の動画を見てもらうことにした。
正気を失ったファーミンしゃべった古代魔法言語らしき、あの言葉だ。
ファーミンは俺が差し出したスマートフォンを驚愕の表情で見つめている。
「こんなものが存在するなんて……」
動画撮影なんて、この世界の魔法にもないもんなあ。
こちらの人からすれば、日本の方がよっぽどファンタジーなのかもしれない。
「やっぱりこれは古代魔法言語なのか?」
「そのようだ。だが、残念ながら古代魔法言語に対する私の知識は少ないんだ。見た目通り私は脳筋なんだよ」
そう卑下するファーミンだったが、言葉の断片はいくつか聞き取れたようだ。
「止めてくれ。うん、これはわかる」
「なんと言っているんだ?」
「『我を鞘に納めろ』と言っているな」
「鞘にか……。それは君が解呪した宝剣の鞘なんだろうな」
「おそらく。たしかに、あの剣には鞘がなかった」
抜き身のままではなく、剣は鞘に収まりたがっているのかな。
俺たちは続けて動画を閲覧する。
「ここだ。さっきから『入口』という単語が何回か出てきている。それから『王の城』という単語もだ」
だが、わかったのはここまでだった。
「私ではこれが精いっぱいだよ。やはり、専門家に翻訳を依頼するしかないな」
「ロッカスまで行けば古代魔法言語に詳しい神官がいるかもしれない」
「私が自分で王都まで行ければ、知り合いに頼めるのだがなあ……」
そうは言っても、いまのファーミンには無理な話だ。
呪いの力を押さえるにはケドムが必要になるが、これ以上のドラッグは危険極まりない。
いまだってかなり苦しいはずなのだから。
明日、お祓いグッズが届けばなんとかなるかもしれないが、そのことはファーミンにはまだ伝えないつもりだ。
余計な希望を持たせるのはよくないからな。
だが、俺自身はすがる思いでアイテムの到着を待ちわびている。
早く明日になってほしかった。
昼飯を食べ終わると、みんなで買ってきた洗濯機を設置した。
これにはファーミンも参加している。
「なにかしていた方が、気が紛れていいんだ。私も運ぶのを手伝おう」
洗濯場に水平器を使って洗濯機を設置し、発電機からコードを引いてきた。
十二キログラムサイズの大型洗濯機だから、一気にたくさんの洗濯物が洗えるぞ。
使い方は実演をしながら説明するのがいいだろう。
「みんな、よく見ていてくれよ。まずはこのように蓋をあけて、洗いたい服をドラムの中に入れるんだ」
昨日着ていたTシャツを俺は洗濯機に入れた。
リンリが申し訳なさそうに聞いてくる。
「私のも隊長と一緒に入れていいですか?」
「もちろんだとも。むしろリンリが気にしないのか?」
思春期の女子なみに、『パパと一緒の洗濯機なんてキモい!』的なことを言われるとショックなのだが。
「私はぜんぜん気にしません!」
他の隊員たちもまったく気にしていないようで洗濯機にどんどんシャツを入れていく。
ここで腕をツンツンとつつかれた。
またもやリンリである。
「こ、これも洗っていいでしょうか?」
リンリは俺の眼前に黄色いコットンのパンティーを広げてきた。
飾り気のない下着だが、はいていた本人が手にもっていると、妙な艶めかしさを感じてしまう。
「か、かまわない。いちいち見せて確認をとらなくていいからな」
「ではこれもかまわないと?」
ネイビーのパンティーを差し出してきたのはディカッサである。
「そう言っている!」
「わ、私のは他の人のより大きいのですが、よろしいのでしょうか?」
大きなお尻をもつオートレイが黒のパンティーを広げてきた。
しかもビキニタイプ。
地味なのにパンディーは大人っぽいって……。
「サイズとか関係ないから」
「小さくてもいいんですよね?」
クルクルっと丸まったピンクのパンディーを見せてきたのはアインだ。
「もちろんかまわん……」
モジモジしながらメーリアが確認してくる。
「私のは……これなのですが、問題はないですか?」
白と水色の縞パンか……。
「むしろ、どういった問題があるというんだ?」
「みんなのは無地でしたので……」
「色とか柄も関係ないから……」
するとファーミンまで俺に下着を見せつけてきた。
「ならば無色でもいいのだな?」
神官さまらしく純白ですか……。
「かまわない。とにかく、いちいち見せつけてこなくてもいい。みんな早く洗濯機にいれてくれ」
いろとりどりのパンティーがドラムに投入された。
「それじゃあ、説明を続けるぞ。この洗剤投入口に液体洗剤をいれたら、電源ボタンを押す。それからスタートボタンだ。細かい設定もできるけど、まずはこれだけ覚えてくれ」
動き出した洗濯機を見てファーミンが驚いていた。
異世界の品物をあまり見ていないだけあって、他の隊員たちより反応が初々しい。
「洗濯をする魔道具があるなんて、日本というところはすごいのだな」
「じっさい向こうへ行ったらびっくりすると思うぜ」
振動する洗濯機にファーミンはそっと触れている。
「これを鑑定してみてもいいだろうか?」
「そいつはありがたいけど、大丈夫か? 体力が落ちているだろう? そのうえ魔力まで削ってしまったら体によくないと思うのだが……」
「いや、その方がいい。魔力切れでくたばっている方が夜中に暴れなくていいさ。深夜までに全魔力を使い切る予定だよ。鑑定してほしいものがあったら遠慮なく言ってくれ」
それも手といえば手か。
「じゃあ頼むけど、くれぐれも無理はしないでくれよ」
手始めに目の前にある洗濯機と洗濯洗剤を鑑定してもらうことになった。
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