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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第二部

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ポチっとな


 朝日が出ていることを自分の目で確認してから、俺は地下牢へ降りていった。

 早くファーミンを解放してやりたい、その一心で階段を小走りに下る。

 焦燥でやりきれない俺が牢で見たのは、天井付近にある小さな明り取りの窓の光に浮かんでいるファーミンの放心した顔だった。

 髪はボサボサで、目の下にはくま、顔色は青白い。

 そんなファーミンが俺には疲れ果てた天使に見えた。


「平気か?」

「ああ……」


 疲労困憊しているファーミンの手枷を外す。


「お湯を持ってきた。まずは身を清めて着替えるんだ。俺は外に出ているから」

「そうだな」


 漏らしてしまったおしっこのことなどには一切触れず、俺はお湯と着替えだけを置いて背を向ける。

 背後から声を殺した泣き声が聞こえてきたけど、聞こえないふりをして俺は外へ出た。


 しばらく待ってから牢に戻ると、ファーミンの顔色は少しはよくなっていた。

 牢内の掃除も自分でしたようで、壁にモップが立てかけてある。

 自分で始末をつけるために宿直室で探し当てたのだろう。

 ファーミンは水魔法も使えるようだから、それできれいに磨き上げたようだった。


「服と藁マットを洗ったんだ。外に干したいが、天気はいいか?」

「ああ、今日は晴天だ。干すのは俺がやっておくから、少し休んだ方がいい。寝ていないのだろう?」

「…………」


 余計なおしゃべりはせず、俺たちは淡々と事を進めていく。


「ならばここで眠るとしよう」

「どうして? 部屋を用意してあるぞ」

「時間とともにケドムが欲しくなっているんだ。そのうちに耐えられなくなると思う」


 そういえば薬物依存もあったな。

 俺にはたまらなくファーミンが哀れだった。

 藁マットさえ敷かない寝台にファーミンはゴロリと横になった。


「少し待っていてくれ。俺の寝具で嫌じゃなければ持ってくる」

「また汚してしまうかもしれないぞ。ハハ……」


 乾いた声で笑うファーミンの手を取って、その瞳を見ながら俺は宣言する。


「それでもいい。とにかく眠れ。俺も協力する」

「イツキ……」


 自分の寝具を牢に運び込み、ファーミンを寝かしつけた。


「きっとよくなるさ」


 なんの当てもなかったが、俺に背を向けて丸まるファーミンを見ていたら、そういわずには言われなかった。


「それじゃあ行くよ。起きたらご飯にしよう」


 出ていきかけると、ファーミンが小さな声を上げた。


「イツキ」

「どうした?」

「すごく辛いんだ……」

「わかっている。だけど、きっと呪いは解けるはずだ」


 そう言ったがファーミンは首を横に振った。


「そうじゃない。私は退魔師だから、こういった事態も想定はしていた。平気ではないが、覚悟はできていたんだ」

「だったら……」

「想定外だったのは……、イツキを好きになってしまったことだ。だから、こんな姿を見られるのが辛いんだ」


 思わぬ告白にたじろいでしまったが、俺も自分の気持ちを素直に伝えることにした。


「ファーミン、俺も君が好きだ。一目惚れだよ。だからこそなんとか手立てを考える。とにかく今は薬物中毒をなんとかしよう」


 俺は牢にもどってファーミンに口づけした。

 やっぱり異世界転移は起きなかったけど、俺たち二人の中では、すでに何かが変わっていた。



 地上に戻るとメーリアが待っていた。


「朝食の用意ができました。神官さまは?」

「眠ったよ。一晩中起きていたから疲れ果てていると思う。いまはそっとしておこう」


 俺とメーリアは連れ立って食堂へ移動した。



 朝食を食べている最中も隊員たちにいつもの元気はなかった。

 みんな寝不足で食欲がないようだ。

 卵料理を無理に胃に収め、俺は指示を出す。


「本日は交代で仮眠を取ろう。まずはアインからな」


 治癒師であるアインを真っ先に休めたいと考えるのは当然のことだ。


「リンリとディカッサは畑の世話をしつつ、神官さんの様子を見守ってくれ。まだ薬物が抜けきっていないからな。オートレイは軽トラで見回りだ」


 俺の指示にオートレイが不安そうに手を挙げた。


「私が見回りですか? も、もちろん遂行しますが、まんがいち魔物に襲撃されたら連絡をする暇もなく撃破されてしまうと思うのですが……」

「オートレイはもっと自分に自信をもっていいぞ。最近じゃ注意力もついてきたし、軽トラの運転も上手くなったじゃないか。いざとなれば走りながら無線で救援を呼べばいい」

「はい……」


 自信なさげに肩を落とし、オートレイはしょんぼりとうなずいている。

 反抗はできないタイプなので、それがかえって痛々しい。


「そんなに不安がることはない。そうだ、トラについていってもらえ」

「トラちゃんに? なるほど!」


 巨大化したトラはとんでもなく強いのだ。

 おそらく野生の虎だって一撃で撃退してしまうと思われる。

 オートレイは寝ているトラの頭をそっとなでた。


「トラちゃん、一緒に見回りに来てくれないかな?」


 トラは片目だけを開けてオートレイを見た。


「ちーる、くれる?」

「あげます! 二本あげるのでついてきてください!」

「ん~、オートレ、おれがまもる。ゴロゴロ……」


 どうやら話はついたようだ。

 これで安心して日本へ行けるな。

 みんなの安眠のためにも、今日は耳栓を買ってこなければならない。

 それからガソリンも絶対に必要だ。

 自動車やバイク、発電機にも使うのだから。

 さらに本日は洗濯機も買ってくることにしている。

 砦の人員も増えたし、かなりの手間が省けるからね。

 時間に余裕ができれば、みんな生活を楽しめるのだ。

 朝食がすむとすぐに、俺はメーリアと日本へ転移した。



 日本へ帰ると、先に投資状況をチェックした。

 うむ、悪くないぞ。

 というか、買い増した株が値上がりして資産が増えているではないか。

 資産が目減りしないというのはいいものだ。

 俺は満足してブラウザを終了した。


「おまたせ、メーリア。買い物に行こう」


 声をかけると、ベッドの端に腰かけて俺を待っていたメーリアが笑顔になった。


「ずいぶんと嬉しそうだな。欲しいものでもあるのか?」

「いえ、その……、隊長とお出かけというだけでうれしいのです。任務中にごめんなさい……」


 メーリアの健気さに胸が痛くなってしまった。


「謝ることなんてないさ。そうだ、メーリアはほしいものがあるかい? なんでも言ってくれ」

「そ、そんな、私のことはいいのです!」


 相変わらず生真面目な副長である。

 これがディカッサなら遠慮なく欲しいものをねだっただろうし、アインにしたって遠慮して見せつつも上手におねだりしたに違いない。

 だからこそ、俺はメーリアが気になってしまうのだ。


「気になるものがあったらいつでも言えよ」

「それより隊長……」


 メーリアは真剣な顔で俺を見た。


「日本には神官さまの呪いを解くアイテムはないのでしょうか?」

「呪いを解く……だと……?」

「ネット通販なるものでは、様々なものが売られているのでしょう? だったら、解呪用のアイテムもあるかと考えたのですが……」


 呪いを解くねえ……。

 呪いをかけるというなら、藁人形とか五寸釘を思いつくけど、呪いを解くアイテムってなんだろう?

 俺は再びブラウザを立ち上げて検索してみた。

 検索ワードは……『お祓い棒』とでもしてみるか。


「あった……」


 効果のほどは疑問だが、すぐに販売ページが出てきたぞ。

 神主さんとかがワッシャワッシャと振っている紙のついた木の棒である。

 正式名称はいろいろあるようだが、大麻おおぬさと呼ばれるものらしい。

 他にも清めの塩なんてものも売られているぞ。


「効き目はあるのでしょうか?」

「いやあ、俺には何とも言えないよ」


 これまで使ったことはないもんなあ。

 だが、俺たちには異世界転移チートがある。

 よくわからないアイテムでも異世界へ持っていくことでとんでもない効果を発揮することだってあるのだ。


「よし、ダメモトで買ってみよう」


 数回のクリックだけで購入は完了した。

 明日には配達されるそうだから、時間を指定して、その時間に日本へ転移しておけばいいだろう。

 それから、俺とメーリアはすべての買い物をすませて砦に戻った。


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