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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第二部

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ファーミン・クロウ


 午前中は日本で買ってきた苗やイモ類を畑に植えた。

 順調に育ってくれれば、砦の食生活に貢献してくれることだろう。

 午後は訓練と見回りを実施し、夕方には本日の業務を終了した。


「みんな、よくやってくれた。君たちのおかげで畑も完成だ。ご褒美を兼ねて本日から本格的に娯楽室を解放しようと思う」


 夕食の席で発表するとみんなから歓声が上がった。

 日本の漫画にすっかり魅了されたディカッサが声を震わせている。


「ついに続きが読めるのですね」

「もちろん漫画を読んでもいいのだが、今夜は映画を上映する予定なんだ」


 だいぶ前に買ったプロジェクターを使う日がようやくやってきたのだ。

 もちろん隊員たちは映画なんて見たことがない。

 どういったものなのかという質問を受けたが、言葉で説明するより実物を見せた方が早いだろう。

 ということで、俺は隊員たちを引き連れて娯楽室へ移動する。

 みんなはすでに軍服を脱いでくつろいだ格好をしていた。



 娯楽室の中はかなり整備されていた。

 床には絨毯が敷かれ、その上には大きなクッションがいくつも配置されている。

 壁際に備え付けられた本棚には小説や漫画が三百冊以上そろっている。

 書籍は随時増やしていく予定だ。

 また、ソファーやローテーブルもあり、棚には飲み物やおやつもそろっていた。

 炭酸飲料やジュース各種、ポテトチップスやチョコレート菓子など、自由に飲食が可能になっている。

 大喜びする隊員たちに俺は言葉をかけた。


「それじゃあ、このスクリーンが見える場所に座ってくれ。飲み物や食べ物を手近に持っていってもかまわないからな」


 隊員たちの準備ができたのを見計らって俺は部屋の照明を少し落とした。

 そしてポータブルDVDに繋いだプロジェクターを起動する。


「ひ、光った!」


 壁につるしたスクリーンが明るくなったことにリンリがいち早く反応した。


「心配ない。いまからここにお芝居が映し出されるんだ。まあ、楽しんで観てくれ」


 本日俺が用意したのは、とあるファンタジー超大作映画である。

 強大な力を秘めた『指輪』にまつわるお話で、全世界で人気を博した作品だ。

 どうしてこの映画をチョイスしたかと言えば、作品の世界観がこの世界に通じるところがあり、初めて映画を見る隊員たちにもわかりやすいだろうと考えたからだった。


 映画が始まると隊員たちは画面を食い入るように見ながら騒ぎ出した。


「た、隊長! 壁の中に人が!!」

「安心しろ、メーリア。これは映像を壁に映し出しているだけだ。イコンモールでテレビを見たことがあるだろう? あれと同じだよ」

「な、なるほど……」


 先に日本での体験があったおかげで、カルチャーショックはかなり緩和されたようだ。

 やがて、隊員たちは全員が黙り込み映画に集中しだす。

 そばに置いた食べ物や飲み物のこともすっかり忘れているようだった。


 不意にノッカーを叩く音がした。

 これは映画の音ではない。

 誰かが砦の門のノッカーを叩いているのだ。

 だが、それに気がつく隊員はいない。

 いまや、誰もが映画に夢中になっていたからだ。

 俺はそっと娯楽室を抜け出して一人で門へと向かった。


 すでに夜は更けて、空には月が登っていた。

 時刻は午後八時を回ったころである。

 こんな時間に砦を訪れる人があるなどめったにないことだ。

 ひょっとしてレビン村からの急使だろうか?

 村が魔物に襲われての救援要請かもしれない。

 そんなことを考えて俺の足はおのずと速くなった。


 門の上の小窓から下を覗くと馬を連れた人が立っていた。

 ランタンは持っているのだが、フードをかぶっているので顔はよく見えない。

 だが、村の人間ではないようだ。


「こんな夜更けにどなたですか?」


 声をかけると、整った顔立ちの女性がこちらに向かって顔を上げた。

 美人ではあるがずいぶんと眼光の鋭い人だ。

 顔には大きな傷跡もある。


「レビン村に赴任してきた新しい神官のファーミン・クロウだ。砦の隊長さんに挨拶をしておこうと思ってね」


 ハスキーではあるが、人懐っこい感じもする声だった。

 ずいぶんと遅い時間に来たものだと思ったが、俺は失礼にならないように返答した。


「ようこそ、神官さん。隊長のイツキ・カトリです。少々お待ちください。いま門を開けます」


 クロウ神官を招き入れ、隊長室へ案内した。

 神官はキョロキョロとめずらしそうに部屋の中を眺めている。


「この砦にはアンタしかいないのかい? ずいぶん静かなようだけど」

「他にも五人の隊員がいますよ。今日は娯楽の日だから、のんびりとしているんですよ」

「ああ、そういうことかい」



 そんな会話をしている間もクロウ神官の視線は片時たりとも俺から離れない。

 油断も隙もないといった感じなのだ。

 身のこなしからもわかるが、おそらく武術に長けた人なのだろう。

 年のころは三十手前くらいだろうか。

 顔の傷から言っても歴戦の勇者であることは間違いなさそうだった。


「どうぞ、楽になさってください。コートを預かりましょうか?」

「そうさせてもらおうか」


 神官さんがコートを脱ぐと腰まである黒髪と、胸元まで開いた神官服が飛び出てきた。

 神官服をこんなに着崩している女神官を俺は見たことがない。

 そして、そのボディーも圧巻だった。

 大きさで言えばオートレイに匹敵するだろう。

 だが、神官さんの身長は170センチ以上あり、全体的に筋肉質だ。

 胸にも目はいったが、腰の双剣の方により興味をひかれた。

 ずいぶんと危険な匂いのする女である。


「すまないが、煙草を吸ってもかまわないかな?」


 砦には吸う者は一人もいないのだが、この世界では喫煙者の方が圧倒的に多い。

 特に軍では九割以上が煙草を吸う。

 そういった事情もあり、俺は素直に灰皿を出してきた。

 これは前任者が置いていったものだろう。

 俺が赴任してきたときから隊長室に備え付けてあったものだ。


「すまないね」


 神官さんは器用に紙巻を作り、指先から魔法で炎を出して火をつけた。

 ディカッサと同じような技であるが、この人の魔法の方がずっとスムーズだ。

 クロウ神官は美味そうに煙を吐いた。


「ふぅ……。ようやく落ち着くことができたよ」


 胸元を大きく晒し、しどけなく煙を吐く女神官は妙にエロかった。


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