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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第二部

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トラは嗅ぎとった


   ***


 夕食が終わり、香取樹が自室に引き上げると、隊員たちはいつもの雑談タイムになった。

 今日の主役は転移したばかりのアインである。

 アインは小さな胸をそびやかして、偉そうに他の隊員たちを睥睨へいげいした。

 その様子にメーリアは呆れる。


「なんなのよ、偉そうに?」

「ふふん、私と隊長の間で進展があったわ」

「なんですって!」


 怒りに腰を浮かしかけたメーリアをアインは手でなだめた。


「まあまあ、落ち着きなさいって」

「進展って、どういうことよ?」

「うふふ、たいしたことじゃないわ。ちょっと特別なキスをしただけですから」

「特別……」


 勝ち誇った表情でアインは説明する。


「隊長の舌、少し硬いの……」

「アンタッ!」


 詰め寄ろうとするメーリアを制して、ゆらりと立ち上がったのはリンリだった。


「抜け駆けは許せないな……。一発、腹にきめてやろうか……」


 格闘家のリンリが本気で怒っている。

 これにはさすがのアインも顔色を変えた。


「ア、アンタ、キャラが変わっているわよ! アンタはドMでしょ! いつからドSに転向したのよっ!?」


 アインの指摘を無視してリンリは拳を握り込む。


「ま、待って! 悪かった! ごめんなさいっ! 抜け駆けしたのは謝るわ! だけどね、私はみんなのことも話したの。私たちは天空王の花嫁のように五人で隊長を支えるって伝えたのよ!」


 これを聞いてリンリの動きがピタリと止まった。


「本当にそれを隊長に伝えたの? それで、隊長はどういう返事を……?」

「明確なお返事はいただけなかったけど、否定はされなかったわ。きっと照れていらしたのね」


 メーリアはアインに念を押した。


「本当に私たち全員の気持ちとして伝えたのね?」

「うそなんてついてない。本当よ。それに私ばかりを責めるのはおかしくない?」


 アインはみんなに自説を主張する。


「たしかに私は一歩踏み込んだことをしたわ。でも、それをとがめられる? 私だってリスクを負っているのよ。ひょっとしたら軽い女と見られて、隊長に軽蔑されたかもしれないの。それでも私は勇気を出して踏み込んだんだから!」


 その言葉は一同を納得させるものでもあった。

 メーリアがそっとつぶやく。


「リンリ、許してあげましょう」


 リンリもコクリとうなずいて拳を開いた。


  ***


 翌日、隊員たちの様子が明らかに変だった。

 なんだか知らないが、チラチラと俺を見ては視線を逸らすのだ。

 言いたいことがあれば、はっきりと言ってくれればいいのに。

 まだまだ相互の信頼が足りないということだろうか?

 そう思ったのだが、すぐに考えを改めた。

 俺にもおぼえがあるが、上官に意見を言うというのはとても勇気のいる行為なのだ。

 彼女たちが言いよどむのも仕方のないことかもしれない。

 常々俺は、部下とのコミュニケーションは密にとっておきたいと考えている。

 だったら、こちらから歩み寄るべきだろう。


 朝食がすむと、俺はメーリアに声をかけた。

 生真面目な副長なら俺の疑問にこたえてくれるはずだ。


「少し相談したいことがある。隊長室に来てくれないか?」


 後片付けを他の隊員に任せて、俺とメーリアは隊長室に入った。


「座って楽にしてくれ」


 メーリアはいささか緊張した面持ちでソファーに腰かけた。


「今朝のことだが、隊員たちから妙な視線を感じたんだ。みんなが俺に言いたいことがあるような気がするのだが、心当たりはないか?」


 そうたずねると、メーリアはハッとした顔になった。

 やはりそうか、メーリアもなにか知っているのだな。


「隠さずに教えてほしい」

「それは……」


 メーリアはまだ迷っているようだ。


「俺には言えないようなことなのか? だったら無理強いはしないが、要望があるのなら言ってくれ。俺も善処する」

「う……」


 メーリアは唇を噛んでじっとなにかに耐えているようだ。

 その姿には悲壮感すら漂っていた。


「困ったことがあるのなら相談してくれ。俺だって君たちの力になりたいんだ」


 突然、メーリアが立ち上がった。


「だったら……」


 メーリアは目に涙を溜めながら訴えてくる。


「うん?」

「だったら、私も舌を入れていいですかっ!? というより、むしろ入れてほしいです! 受け身な性格で申し訳ありませんっ!!」


 はあ?

 副長はなにを言っているのだ?


「いったい何の話をして……」

「アインに聞いたのです! 昨日の転移のとき、アインが隊長と……と、特別なキスをしたって……」


 俺は思わずこめかみを押さえた。

 もしかして、あのキスのことでみんなは俺を気にしていたのか?

 メーリアは不安そうに質問を重ねる。


「隊長、答えてください。アインだけが特別なのですか?」

「そんなことはない。俺にとっては全員が大切な部下だ」

「でしたら、私も差し込んでいいのですね!?」


 メーリアの勢いに押され、俺は反射的にうなずいてしまった。

 だが、メーリアは納得していない。


「はっきりおっしゃってください。舌を差し込んでもいいのかどうか!」

「か、かまわない……」


 俺はなにを詰問されているのだ?

 てか、こっちが聞きたいよ。

 本当にそんなことをしてもいいのか?

 だが、俺の困惑を他所にメーリアは小さなガッツポーズをとった。


「隊長、ありがとうございます!」

「お礼? な、なんで?」

「だって、私たちの様子を気にして声をかけてくれたのでしょう? 私、みんなにこのことを伝えてきます!」

「伝えるって、なにを……?」


 メーリアはきょとんとしていたが、すぐ笑顔になって教えてくれた。


「キスのことですよ!」

「あ、ああ……」


 メーリアは元気に隊長室から出ていってしまった。

 短い対談だったが俺の精神はゴリゴリに疲労していた。

 これで……いいのか……?

 みんなが望んでいるのなら応えたいし、俺としても嫌ではないのだが……。


 困っていると、執務机の上で寝ていたトラが俺を横目で見ながら大あくびをした。

 しまった、こいつは人の言葉がわかる猫である。

 うっかり変な話を聞かせてしまったな。

 

「にいちゃ、どうした?」

「い、いや、なんでもない……」

「メェ、うれしそうだったぞ」

「そうか?」

「ん~……、めすのにおい、させてた」


 おいっ! とツッコミを入れたいところだったが、トラとしては事実を素直に言っただけなのかもしれない。

 だって猫だから。

 トラの言うとおりなら、このまま流れに身を任せるのもありかな……。

 でも、全員の気持ちを受け止めることなんて、俺にできるのか?

 乗り越えなくてはいけない課題はおおそうだったが、面倒な考察は後にして本日の業務を開始するとしよう。

 俺という人間は考えるより動くことの方が得意なのだ。

 とりあえずやるべきことをやってしまうことにした。


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