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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第二部

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苗を買いに行っただけなのに……


 俺が軽トラから降りようとすると、アインは怪訝な顔をした。


「買い物に行かないのですか?」

「先に部屋へ行くよ」

「えっ……」


 アインはその場に固まったかと思ったら、次は軽トラのミラーで髪型を直しはじめた。


「アイン、ここで待っているかい? それとも一緒に部屋まで来る?」

「も、もちろん行きます! ああ、こんなことならもっとちゃんとした下着を……」


 アインが小声でブツブツ言っているが、俺にはよく聞き取れない。


「そんなに時間はかからないから」

「は、はい。天井のシミを数えていれば終わると母から聞きました……」


 いったいなんの話だろうか?

 俺がやりたいのは証券口座の確認だ。

 たいして手間は取らないだろうから、シミでもなんでも数えていてもらおう。



 自室に入ると俺はノートパソコンを起動した。

 どういうわけか、その横でアインがカーディガンを脱いでいる。


「ん、暑いのか? エアコンを付けてもいいぞ。これのチェックが終わったらすぐに出かけるからな」

「そ、そうなのですね……」


 ぺたりと床に座り込むアインの横で証券会社のホームページを開いた。


 よし、大きく値下がりした株はないようだ。

 投資信託の積み立ても順調である。

 しかも株の配当金が振り込まれているぞ。

 金融資産の総額は2億1千万円超だから配当額も大きいな。

 この余剰資金も定期的に投資信託を積み立てるように設定してしまおう。


 すべての作業を終え、俺はアインに声をかけた。


「おまたせ。買い物に行こう」

「はーい……」


 なんだかいつもより元気がないな。

 もしかして、さっき舌を入れてきたことを後悔しているのか?

 だが、それは俺が悪いわけではない。

 突拍子もないことをするアインが悪いのだ。


「もっと自分を大切にしないとだめだぞ」


 柄にもなく説教臭いことを言ってしまった。


「隊長、それは……」

「さっきのキスだよ。思いつきや、いたずらであんなことをしちゃだめだ」

「…………」


 アインは穴のあくほど俺を見つめてから意を決したように口を開いた。


「思い付きじゃありません。私、本気ですから!」

「アイン……?」

「私、本気で隊長のことが好きですから」

「俺は君の上官だぞ」

「そんなこと知っています。安心してください、すぐに返事が欲しいんじゃありません。でも、私が隊長に想いを寄せているということは知っておいてください」


 生まれて初めて女子から告白されて、俺は頭が真っ白になってしまった。

 アインが俺のことを好き?

 なんとなくそんな感じはしていたが、改めて言われると複雑な心境だ。

 なんといっても俺は隊長である。

 これまでは、そういう目で部下を見ることはしないようにしてきたのだから。

 だが、こうして告白されてしまえば否応なく考えてしまうだろう。

 あざいといところはあるが、アインはかわいい。

 料理は美味く、細かい気配りもできる。

 病人や仲間に見せる優しさだってある。

 だが、彼女の告白を受け入れていいのだろうか?

 その場ではうなずくことしかできず、俺たちは気まずい雰囲気の中を買い物に出かけた。



 ヨネリでは苗や種イモを購入した。

 根菜はジャガイモとサツマイモ。

 苗はトマト、ズッキーニ、ナス、ブロッコリー、メロン、スイカなどを購入していく。

 買い物をしている間に俺とアインの間にあったギクシャクした気持ちも薄らいできた。


「これで全部でしょうか?」

「そうだなあ……。おっと、殺虫剤を忘れてた」

「殺虫剤?」

「野菜につく虫や病気を予防する液剤だよ」

「そんなものがあるのですね!」


 向こうに殺虫剤はないから、アインの驚きも当然だ。

 転移チートで、とんでもない毒ガスになったりはしないかという心配もあるけど、おそらく大丈夫だろう。


 買い物を済ませて俺は自宅の駐車場に軽トラを停めた。

 あとは砦に戻るだけである。

 だがその前に、アインには釘を刺しておかなければなるまい。

 こいつはすぐ調子に乗るから、また軽々しくディープキスをかましてくるかもしれないのだ。


「アイン、帰る前に聞いてくれ。転移するためのキスだが、さっきみたいなのはダメだ」

「どうしてですか?」


 アインはまっすぐに俺の目を見て質問してくる。


「どうしてって……、その、ああいうのはまだ早いというかなんというか……」


 くっ、どうしてしどろもどろになっているのだ、俺は!

 隊長として威厳のあるところを見せなければならないのに。


「ああいうキスは恋人同士がするものだろう? 俺たちはまだそういう関係じゃない」


 きっぱりと言ったのだが、アインは嬉しそうな笑顔になった。


「まだ、とおっしゃるのなら、いずれは私のこともめとってくださるのですね!」

「め、娶る!?」


 いきなりのことで理解が追いつかないのだが、アインは胸の前に手を当てて喜んでいる。


「よかった、やっぱり隊長は誠実な人だったのですね! キスだけしておいて、やり捨てにされるんじゃないかって、みんな心配していたんです」

「っ!」


 キスってそんなに重い行為だったの!?

 いや、たしかに大切な行為だ……。

 本来は愛し合った者同士がするものだもんな。

 俺はこれまでちょっと軽く考えすぎていたのかもしれない。


「みんなもそんな風に言っているのか?」

「はい。私たち五人は天空王の花嫁のように隊長を支えていこうと誓いあっています!」


 俺の知らないところでそんなことが!?


「な、なるほど……」

「ごめんなさい、隊長」

「ど、どうした?」


 アインは目に涙をためていた。


「私、隊長のことを信じ切れていませんでした! ひょっとしたらやり捨てされるのかもって、心のどこかで疑っていたんです!」

「そ、そうか……」


 結婚なんてまったく考えていなかったというのが本音だけど、それを言葉にできる勇気なんて俺にはない。


「でも、隊長がそんなことするわけがないですよね!」


 感極まったのかアインは飛びついてきて、俺の頭を両手で抱えた。


「隊長、帰りましょ♡」

「っ!」


 さっきより深く舌を差し込まれてしまった。

 だが、俺は動けない。

 気がつけば砦の駐車場で、俺はアインに舌を吸われてた。


「ぷはっ! ただいまっと。さあ、積み荷を降ろさなきゃっ!」

「お、おお……」


 小さな体を元気に動かしてアインがみんなを呼んでいる。

 俺は運転席に座ったまま、呆然とその姿を眺めた。


 ひょっとして、俺はここで五人の嫁さんをもらうことになるのだろうか?

 いつになく受動的な考えが俺を支配する。

 だが、それならそれもいいかな、なんて考えもチラリと沸き起こる。

 ちょっと苗を買いに行っただけなのに、話は俺の予想もしなかった方向に流れていた。


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