ピンクと緑
続いてのゲームだが、すでにフンドシを手に入れたディカッサとリンリは不参加になった。
これはメーリアとアインとオートレイの意向である。
アインがプンプンと主張する。
「何度も裸を見せるのはずるいわ!」
普段は仲のよくないメーリアがオートレイに賛同した。
「そうね、アインの言うとおりだわ」
なにがずるいというのだろう?
ディカッサは同じ人間が違うフンドシを手に入れたらどうなるかを知りたがったが、それについては後で検証することで話は決まった。
今夜は一晩中チョビ髭危機一髪で遊ぶらしい。
国境警備隊としてそれはどうかとも思うが、ここが暇なのは確かだ。
最近の見回りでも魔物の痕跡は皆無である。
今夜くらいは良しとしよう。
それに、俺も気になるからね。
あ、みんなの裸がじゃないぞ!
俺が気にしているのはフンドシの能力である。
そこのところは間違わないでほしい。
うん……。
俺は三人の部下にこう提案してみた。
「どうせなら、違う色のフンドシを出してみないか? そのために、赤と黄色以外の短剣だけを使ってやってみようぜ」
ひょっとしたら短剣が足りなくなってしまうかもしれないが、そのときはディカッサとリンリが赤と黄色の短剣を使って重複した場合の検証をすればよいのだ。
俺たちはそれぞれ使う色を決めた。
俺とメーリアは青、オートレイは緑、アインがピンクである。
「よし、始めるぞ」
俺、メーリア、オートレイ、アインの順番で短剣を刺していった。
だが、なかなか決着はつかず、勝負はついに四巡目に突入する。
同じ色の短剣は四本なので、青はすでにない。
俺とメーリアは違う色を刺している。
残るアインとオートレイで当たりが出なければ、ピンクや緑のフンドシは諦めるしかない。
ゴクリと唾を飲み込んだアインがピンクの短剣を指でつまんだ。
「隊長、必ず当ててみせます。見ていてください」
「いや、それは……」
見ていていいのか?
俺の返事を待たずにアインは深々とピンクの短剣を突き刺した。
すると、アインは脱衣しながら宙に飛び出すではないか!
華奢な体にピンクのフンドシをまとい、恍惚の表情でアインは両手を広げている。
「隊長、見てください……」
小さいながらも形のよい胸、きれいな先っぽ、その姿は空に踊る妖精のようだった。
が……。
「ぐえっ!」
運動神経がよろしくないアインは床に落下して、カエルのように無様に胴体着陸した。
細い両腕と両足を折り曲げながら顔面もしたたかに打ったようだ。
痛みのせいだろうか、小さなお尻がプルプルと震えていた。
「アイン、しっかりしろ!」
駆け寄ろうとする俺を制して、メーリアがアインを抱き起した。
「しっかりしなさい。ほら、自分で治癒魔法をかけるのよ」
「チッ!」
メーリアに上着をかけてもらいアインは自分の顔を治癒し始めた。
すると、苦痛に歪むアインの顔に驚きの表情が現れたではないか。
「アイン、どうした?」
「隊長!」
突然立ち上がったのでアインが羽織っていたジャケットは再び床に落ちてしまう。
ピンクのフンドシ一丁のみを身に着けた白いロリ体型は目にまぶしすぎるぞ……。
俺は慌てて視線を逸らした。
「隊長、ダメです。ちゃんと見ていてください」
「いやいや、見られないよ」
「違うんです。これがピンクのフンドシの能力ですよ。ほら、しっかり見てくださいってば!」
とっくに成人していることはわかっているのだけど、アインは童顔で身長も低いから妙な背徳感をおぼえてしまうんだよね。
だが、フンドシの能力とはどういうことなのだろう?
俺は真面目な顔を取り繕ってアインの方を向いた。
「え……、透けている?」
「そうなんです。このフンドシの能力は透明化なんですよ! といっても、完全に透明というわけにはいかないようですけどね」
それでもかなりすごい能力だと思うぞ。
まるで幽霊みたいにアインの後ろの景色が見える。
夜だったら完全に見えないだろうな。
ディカッサがアインにジャケットをかけた。
だがそれは、アインを思いやってのことではなかったようだ。
「着ている服まで透明になるのですか。これは興味深い……」
ディカッサの言うとおり、着せてもらった軍服まで透過度が上がっている。
治癒師であるアインは戦場で目立つべきではない。
このフンドシはアインにとってうってつけと言えた。
「よしよし、この調子で他の色も試してみよう」
残っているのは青、緑の二色だけだ。
前回と同じように俺とメーリアが青を、オートレイが緑の短剣を刺していく。
すると二巡目にしてオートレイが当たりを引き当てた。
突如飛び上がるオートレイのスーパーボディには予想どおり緑色のフンドシが巻き付いている。
「ぐべっ!」
地上に落下したオートレイはしたたかにお尻を打ち付け、四つん這いになって泣き声を上げた。
「いたた……」
と、とんでもない体をした人が、とんでもないかっこうをしている……。
お尻に青あざを作ったオートレイにアインが近づいた。
「本当に反則級の体よね……。ほら、打ったところを見せてごらんなさい。治療するから」
「うぅ、お尻が痛いです……」
俺がいるというのにオートレイはフンドシ姿のお尻だけを高く上げた。
これ以上、見てはいけない!
俺は自分の中の自制心を総動員して後ろを向く。
だが、瞼の裏に焼き付いた光景は俺の脳裏からなかなか去らなかった。
しばらく待っていると治療を終えて服を身に着けたオートレイから声がかかった。
「隊長、もうこちらを向いていただいてもかまいませんよ」
「ああ……」
俺の方も準備万端だ。
深呼吸と瞑想で興奮はおさまっている。
「それじゃあ、緑色のフンドシの効果を教えてくれ」
すでに効果はわかっているようでオートレイは深くうなずいた。
「これをご覧ください」
オートレイは手を伸ばして、俺の軍服の袖をつかんだ。
「ほら、袖のところに油汚れがありますよね?」
バイクのエンジンオイルを交換したときについた油ジミのことだな。
洗濯はしているのだが、このシミは取れなくなってしまったのだ。
どんなにこすっても無駄で、いまでもうっすらとシミは残ったままだ。
オートレイはそのシミの上に手のひらを置いた。
「はい、きれいになりましたよ」
オートレイがさっと撫でただけで、エンジンオイルのシミはきれいになくなっていた。
「これが緑色の特殊効果!?」
「はい、なんでもきれいにできるようです。ただし、魔力を消費してしまいますが」
布、石、陶器、金属と種類を問わず、汚れを除去できる能力が緑のフンドシにはあるようだ。
「これもすごいな」
「私は穴掘りが趣味なので大変ありがたいです。体も服もすぐに汚れてしまいますから」
オートレイは自分が手に入れたフンドシに大喜びだった。
これで五色のうち四色が出そろったか。
残すは青一色のみである。
「メーリア、いいかい?」
「はい、準備はできています」
俺とメーリアはテーブルに向かい合い、それぞれに短剣を手に取った。
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