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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第一部

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イツキさん


 軽トラに乗った俺とメーリアは、まずイコンモールにやってきた。

 メーリアがここに来るのははじめてのことだ。

 あまりの規模と品物の多さに、日本へ来るのは二回目のメーリアも驚いている。

 前回来たときに行ったのは近所のスーパーマーケットだから、その違いに驚愕しているのだろう。


「本日は農機具を買うとのことですが、こんなにキラキラしたところに置いてあるのでしょうか?」

「いや、それは後だ。まずは君へのプレゼントを買おう」

「え……?」

「君にはまだなにも贈り物をしていないからね。それに新しい服も買わないと。最初に俺を日本に戻してくれたのはメーリアだった。君に出会わなければ俺は二度と故郷へ帰れなかっただろう。とても感謝しているんだ。ありがとう」

「そんな……」


 メーリアはどうしていいかわからないといったふうに首を振っている。


「まずは服を買いに行こう。こっちだ」


 俺はいつものGUIへメーリアを連れて行った。


 メーリアが選んだのは白い襟付きのコンパクトなシャツとその上から着るグリーンのスウェットTシャツ。

 下は黒いデニムのワイドパンツだった。

 足元は白いスニーカーで、全体的にきれいめのコーディネートといった感じである。

「とてもよく似合っているじゃないか」

「そんな……」


 はにかむメーリアは清楚なお嬢様のようだ。


「次はプレゼントだな。メーリアはなにが欲しい?」

「突然そんなことを言われましても……」


 メーリアはきょろきょろと周囲を見回している。


「そうだな、少し売り場を見て歩こうか。気になったものがあったらなんでも言ってくれ」


 俺とメーリアは二人で並んで歩きだした。


 ここへ来るまではわからなかったのだけど、今日は土曜日だったようだ。

 それで母さんが家にいたのだな。

 休日のイコンモールは人で溢れている。

 俺とメーリアは離れ離れにならないよう、肩をくっつけて歩く。


「大丈夫か?」

「はい。でも、こんな人混みはロッカスのお祭りに行ったとき以来で……きゃっ!」


 転びそうになったメーリアの手を握って引き起こした。


「た、隊長……」


 真っ赤になっているメーリアがかわいい。


「ここで隊長はよせよ」


 周囲の人が怪訝そうに俺たちを見ているぞ。


「しかし……」

「極秘任務に就いていると思えばいい。俺のことは香取か樹と呼ぶんだ」


 メーリアは躊躇いがちに口を開いた。


「イ、イツキ……さん……」

「それでいい。今後、日本にいるときはそう呼んでくれ」


 周囲の騒音にかき消されてほとんど聞き取れなかったけど、メーリアは確かにこういった。


「はい、イツキさん」


 と。



 メーリアのプレゼントを買った後、俺たちはヨネリに寄って大量の土を買って帰った。


「土だけでよろしいのですか? 畑を作るにはさまざまな道具がいると聞きましたが」

「そうなんだけど、ほとんどの道具は家にあるんだよ。俺の爺さんが畑を作っていたからね」


 じいちゃんはとっくに引退しているのだが、使われていない手押しタイプの小型耕運機や刈り払い機までそろっているから、わざわざ買い足すものはない。

 畑はとっくに手放しているので、これらの農機具を使う人もいないのだ。

 母さんに確認したら喜んで持っていってくれと言ったくらいだ。

 燃料を入れ替えてからエンジンが動くかを確認したが、どちらも問題なかった。

これなら砦でも使えそうだ。


 必要なものを軽トラにすべて積み込み、俺とメーリアは母さんに別れを告げた。

 そしていつものように見送りに来ようとする母さんをなんとかなだめて家の中にいてもらう。

 やっぱり親にキスを見られるのは嫌だからね。


「よし、帰るとするか」

「はい……」


 俺とメーリアは同時に身を乗り出し、サイドブレーキの真上でキスをする。

 だがその一瞬手前、俺は猫のトラが軽トラの荷台に飛び乗るのを目の端に捉えた。

 あっ、と思ったときにはもう遅く、俺たちは砦へと転移していた。



 いつもと変わることなく、軽トラは城門内に異世界転移した。


「よし、今回も成功だな」

「問題が起きなくてホッとしました」

「まずは荷物をおろしてしまおう。他の隊員を呼んできてくれ」


 俺は軽トラから降りて荷台に向かった。

 うずたかく積まれた土を先に降ろす必要がある。


「にゃお」


 ん? いまどこからか猫の泣き声が聞こえたような……。


「なーお」


 猫好きのメーリアの髪がピクンと跳ね上がった。


「この声、トラちゃん!?」


 やっぱりそうだよな。

 転移する瞬間、俺はトラが軽トラに飛び乗ったのを見ている。

 まさか、一緒に転移してしまったのか?


「トラ! 出ておいで」


 俺が呼ぶと、軽トラに山と積まれた荷物の間からトラが顔を見せた。


「トラ。お前、ついてきてしまったのか?」

「にゃ……うん……」


 気のせいかな?

 こいつ、いま「うん」って言わなかったか?


「トラ? 泣き声が変だぞ……」

「うーん……そう……?」


 ちょっと待て、こんどは「そう」って言った気がするのだが。


「た、隊長、トラちゃんが喋っています」

「君もそう思うか?」


 俺たちの驚きをよそに、トラはのんびりと後足で耳の後ろを掻いている。


「にいちゃ……、ここ、どこ?」


 やっぱり喋った!

 これってあれか、異世界転移による言語理解か。


「トラは異世界にきて言葉がわかるようになったんだね!」

「ん~……? わかんにゃい」


 猫だから言葉はたどたどしいけど、こちらの言うことは完全に理解できているようだ。


「猫ちゃんとお話ができるなんて最高すぎます! トラちゃん、お姉ちゃんのことがわかるかな?」

「ん~、めぇ……?」

「そう! メーリアよ。抱っこしてもいいかな?」

「ん~……やだ」

「そんなこと言わずに」

「ん~、やだ」


 俺は話すこともできず、しばらくトラとメーリアのやり取りを見つめていた。


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