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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第一部

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カレーライス


 きっちり三十分後、俺とメーリアは軽トラに乗り込んだ。


「君が指摘したとおり、俺も食料については問題だと思っていたんだ。突然、異世界転移ができなくなる可能性だってある。ということで今回は農業関係を中心とした買い物をしていくぞ」

「砦に畑を作るのですね。それならリンリが活躍しそうです」

「リンリが? 彼女の実家は猟師じゃなかったっけ?」


 それに山育ちだから農業には縁がなさそうなイメージだが。


「山小屋の裏で小さな畑を作っていたそうです。リンリは作物を作るのが大好きなんですよ」

「それは心強いな。今日はいろいろと買ってくることにしよう。それじゃあ……」

「はい……」


 メーリアはシートから身を乗り出して、こちらに顔を寄せてきた。

 以前のように目をぎゅっとつむることもなく、自然に閉じている。

 こんなかわいい子とキスできるなんて、改めて考えるとドキドキしてしまうな。

 俺は息を大きく吸い込んでからメーリアのくちびるにキスをした。



 本日も問題なく異世界転移に成功した。

 メーリアはかなり心配していたようで、転移に成功すると少しオーバーに安心していた。


「よかった、転移できて……」

「これで二回目だろう? そんなに心配するなよ」

「ひょっとしたら、ファーストキスのときにしか転移できないかと心配していたのです」


 それは考えていなかったな。

 もしそうであれば、今後は困った事態になっていたであろう。

 だって、砦の兵士たちとは一通りキスをしてしまったからね。

 だがこれでファーストキスでなくても異世界転移は可能だと証明された。

 それとも、ファーストキスをした相手とだけ転移できるのかな?

 その辺は謎のままだけど、いまは考えないでおこう。


 俺たちが転移した場所は実家の駐車場である。

 軽トラに乗ってくるときは例外なくここにくるようだ。

 お、母さんの軽自動車がとまっているじゃないか。

 きっと今日は仕事が休みなのだろう。


「メーリア、少し家に寄っていくよ。おふくろに挨拶していく」

「しょ、承知いたしました」


 メーリアは俺に気がつかれないよう、ドアミラーで髪型を整えていた。

 そういうところもちょっとかわいい。


「よし、行こう」

「はい」


 緊張して固くなるメーリアを連れて玄関を開けた。


「ただいまぁ!」

「樹!」


 母さんが急いで玄関まで走ってくるのがわかった。

 こちらに戻ってくるたびにメモは残しておいたので心配はしていないと思ったのだが、やはり顔を見ないと安心できなかったようだ。


「あら、お客さん?」

「こちらはメーリア。俺の副官をしてもらっているんだ」


 メーリアは背筋を伸ばして敬礼する。


「メーリア上等兵であります。カトリ隊長には大変お世話になっております」

「まあまあ、遠いところからようこそいらっしゃいました。さあさあ、狭いところですが上がってくださいませ」


 母さんは俺とメーリアを客間に通した。


「いまお茶を用意しますからね。それともご飯がいいかしら? カレーライスならあるんだけど」


 カレーと聞いて俺の心臓はドクンと動いた。

 母さんのカレーは二年ぶりだ。


「昼飯は食べてきたけど、少しカレーを食べてみないか?」

「あ、はい、隊長がそうおっしゃるのなら。でも、私までご一緒してよろしいのですか?」

「いいから、いいから」


 俺たちは皿に少しずつカレーライスをよそってもらい食べた。

 じつを言えば、レトルトカレーは初回の転移のときにこちらで買って持ち帰っている。

 だが、やはり家のカレーには独特なうまさがあった。

 カレーというものは不思議な食べ物で、同じルゥを使っていても家庭によって味の違いが現れる。

 それが作り方によるものなのか、それとも隠し味によるものなのかはよくわからない。

 我が家のカレーだって何の変哲もない普通の家庭のチキンカレーなのだが、母親が作る独特の味がして、それが俺には懐かしかった。


 近況を母さんに話しつつ、うまいカレーをかき込んでいたら、後ろから俺を呼ぶ鳴き声が聞こえた。

 そこにいたのはちょこんと座り、目をまんまるにした茶トラの猫である。


「トラ……」

「なぁお」


 返事をしたのは間違いなく、俺が拾ってきたトラ猫のトラだった。

 転移する一年くらい前、雨の中で弱っていた猫を助けたのが俺とトラの出会いである。

 転移するころはまだ小さかったけど、今ではすっかり大人の猫の風情だ。

 けれどもトラは成猫になった今も愛らしく、人懐っこそうな顔は昔のままだった。


「トラぁ」


 俺はトラに歩み寄って抱き上げようとしたのだが、俺より先にトラを抱き上げたのはメーリアだった。


「かわいいぃ。もっふもふですわぁ。ああ、なんていい子なんでしょう」


 メーリアはトラの頭に自分の頬をスリスリして喜んでいる。

 どうやらかなりの猫好きのようだ。

 トラもまんざらではない様子でのどをゴロゴロと鳴らしている。

 こいつには警戒心というものがないのだろうかと心配になるな。


「メーリア、俺にも抱かせてくれよ。二年ぶりの再会なんだからさ」

「こ、これは失礼いたしました。私、猫を前にすると我を忘れてしまうんです」


 トラを渡されながら俺は苦笑するしかなかった。


 嫌がるかと心配したが、トラは俺にも平気で抱っこされていた。

 顎の下をかいてやると、うっとりしながら目を細める。

 そんなところも昔のままだった。


「トラ、俺のことをおぼえているか?」

「なぁ~お」


 トラが何と言っているかはわからないが、俺のことを拒否しないのはうれしかった。


「隊長はトラちゃんと遊んでいてください。私がお皿を片付けてきますので」


 メーリアがそういうと俺たちを見守っていた母さんが腰を上げた。


「あらあら、そんなことしなくていいんですよ。メーリアさんはお客様なんですから」

「そうはまいりません。せめてお手伝いをさせてください」


 母さんとメーリアが話しているのを見ていると、なんとも言えない気持ちになってしまう。

 どうしてだろうか、メーリアと話している母さんはかなり機嫌がいい。

 俺が女の子を家に連れてきたからかな?

 でも、メーリアとはキスをしたけど、仕事上の付き合いでしかないのだ。

 勘違いされては困ってしまう。


「なあ、トラ」

「なぁ?」


 俺はトラを椅子の上に乗せた。


「皿は俺が洗うよ。母さんとメーリアはここで話をしていて」


 その場にいるのが恥ずかしくて、俺は皿を抱えてキッチンに逃げ込んだのだった。


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