表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/88

いますごく……


 日本へ転移したというのにリンリはまだ気がつかず、俺の首にしがみついている。


「隊長、もう一回だけ! もう一回だけお願いします!」

「落ち着け! 周りをよく見てみろ」

「場所なんてどこだってかまいませんよ。私はすぐにあれをぶちこんでほしい……ん……?」


 リンリは俺の部屋をきょろきょろと見まわした。


「あれ? さっきまで井戸のところにいたはずなのに……」

「俺とくちびるが当たってしまっただろう? あれで異世界転移したんだよ」

「ええっ!?」


 さすがに正気に返ったのかリンリは俺から体を離した。


「も、申し訳ありません! すごいのを喰らって頭がどうかしていました……」

「まあいい。順番的にはちょうど君のばんだったからな」


 残された隊員たちに指示を与えることはできなかったが、しっかり者のメーリアがうまくやってくれるだろう。


「ここは隊長のお部屋ですか?」

「そうだ。今回は軽トラを持ってこられなかったからな」


 軽トラごと転移するときは駐車場、人間だけで転移するときは俺の部屋になるようだ。


「だが軽トラがないのは困ったぞ。ソファーや本棚を買おうと思っていたけど、次回に持ち越しだな」

「ごめんなさい! 力だけはあるんで、なんでも持ち上げてみせます。任せてください!」


 それにしたって家具を持ち帰ることはできないだろう。

 だが来てしまったものは仕方がない。


「じゃあ、時間を無駄にしないためにもさっそく出かけようか」

「はいっ!」


 俺はいつものTシャツとパーカーを引っ張り出した。


「聞いていると思うが、これに着替えてくれ。ここでは軍服は目立ちすぎるんだ」


 それにリンリの軍服にはうっすらと染みがついている……。


「あ~、先にシャワーを浴びてこい……」

「シャワー?」

「行水みたいなもんだ。それが終わったら着替えるように」

「私にも着替えをいただけるんですね」

「裸で連れまわすわけがないだろう?」


 そんなことをすれば犯罪者だ。


「…………はい」


 なんなの、その少し残念そうなニュアンスは!?

 俺にそういう趣味はないからな!



 廊下で待っているとさっぱりしたリンリが出てきた。

 よしよし、きちんとパーカーも着ているな。

 いつものようにおっぱいが浮き出ることもなくて安心だ。


「まともな服はあとで買うから、いまはそれで我慢してくれ。そういえば、魔動波の後遺症はないか?」

「あれ、すごかったです。見てください!」


言うなりリンリはパーカーとTシャツを一緒にめくりあげた。


「ほら、まだ跡がくっきり残っていますよ!」


 なにがうれしいのかわからないが、リンリは笑顔で殴られた跡を見せつけてきた。

 だが、俺の視線は拳の跡だけではなく腹筋とおっぱいにもいってしまう。

 格闘家らしい引き締まった体である。

 うん、エッチだ……。


「見せなくていい。帰ったらアインに治癒魔法をかけてもらわないとな」

「一生この痣が残っていればいいのに」

「ばかを言うな」


 そんな記念を残されたら、俺の方が申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。



 二人分の軍服を洗濯機にかけ、俺たちはバスで出かけた。


「これが駅馬車だなんて信じられない」


 リンリははじめてのバスに大興奮だ。

 鼻を窓にくっつけて景色を眺めている。

 周囲の人々もリンリの様子に困惑した視線を向けているぞ。


「リンリ、バスの中で大きな声は厳禁だ。わかったな?」

「りょ、了解であります」


 素直なリンリは目的の停留所に到着するまで一言も発することはなかった。



 他の隊員たちと同じようにリンリはイコンモールに大興奮だった。

 やっぱりカルチャーショックがすごいのだろう。

 バスの中よりずっと落ち着かせるのが大変だったよ。

 少し落ち着くと、まずは恒例となっているGUIの服である。


 リンリが選んだのはオリーブのカーゴパンツにチャコールのノースリーブだった。

 じつにリンリらしくてよく似合っている。

 それが終わると砦へ持ち帰る品物の買い出しだ。

 いい感じのソファーがあったので買って帰りたかったが、バスでは運べないもんなあ。


「今回は諦めるか……」

「私のせいでごめんなさい……」


 リンリはいまさらのように真っ赤になって反省している。

 そんな姿を見ていたら怒る気も失せた。


「まさか抱き着いてくるとはな。君があんなに情熱的だとは思わなかったよ」

「面目ない……。興奮すると自分を見失ってしまって……」


 それでオークの棍棒に突っ込むというのだから、想像を絶するよ。


「でもよかったこともあります。私、たぶんもう、こん棒を見ても興奮しないと思うんです。あんなのを知っちゃったら、こん棒なんてちゃんちゃらおかしくて……」


 だとすれば少しは安心できる。

 砦の戦力も上がるから、大いに喜ばしいことだ。


(その代わり、今度は隊長の握り拳を見るたびに濡れちゃうかも……)


 リンリが小さな声でなにかつぶやいていたが迷子のアナウンスでかき消されてしまった。


「え、なにか言ったか?」

「な、なんでもないですっ!」


 予定はくるってしまったがリンリへのプレゼントもあったので、俺たちはフラフラとイコンモールを散策した。

 そして家電量販店までやってきたのだが、そこに俺の目を奪うものがあった。


「えぇ! 今のプロジェクターってこんなに小さくなっているの?」


 俺は二年前に異世界転移しているので最新の電化製品などには疎いのだ。


「隊長、これはなんですか?」

「プロジェクターといって、壁に映像を映し出す装置だよ」

「はぁ……?」


 説明を受けてもリンリはピンときていないようだ。


「ほら、あそこにテレビがあるだろう」

「テレビ……? ………………ぬおっ!? 壁の中に人が!」

「あれがテレビだ。まあ、プロジェクターも似たようなものだよ」


 プロジェクターを娯楽室に置くというのもいいな。

 ポータブルDVDプレイヤーなどを繋げば映画鑑賞会ができそうだ。

 レンブロ王国の規定だと、兵士は月に一度は休養日を取ることが義務付けられている。

 隊長が率先してダンスパーティーや宴会を催すのだ。

 だが、飲み会はいいにしても、砦には六人しかいないからダンスパーティーをしてもあまり意味はない。

 だったら、映画の鑑賞会の方がよさそうだ。


「よし、こいつを買っていくぞ」


 食い入るようにテレビを見ているリンリに声をかけた。


「それが終わったらリンリのプレゼントだが、なにかめぼしいものはあったか?」

「自分、特にほしいものはありません。強いて言えば隊長のお仕置きが欲しいです……」

「いや、必要なのはお仕置きじゃなくてご褒美だろう?」

「自分にとって、それは同じですので……」


 そんなプレゼントは俺が嫌なのだ。


「そうじゃなくて、俺は日本へ帰還させてもらっているお礼に、みんなにプレゼントを贈っている。君にもなにか贈り物をしたいんだよ」

「そういわれましても……」


 ふと見るとリンリはボロボロのブーツをはいていた。

 軍で支給されるものである。

 いつもは靴も服と一緒に買うのだが、カーゴパンツとブーツは相性がよかったので今日は買っていなかったのだ。


「タクティカルブーツなんてどうだ?」


 たしかこの近くに軍用品を扱う店があったはずだ。


「それはなんでしょう?」

「丈夫で動きやすい靴だよ。リンリも気に入ると思うけどな」


 俺たちはさっそく店を移動し、よさそうなものを選んだ。


「これなんてどうだろう?」


 米軍やSWATなどの特殊部隊でも多く採用されているモデルである。

 完全防水だから雨の日やグローブナ地方のぬかるんだ道だって平気だろう。

 高いグリップ力のオリジナルソールはスリップのリスクを減らしてくれる優れものだ。

 瞬時に靴紐を締め上げることができるスピードレーサーや、サイドジップ付きで脱着が楽な点もポイントが高い。


 試し履きをしたリンリが軽くステップを踏む。


「これ、すごくいいです!」


 満面の笑顔を浮かべるリンリを見て、俺はそのまま会計を済ませた。



 帰りはタクシーを使って自宅まで戻ってきた。

 俺が支払いをしている間も、リンリは駐車場で蹴り技を繰り出している。

 軽くて丈夫で滑らない靴がよほどうれしいようだ。


 タクシーが去ると俺はいまだに蹴りの練習をしているリンリに声をかけた。


「少し相手になろうか?」

「いいんですか!?」

「少しだけな」


 俺は上着を脱いで左腕に巻いた。

 リンリが相手の場合、攻撃するよりされる方が気持ちの上では絶対に楽なのだ。


「ひゃっほうっ!」


 無邪気にはしゃぎながらリンリは蹴り技を繰り出してくる。


「いいぞ! 突き技も織り交ぜてみろ」

「はいっ!」


 靴のおかげか重心移動のブレがない。

 それだけ力が正確に伝わってきている。


「いい攻撃だ、いつもより重いぞ」


 ふいにリンリが動きを止めた。


「どうした?」

「自分、いますごく隊長とキスしたいです……」

「わかった。でも、荷物を持ってからな」


 せっかく買ったものをここに置いては行きたくない。

 俺たちは買い物袋を片手にぶら下げ、歩み寄った。

 服のせいか、いつもよりリンリがかわいく見えてドキドキしてしまう。


「隊長……」


 少し汗ばんだ手で俺はリンリの肩を抱き寄せてくちびるを重ねた。


このお話がおもしろかったら、ブックマークや★での応援をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ