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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第一部

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もう、戻れない


 何だか知らないけど、隊員たちの気合が入っていた。

 メーリアは弓の訓練を、ディカッサは魔法を、オートレイは砦の周りに掘りを作り出したし、アインさえもが植物を相手に治癒魔法の練習をしている。

 まあ、やる気を見せるのは悪いことじゃない。

 俺としてもご褒美の娯楽室を作るのに気合が入るというものだ。

 すでに漫画は持ってきてあるので、次に日本へ帰ったら本棚とソファを買ってくるとしよう。


 本部へ提出する訓練計画書を作成していると巡回に出ていたオートレイが慌てふためいて入ってきた。


「敵襲! ゴブリンの群れです。街道の山側、ここから3キロメートルの距離です」

「数は?」

「確認できただけで二十一」

「全隊員に戦闘準備をさせろ。城門前に軽トラを回す。準備ができ次第荷台に搭乗だ。オートレイは助手席に乗って道案内を頼む」



 それは小さな群れだった。

 体長150センチメートルほどで、緑色の肌をした小鬼がゴブリンである。

 平均寿命は十五年と短命であることから、知能は低く、高レベルの言語は持っていない。

 だが、繁殖力は異様に高く、雌は年に二十人ほどを出産する。

 また、成体になるまでの期間は短く、半年ほどで戦闘力をもった個体になる。

 普段は山の中に隠れ住んでいるのだが、数が増えすぎると移動を開始し、食料を求めて人里まで降りてくるのだ。

 奴らは作物や家畜だけでなく、力の弱い子どもまでさらって食う。

 ゆえに放置は厳禁だった。


 とつぜん現れた軽トラにゴブリンたちは慌てふためいていた。

 数は報告にあったとおり二十一体。

 全員が棍棒や錆びたナイフで武装している。

 棍棒か……。

 リンリに戦闘はさせられないな。


「メーリア、矢を射かけろ! 他の者は石を持て!」


 平地での戦闘は遠距離攻撃から始まるのがセオリーだ。

 メーリアが放った矢はゴブリンの群れまで届いたが残念ながら外れてしまった。


「続けて放て。当たらなくてもいい!」


 矢が飛んでいくだけで牽制になるのだ。

 やがて、自分たちが攻撃されていることに気がついたゴブリンたちは一斉に軽トラへ向かってきた。

 メーリアは五本を射って一本を命中させた。

 上出来である。


「俺が出る! リンリはメーリアたちを守るんだ!」

「は、はいっ!」


 両手に装備する長いかぎ爪がリンリの得物だ。

 これは突く・切る・引っ掛けるが可能な形状をしている。

 ゴブリンは戦闘力の低い魔物だから、本来の実力さえ出せればリンリが後れを取ることはないだろう。

 だが、彼女には例の症状があるからなあ……。

 ここは一人で頑張るしかなさそうだ。

 まあ、相手がゴブリン程度ならどうとでもなる。


 こちらに殺到してくるゴブリンの群れを見据え、俺は右手に魔力をためた。

 まだだ……、もう少し近づけて……。

 ゴブリンとの距離が10メートル、5メートル、と近づいてくる。

 そして3メートルの距離まで狭まった瞬間に俺は魔力を込めた拳で地面を打った。


「はぁああっ!」


 拳から放たれた魔導波が大地を経由してゴブリンたちに伝わる。

 直接叩き込んだわけではないので殺傷力は小さい。

 だが、この技を喰らうと神経系がやられるので動きを封じることができるのだ。


 比較的元気な個体を撃破してから俺は叫んだ。


「全員、突撃!」


 メーリアとリンリ以外の兵士は槍を装備している。

 地面でのたうち回る魔物が相手なら危険はほとんどない。

 戦闘はあっという間に終結した。



 砦の庭で体を洗っていると興奮したリンリが俺のところへ走ってきた。


「隊長、さっきのすごかったです! あれはどういう技なんですか?」

「魔動波という名前の技だ。魔力を衝撃波にして敵の体内に送り込むんだ。今回は複数の敵を相手にしなければならなかったから地面を経由させたけど、直接敵の肉体に送り込めば破壊力は上がる」

「ふわぁ!」


 リンリは瞳を輝かせて俺を見ている。

 それから妖しい目つきになってゴクリと唾を飲み込んだ。


「隊長……、魔動波を受けさせてください」

「あのなぁ、手加減をしてもかなり効くんだぞ」


 闘技大会で魔動波を受けたヒープなんて、しばらくまともに飯を食えなかったはずだ。


「一生のお願いです!」


 そこに他の隊員たちもやってきた。

 メーリアがリンリにたずねている。


「あら、なにかはじまるの?」

「隊長に技をかけてもらうんです。これも戦闘訓練の一種ですね!」

「訓練か。それはいいことね」

「隊長、お願いします!」


 しょうがないなあ……。・


「思いっきり手加減するけど、五分くらいは起き上がれないかもしれないからな」

「大丈夫です。やってください! はっ、はっ……」


 まるでご褒美を待つ犬のようである。


 俺はごく少量の魔力を拳に集めた。

 ここまで手加減をするのははじめてのことだ。

 だが、これはこれでいい修行になるかもしれない。


「それじゃあ、いくぞ。腹を狙うからな」

「はいっ!」


 リンリは腹筋を固くして身構えている。

 格闘家としては当然だよな。

 だが、魔動波の振動は鎧をも超える。

 腹筋を鍛えていたとしても関係ないのだ。


「うりゃ……」


 力を籠めずに軽く拳をリンリの腹に当てた。


「えっ……?」


 拳を腹に置かれただけだからリンリがあっけにとられている。

 きっと、もっと重いパンチがくると思っていたのだろう。

 ところが、数舜遅れてリンリはうめいて膝をつく


「うぐっ……」

「大丈夫か?」

「…………」


 手加減したぶん、ダメージがあとからじわじわと広がっているのだろう。


「リンリ、大きく息を吸うんだ」

「ぅ……」

「リンリ?」


 リンリは地面にうずくまり痙攣をはじめた。

 そして……。


「いぐ……、いぐぅううううううううううっ!」

「えーと……」


 あ、リンリのいろんなところからいろんな汁がでている。

 涙とか、よだれとか、汗とか、他にも……。

 とても心配なのだが、やっぱりリンリの体には触らない方がいいのだろうか?


 呆然としているとメーリアに怒られてしまった。


「みんなの前で何を見せるんですか!」

「お、俺は技を……」


 頼まれたから技をかけただけなのに……。


 俺がメーリアにお説教を受けている横で、のそのそとリンリが立ち上がった。


「お、もう平気なのか? もう少し横になっていたほうがいいんじゃないか?」

「…………」


 リンリはなにも答えず俺を見つめる。


「ど、どうした? 吐き気がするのなら……」

「もう戻れない」

「は?」

「あんなの喰らったら、もう他のじゃ満足できない!」


 どう反応するのが正しいのだろう?

 ここにはメーリアをはじめとした他の隊員もいるんだぞ。


「少し落ち着こう」

「もう一発お願いします! 気持ち強めでっ!」

「だから落ち着けって!」


 他の隊員の目もあるというのにリンリの興奮はおさまらず、しまいには俺に抱きついてくる始末である。


「隊長、もう一発、お願いします……」

「は、離せ……」


 リンリが足を絡めてくるので俺たちはその場に倒れ込んでしまい、その拍子にくちびるが触れ合う。

 そして、次の瞬間には日本へ転移していた。


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