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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第一部

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ディカッサの報告


 その夜の報告会ではいくつもの燭台が引っ張り出され、そのひとつひとつに煌々と明かりが灯された。

 火炎魔法を会得したディカッサが調子に乗り、キャンドルサービスさながらに火をつけたからである。

 普段はクールなディカッサが、いくぶんはしゃぎながら蝋燭に火をつける様子を隊員たちは信じられない気持ちで見ていた。


「ディカッサさん、さっきからずっと笑顔だよね」

「よっぽどうれしいんですよ」


 リンリとオートレイの会話が耳に入ったディカッサが振り返る。


「ええ、うれしいわ。今日は私の誕生日ですから」

「アンタの誕生日ってだいぶ先じゃなかったっけ?」


 アインのツッコミにもディカッサの笑顔は崩れない。


「いえ、今日こそが本当の私の誕生日。真なる私は本日誕生したのよ!」

「あ~、はいはい……、でもさ、しょせんは小さな火とそよ風じゃない。そんなのでうれしいの?」


 自分の拙い治癒魔法は棚に上げてアインはあげつらう。

 だが、ディカッサの喜びに水を差すことはできなかった。


「本当にバカなアイン」

「バカって言うな!」

「だってそうだもの。いい、きっかけさえあれば人は成長するものよ。私は異世界へ行って魔法を使えるようになった。あとは修練を積むだけだわ」


 これにはまじめなメーリアがすぐ賛同した。


「隊長も言ってたわ、練習が名人を作るんだって!」

「そのとおりね。いまはこれだけでも、いずれ私はグローブナの森を焼き尽くせる大魔導士になるはずよ」

「やっぱりバカはアンタじゃない……」


 そう言い返したアインだったが、同時に自分も負けたくないと思った。

 これまでの人生では治癒魔法の使えない治癒師とさんざんバカにされて生きてきた。

 男に媚びを売るしか能がないとまで言われたこともある。

 だが、いまはもう違うのだ。

 そうした思いはオートレイも同じだった。


 決意を新たにしている仲間を見ながらリンリは不安になっていた。

 彼女はまだ異世界へ行ったことがなかったからだ。


「私もなにかに目覚めることができるのかな?」


 そんなリンリにいつになく優しいディカッサが声をかける。


「大丈夫、隊長が必ず新しい扉を開いてくれるわ」

「そうでしょうか?」

「異世界へ行くのが怖いの?」

「怖いけど、楽しみでもあります。私、ドMですから」


 ディカッサは小さく笑った。


「そうだったわね。あなたならきっと日本を楽しめるわ」

「ところで、ディカッサさんも隊長からプレゼントをもらいましたか?」

「残念なことに日本の書店で魔導書は見つからなかったわ。向こうには魔法がないのですって。その代わり、これを買ってもらったの」


 大切そうにディカッサが取り出したのは金色の金具がついた黒い杖のようなものだった。

 胴体部は緑色の縞模様になっており全体が艶やかな光沢を放っている。


「魔法の杖ですか?」

「似ているけどちがうわ。これは万年筆ってといって文字を書く道具なの」

「これがペン?」

「まるで宝飾品のようでしょう? パリカンという一流店が作った品なんですって」


 普段は正の感情をあまり出さないディカッサだが、このときばかりは満面の笑みを浮かべていた。


 アインは燭台の明かりに煌めく万年筆を見てため息をつく。


「私たちって本当に恵まれているよね。きょうのおやつに配られたシュークリームなんて最高だったもん。ちょっと怖くなるくらい」

「そうね。でも、立場に甘んじていてはダメよ。私たちだって頑張らないと。人生は等価交換が基本だわ」

「なによそれ?」


 ディカッサは鼻を上にそらせて小さなアインを見下ろした。


「バカなアイン、錬金術の漫画を読んで勉強しなさい」

「バカって言うな!」

「隊長が娯楽室を作ってくださるそうよ。そこに日本から持ってきた漫画を置いてくださるの」


 ディカッサはワクワクしながら説明する。

 娯楽室と漫画がうれしくて仕方がないのだ。

 だが、隊員たちはまだ娯楽室がどんなものかわかっていない。


「漫画って、ようは本なのよね? そんなにうれしいものかなあ?」


 まだ実物の漫画を見ていない隊員たちは当惑している。


「あなたたちもきっと気に入るわ。私が隊長のことを気にいってしまったようにね」

「ディカッサが?」


 おどろく一同にディカッサは頬を染めた。


「別に物で釣られたわけじゃないわ。あの人は私のことをよく見ているのよ」

「はあ……」

「日本に魔導書がないと知って、私はプレゼントなんていらないと思ったの。だけどね、隊長は私の手を見て「インクまみれだな」って言ったわ。それで万年筆を勧められたの。そのとき、すごく不思議な気持ちになったわ。うふふ……」


 思い出し笑いをするディカッサの瞳は熱く潤んでいた。


「あのディカッサが……恋をした……?」


 右だけでは足りなくて左の頬もつねってみたアインだったが、目のまえの光景をどうしても信じることができなかった。


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