第四十八話
青華国への強制送還で、否応なく船に乗せらた月涼は、甲板上で空をぼんやり見上げながら、『ふあ~ッ』と伸びをし、藍とも引き離されて話し相手もおらず、本当に退屈な数日を過ごしていたのだ。
乗船してから気づいたのは、ソニアの艦隊の船ではなかったことだ。乗船までは、乗ったら最後、ソニアのお小言が待っているのと、やっとこ着慣れてきたかな~という感じの青華国の服装に、着替えなくてはいけないと思い込んでいたのだ。
ところが、ソニアは、その船にいないし、服装も調達が遅れているため臨時で、そろえられた西蘭国の着替えだった。『いったいどうなっているんだ?用意周到の義母上がこんなミスをするわけもないしな…』そんなことを考えて過ごしているうちに、積み荷を追加する港に着いた。
「摂津から乗船したから…。ここは、ウルル湾の端のトリドの港?であってる?」
月涼は、甲板にいたバリエル将軍に話しかけた。
「はい。妃殿下。我が国の軍事港であるトリド港です。ここで、妃殿下の服と装飾品を積み増すので着替えられますよ。それと、湯に浸かる準備もしております。侍女も待機しておりますので、一度下船する予定です。」
「なるほど…。では、王后陛下ともここで落ち合うのかしら?」
「いえ。王后陛下は、火急の用ができたため、艦隊を率いて、すでに陛下の待つブルネイの城に入ったと報告を受けています。」
「火急の用?って?それになぜ?首都の城じゃなくてブルネイ城なの?」
「はい。内容についてまで報告を受けておりません。とりあえず北海から東海を抜けたこの地まで、妃殿下を連れてきて待機との命令が来ておりますので…。」
月涼は、歯切れの悪い言い回しで答えるバリエル将軍にもう少し試してみるのだった。
「わかったわ。それじゃあ、下船して、侍女と落ち合ってまず、落ち着きます。その後、通信石で王后陛下と連絡を取ります。それは、大丈夫よね?それともまだ、何か言えなくて隠しているようなことがあるのかしら?」
頭を垂れて、何も言わないバリエル将軍に何か嫌な予感がした月涼は、少しすごむような声で耳元まで近づいて聞く。
「将軍…。リュートに何かあったの?」
「えっ?あっ…いえ。そのようなことは聞いておりません。」
「そう。何かあったのね。答えなさい!!」
「妃殿下…。私には権限がございません。」
「私は、第二皇子リュートの妃です。答えなさい。夫の事を聞いているのです。」
バリエルは、仕方なくポツリポツリと話し始めた。
「リーベンデールに到着後、式典に参加された殿下は、無事、帰国の船に乗ったと連絡を受けていたのですが…その船が氷山と接触後に転覆して、行方不明と…。」
この言葉に頭が真っ白になる月涼は、もう一度聞き返した。
「行方不明??本当に?本当にその船に乗ったと確認が取れているの?違う船かもしれないじゃない?ちゃんと調べたの…?」
月涼の言葉にバリエル将軍は、ただ首を振って、『今は、急ぎで救助に向かう準備を…。』と項垂れた。バリエルを見ながら月涼は、取り乱しても何も始まらない事だけは、確信し、自分ができることを考えなくては、と気丈にふるまった。だが、手の震えは止まらず声も少しうわずんだ。
「バリエル将軍。とにかく早く着岸…下船の準備をしてちょうだい。情報は、自分で王后陛下と話して聞くわ。たとえあなたと同じ答えだったとしても、人づてじゃなく聞きたいから。」
バリエル将軍は、コクリと頷くとくるりと踵を返して、月涼の前から去り、着岸準備のため船長室に向かうのだった。その背を見ながら、『違う。リュートが死ぬなんて…そんなことない。態々、危険を承知で乗り込んだ国。何も準備していないなんて…絶対ない。』心の中でそうつぶやくと、リュートが出発の日に言っていた事を思い出すのだった。




