第四十一話
奏は、陣営につくとすぐ、陛下に仲達の事を報告する伝書鳥を飛ばしていた。兵を追加で増員してもらうためでもあったが、何より怒りを抑えきれなかったからだ。『何もするな!!だと?月涼のやつ…。いったいどういうつもりなんだ…。仲達が…仲達が…。』唇をかんで涙があふれてくるのを必死でこらえながら、兵士たちにいつでも出撃できるように準備を怠るなと号令を出した。
だが、このことが引き金になり、北光国城内が一気に色めき立ち、更に混乱を要したのである。そうなると医師団を救出するルートが確保できないばかりか、命さえもどうなるか分からなかった。
このことが分かるのは、仲達を宿に連れて帰った時だった。月涼は、仕方なしに次なる一手に先に踏み込まねばならなくたってしまった。
「くそ!!ばか奏め!!あれだけ動くなと言ったのに陣営が動きを見せれば北光国が分からないわけがないのに!!ったく!!」
「まあまあ。奏の気持ちも汲んでやれ。大事な仲達を奪われたと思ったんだから怒りがおさえられなかったんだろう!!」
「あいつは!!これから国を背負うんです!!どうしてわからない?時に非常な判断もいる地位にいるんです。私は、その為に、支えてきた。そして、あいつからわざと離れたんだ!!!」
仲達は、月涼の悲痛な言葉に『自分がもう少しうまく立ち回っていれば』そんな風に思えて、ぐっと強く握ったこぶしを腿に打ちつけ頷くしかなかった。そんな意気消沈するその場をかき消して、雰囲気を変えてしまう藍と延妃が帰ってきた。
「つき!!見つかったぞ!!多分これだ」
藍の大きな声に皆が振り向いた。延妃は、藍の後ろを慌てて追いかけて入ってくる。
「ちょっと!!待ちなさいよ!!私を置いていくなんて!!いい加減になさいませ。」
「あ~ごめんごめん。忘れてた。」
「ななななななんですって!!あなたね!!」
小競り合いを始める藍と延妃から、証拠の品と思える包みを月涼が取り上げて広げると確かに、『右大臣の謀反の証拠であるものだ』と言える品であった。全員でその品を確認しているその時、月涼はおもむろにその品を手に取り半分に破いた。
「何をするんです!!これをもっていかねばならないのに。破くなんて…。」
「延妃。死にたいんですか?簡単に渡したらそれで、消されますよ。」
月涼の言葉に凍り付く延妃は、わなわなと肩を震わせている。
「右大臣の事を差し出したところで、貴方は右大臣の娘に変わりないはずです。生かしておくとでも思いますか?」
「でも…。皇后は、一度だけチャンスをくれると。」
「皇后は、ですよね。では、他のものは?例えば第一皇子とか…。」
延妃は、その場にへたり込んで、泣き崩れ『それならどうしてこの品を取りに行かせたのか?逃がしてくれればよかったのでは?』とおいおいと泣く。月涼は、延妃に淡々と『必要だから』と言うのだった。
「妾を利用しただけなのか?」
「もちろんそうでもあるし、助けるためでも有ります。最終的に延妃は、死なねばなりません。延妃として…。」
「何を言っているのだ?意味が分からない。」
やれやれと言った顔で今度は、藍が延妃に近づいて言った。
「つきが本当に延妃を殺すと思うの?そんなことする人じゃないことぐらい、この短い付き合いでも分かるよね?まず、この後、どうするかちゃんと聞きなよ。」
藍の言葉に延妃は、涙をぬぐいながら月涼をまっすぐ見つめて問うのだった。
「どうすればよいのじゃ?この証拠の品を皇后に渡し、安全に逃げる方法が本当にあるのか?この後、妾をどう動けばよいのじゃ!!説明せよ月涼!!」
月涼は、延妃を見てニヤリと笑みを浮かべ『その意気なら行けそうだな』と思うのだった。




