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第三十二話

 北光国宮中に伝令が飛び込んできた。『西安の国境に西蘭国の軍営が敷かれました!!』という一報である。西蘭国が思ったより早く軍営を率いた事に北光国は、狼狽えた。このまま開戦とするのか?それとも医師団を帰してなかったことにするのか?大臣たちの意見は真っ二つに分かれた。そこへ皇后が第一皇子を率いて会議の間に現れるのだった。


 「こちらから開戦しなければ、あちらは動くとは思えぬ。ただ、あちらへの書簡の返事が遅くなっている理由ぐらい必要であろう?国王の死に伴い、病死かどうかの確定に手間取っているとぐらいの返事を何故書かなんだ?それとも最初から、医師団を利用したかった者がここに居るのか?」


 この言葉に『自分の計画が漏れているかもしれぬ』と言う不安から右大臣の顔が引きつった。


 「いやはや…皇后陛下。一体なぜそのような言葉を。我々は、まず国王の葬儀を万事進めるが故、医師団の方には、残っていただき死因をきちんと究明してから、感謝の贈り物と共に帰っていただく所存でございました。それに、少し手間取っていたところで書簡の返事が遅れただけ…。」


 必死の形相で、皇后に返事をする右大臣を冷ややかな目で、見つめる左大臣がその言葉に対して質問した。


 「はて、返事はするなと言っておりませなんだか?右大臣殿…。私は、こうなることを恐れて、早めに国王の死を知らせては?と提案させていただきましたぞ。確か…。あ、そうじゃ、混乱を招くからとか何とかと言って。違いましたか?右大臣殿があまりにも強く出られるが故…お任せしましたが。」


 右大臣は、舌打ちをして左大臣をにらみつける。『いらぬことを!!』そう言いそうになりかけたとき、皇后は、第一皇子を表舞台に出して、後継争いに打って出るチャンスだとばかりに、第一皇子に意見を振るのだった。右大臣と左大臣は、皇后のこの行動に、これからの争いが三つ巴になると予想した。左大臣に至っては、第一皇子が、普段から政治に興味がないように振る舞い、自分が今までと同じように摂政として権力を持てると確信していた矢先、まさか皇后側につくと思っておらず、この状況に先ほどの右大臣の様に狼狽した。


 「皇后陛下。第一皇子殿下は、これまで政治とは、距離を置いております…。なぜ、急に意見を求めるのですか?ましてやこのような場にお連れになるとは?いかがしたものか?不思議で仕方ございません。」

 「何を言う?左大臣。第一皇子は、国王の第一子である。世継ぎの第一候補ではないか?皇位に一番近い第一皇子の意見は至極当然ではないか?それより左大臣の今の言葉の方が無礼ではないか?のう…?殷令。」


 第一皇子は、静かに頷き左大臣と右大臣の両方を睨みつけた。二人は、すぐさま目線を下におろしながら床をにらみつけ唇をかんで耐えた。『皇后め!!この期に及んで反旗を翻すとは!!』左大臣はそう、心の中で叫んだ。右大臣は、『使えぬ重慶がいない今、自分こそと思って臨んだのに皇后がこの様に出るとは!!』と思うのだった。そんな二人に第一皇子は、冷ややかな目で声をかける。


 「まず、国王の死の真相を公にして、『西蘭国の医師が我が国を混乱させるために死なせた。』という事にでもしますか?その為、医師団は帰せないと…。まあ。こう言うと、あちら側から開戦となるのでわが国は、受けるという事になります。国民も助かるはずの王が殺されたとなって、奮起してくれるでしょう。どうですか?我が国は、あちらより少し貧しいところがあります。これを機に藩按周辺を我が国の領土にしてしまうと良いかとも思いますが?」


 『本気で戦争を仕掛けるつもりなのか?』右大臣は、第一皇子と同じような考えを持ってはいたが、見せかけだけで本気で開戦するつもりはなかった。左大臣も同じでこの状況を上手く利用して、お人形の様に第一皇子を操る算段だったのである。右大臣と左大臣が顔を見合わせお互いの心を探り合うのだった。

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