第三十一話
重慶がいなくなったことで西蘭国では、かなり慌てる羽目になった。何のために、妓楼でかくまったのか?意味を為さなくなる。奏も藍もあきれるしかなかったが、月涼とのやり取りで重慶の身柄がとりあえずは、安全だという状況が分かった。
奏は、皇帝陛下に許可をもらい軍を率いて、月涼のいる湯治場付近まで行くことにするのだった。『正面突破だ!!』などと珍しく普通の装束で息巻いていた藍だったが、奏にたしなめられて、いつもの女装に戻り、奏の侍女のふりをして、軍についてくるのだった。
「藍。ふてくされてないで、ちゃんとついて来いよ。」
「はいはい。皇太子さま…。しがない侍女でございますゆえご容赦を…。」
「おい。おい。お前の好きな月涼は、もう少し先で会えるんだぞ。いつまで、拗ねてるんだ。」
「せっかく。女装せずにかっこよく決めてたのにさ~。俺がだよ?この藍様が女装してないなんて、滅多にないのに。」
「あのな、いつも好きで女装してるんだろうが…。」
「へーい。」
漫才のようなボケに、付き合っているのも飽きてきた奏は、藍を無視して、歩みを進めるのだった。そんな矢先、北光国に潜入させている間者から、情報を手に入れることに成功出来た為、湯治場の手前で軍営を敷くのだった。
「皆の者、ここで、軍営を敷く。少し小高い丘に殿下の幕舎だ。良いな。あちら側に軍が入ることをわざと知らせるのだ。幕舎を作ったら会議を開く取り掛かれ!!」
奏の連れてきた、衛将軍が号令をかけ皆の行動を取りまとめ始めた。幕舎が出来上がると書簡を持ってきたものが奏の前に進み出た。
「殿下。間者からの書簡でございます。ご確認を!!」
奏が頷き、その書簡を手にして広げる。書簡には、仲達と医師団は、取り合えずは、右大臣の保護下で無事であることが書いてあった。だが、仁軌についての安否は、不明で、どこにいるのかさえ分からないとのことだった。また、簡単に宮中の勢力が右大臣・左大臣・皇太后の3つに分かれていそうだという事も書かれていた。ここから更に、どこにつくのか分からない小さな勢力によって、どこが優勢になるのかが分からないともなっていた。
「なるほど、混沌となって、どの勢力が突出するかで、人質になるのか?西蘭国からの侵略者扱いにされるのか?で、利用の仕方を検討して返さないって事か…。」
「殿下、我が国をバカにするにもほどがありますね!!」
「そうだな。衛将軍…。わざわざ、外交官をよこして、支援をねだっておいて内乱に利用するとは、甚だしい限りだ。だが、これを利用して、我が国の属国にすることもできなくないかもしれない。もともと、一つの国だからな…。」
衛将軍は、奏の言葉についほくそ笑んでしまった。西蘭国には、もともと北光国を取り込んで、一つの国に統治したいと言う、派閥があるからだ。衛将軍は、その代表格と言ってもいい家柄だったのである。だが、ここ数代の皇室は、内乱が起こることが多かったためこの件は、鳴りを潜めていたのだ。
「それでは、殿下…。この隊の数では、足らなくはないですか?事を為すには余りにも少なすぎます。」
「まあ、待て、何も急くことはない。一つの案だ…。それに、いきなり動いて、仲達を犠牲にするわけにはいかない。」
衛将軍は、少し怪訝な顔して『せっかくの機会なのに』とつぶやいてしまうのだった。その顔を見逃さなかった奏は、人選を間違ったか?と少し不安になったが、国を守る意志だけは、心強い者だったと思い出し内にその気持ちを隠すのだった。
「衛将軍、其方の祖父の代から統一を目指してるのは、知っている。だが、今回は、書簡の情報から先ほど思いついただけの小さな案でしかない。皇帝陛下からの許可もいる。いつかそんな日が来たら、先頭に立つがよい。」
衛将軍は、奏の言葉を噛みしめながら『ありがたい』と思ってこれからの作戦について、意見を出していくのだった。




