第三話
「自分の父親をほっといて、なんで?他国にいるんだよ。宮中で話し合いする方が良いだろう?国王の危篤の件で来たんだろ?」
開口一番で言ってやると重慶は、そんなことはどうでも良いといった感じで、政権争いの実情について話し始めた。
「親父が死のうが生きようがどうでも良いさ。こっちは、政権争いの巻沿いになりたくないからな。自由に暮らしていられなくなるなんて、やってられない。大体、俺の本当のオヤジじゃないからな。」
「ん?今なんて言った?」
「だから~。現国王は、俺の本当のオヤジじゃない。仇と言ってもいいくらいだ。」
「はあ?」
北光国には、現国王の子は、7人。皇子が5人。重慶はこのうちの5番目になる。公女は、公女失踪事件の公女と昨年生まれたばかりの公女で二人だ。長男が次の後を継ぐと思っていたが長男は、粗野で横暴なところが目立ち人望がない。二人目以降もこれと言って人の上に立てるようなものがないのである。そこで、大臣たちは、国王が突然の病のうえに皇太子も決まっていない今こそ、次の王の選出を国王自身で判断もできないと踏んで頭の回転も速く、外交にも詳しいという理由でこの一大事に重慶を押そうと躍起になったのだ。しかも、この話には、さらに裏があった。重慶の出自だ。
「俺は、前国王の子だったんだ。親父は、いまだに馬鹿だからわかっていないが、前国王時代から在位している大臣たちは、知っているが口にしていないだけ。」
「おいおい。重慶。お前、ここは、西蘭国だぞ!!そんな話は、自国で片付けろよ。しかも流暢にリュートなんかかき鳴らして、歌っている場合かよ?」
「ふん、こんな時こそ気持ちは、優雅にだ~。まあ、なんだ。とりあえず簡単に言うと。かくまって欲しいって話だ。」
「何言ってんだ!簡単に端折りすぎだ!!ほかの事でも忙しいのに…。遊びに来るぐらいならまだしも、北光国の国王危篤の知らせは、ここまでさっき入ってきたばっかりなんだぞ!そんな時に…ったく!!」
「あっそれで、藍がいないのか?いつも、つーきー!ってしっぽふってくっついてるのがいないと思ったぜ。」
藍は、北光国に内乱の可能性ありの知らせを受け取ったために、宮中に先に出向かせたのだ。こまごました動きが得意な藍を北光国に潜り込ませようと思ったからだ。そんな矢先に重慶の国入りなだけに警戒どころではないわけだ。
「匿うって言っても仁軌さんまで連れてきてて、そんなことできるわけないだろう?」
「あっそれは、大丈夫だ。仁軌は…。」
重慶が言いかけたときに仁軌さんが先に割って入って説明をし始めた。まず、一緒に入国したわけではないこと。流行り病の報告と国境の村の支援をお願いしに来たことなどだ。あとは、薬師が足りないので西蘭国に薬草と共に貸し出してほしいという事だった。
「だから、重慶様は、まったく関係なく私が月涼に会いに来ようとしている時ばったり会っただけなんだ。この屋敷の前でな。」
「そ、そういう事だ。俺は俺で別行動で秘密裏に奏を頼って入国したってわけ。で、この屋敷で過ごさせてもらおうかなとだな…。」
重慶のあきれるような言葉になんで、こいつが人望あるんだと首をかしげたくなった。
「お前から出自の話を聞かないとなんで逃げてるのかもわかんないからな。まず、その辺を言ってもらわないとここには、おけないからな!」
「まあまあ、国の根幹を揺るがすような話なんだぞ~。ゆっくり、飲みながら話そうぜ。な?仁軌もいることだし、おっそうだ仲達さんも呼ぼうぜ。」
「お前!!自分の話だろう。他人事みたいに言うな。」
『は~。なんで、こんなやつばっかり周りにいるんだよ』と頭痛がしてくる月涼だった。