第二十九話
西蘭国として、奏は、正攻法で北光国へ送り出した医師団の帰還を要請する書簡を送った。その際、仁軌の安否も兼ねて、医師団が北光国でどのように動くことができたのかを仁軌、自ら説明しに西蘭国へ来るようにと付け足しておいた。だが、書簡を送って、数日たっても返信が来ない状態だった。
「やはり、思った通り正攻法では、無理な状態になっていそうだな?この後は、軍を率いて直接掛け合うことになりそうだが、その前に月涼と段取りを組んだ方が良さげだが…。」
「俺もそう思うけど、月の事だから、なんか、どでかい事思いついてそうなんだけど…。それより、重慶は、まだ、妓楼にいるんだっけ?」
藍は、帰国してすぐ高熱を出し、二日ほど寝込んでいた。重慶を連れて、北光国へ戻れと言われていた藍だったが、やっと動き出せたばかりで、後回しになっていたのである。その間に奏が、書簡を送ったり国の立場で動いていた為、奏も重慶を放置してしまっていた。
妓楼での重慶はというと、もともと雅なことが大好きな性格の為、その生活を満喫していたのである。しかも、妓楼と言う場所は、情報の宝庫でもあることから、今起こっている事柄を上手く手にしていた。奏と藍が心配するなど全く必要がなかった。そして、その情報から、北光国の内乱が本格化して、西蘭国の医師団が巻き込まれているということも手にしていた。月涼からも黄黄を媒介して、情報を得た重慶は、一人妓楼を離れて、藍と奏に黄黄の首に文をつけて向かわせた後、月涼のいる湯治場にすでに向かっていたのである。
湯治場は、西蘭国と北光国の国境付近に山脈のふもとにあり黄川大橋を渡ってすぐの位置だ。一応、北光国の領土だが、極めて西蘭国に近いと言う方が良い場所にあり、容易に北光国へ入国できる場所であった。また、この湯治場は、藩按の様な交流場所であるため関所は、わざと黄川大橋の渡り切った先に用意されていた。
「月涼!!どうなった?」
「え?」
いきなり声を掛けられて驚いた月涼が振り返った先には、息を切らしてやってきた、重慶がそこに立っていた。月涼は、とりあえず、『落ち着け』と言って重慶を座らせると宮中の情報がまだ、取れていないことを正直に言った。
「とりあえず、輪と藍と私以外は、宮中の監視下で拘束されていることしか分からない。」
「そうか…。とにかく、仁軌が一番、危ないよな?」
月涼は、頷いて『ああ。』とだけ言った。西蘭国が正攻法で出した書簡が、無視されていることを考慮しても一番危ないのは、橋渡ししてきた仁軌であることは確かな事であった。それでも、何とかしなくてはと焦る重慶は、乗り込むつもりで来たと話した。
「とにかく、宮中に乗り込む。いきなり殺されたりしないはずだ。右大臣は、私を擁護するはずだし…。」
「重慶。そこが根本から間違っているかもしれないんだ。だから、もう少し待て、奏や藍の動きと連携させた方が良い。」
「だが!!…え?ちょっと待て、根本から間違っているって?どういうことなんだ?」
月涼は、複雑化してきている宮中の勢力図を重慶に話し始めた。まず、第一皇子が政権を取りに来るかもしれない事、右大臣の動きも怪しく、重慶を皇位に着けようとしていたのは、嘘なのかもしれない事など少しづつ見え隠れする勢力図を把握しなければ、こちらが足を抄われることを説明するのだった。
「重慶、お前以外の皇子たちの情報を詳しく教えてくれ。皇后も含めてだ…。内情が把握できなければ、何も前に進まない。」
重慶は、唇を噛みしめながら、系図を書く準備をしてくれと月涼の横にいた輪に頼むのだった。




