第二話
チリンチリンと鈴の音が聞こえる。『にゃおーん。』開けてくれとせがむ様に甘えた鳴き声も聞こえてきた。黄黄だ。戸を少し開けるとするりと入ってきてのどをゴロゴロと鳴らしながら真っ黒のしなやかな肢体を摺り寄せてきた。
「どこへ行ってたんだ?黄黄。」
「黄黄たら、こっちにも来なさいよ。」
藍が不満げに黄黄を抱こうとするとするりと逃げて。私の上に飛び乗ってきた。クスクスと笑いながら黄黄を膝にのせて首輪に結んである文を抜き取る。宮中からの伝言だ。文をほどいて広げて読み始めると藍がのぞき込んで一緒に読もうとする。その頭が邪魔だったのでグイと押しのけて再度読み始める。
「もう。月ったら読ませてよ。」
「あとでな。読んだらすぐ見せるから。」
ぶつぶつと文句を言っている藍をしり目に、文を最後まで読んだ後、ポイと藍に渡して、机の前に移動する。急を要するほどでもないが返事が早い方がいい…。そんな伝言だった。
「なあ。月、この内容だったら宮中で話す方が早くない?」
「だな。でも、重慶がすでに向かってんだろ?こっちに。」
「ああ~そうだった。もう、そろそろついててもおかしくないかな?」
藍と会話しながら返信をさっと認めて、黄黄の首輪に付け直す。黄黄は、不満げな顔で振り返りながら金色の目を光らせて、こっちをにらんだ後ボソッとつぶやいた。『休憩ぐらいさせろよな…。』その後、ひょいと塀に乗って走り去る黄黄に、目を細くして『ごめんよ黄黄。帰ってきたらおやつあげるからね。』とつぶやき返した。そんなやり取りをしていると侍女の明月がお触れにやってきた。
「お嬢様、お客様が到着されました。どちらでお会いになられますか?」
「蓮池の前の東屋にお通しておいて。」
こくりと頷いて足早に立ち去る明月を確認した後、藍には、宮中に戻るように言った。
「え~。そんな。一緒にいたーいい。」
「だめだ。お前の仕事を優先させとけ。それから、奏に人使いが荒いと言っておけ。」
「ぶーーーー。月の意地悪。いいもんだ。黄黄と遊ぶから。それと奏は、月に会う事しか考えてないから無理だね。」
「はいはい。いってらっしゃい。遊ぶのはいいけど注意しろよ。黄黄の力を侮ると火傷するからな。奏もついでに火傷するぐらいでいい。」
藍を送り出して、足早に東屋に向かうと鼻歌が聞こえてきた。海南国で手に入れたであろうリュートの雅な音も聞こえてくる。『全く、こっちの気も知らないで悠長なもんだよ。』ぼやきながら東屋につくとこちらに向かって手を振る重慶が見えた。横には仁軌さんもいた。
「で、今回は、仁軌さんまで担ぎ出してどんな問題を抱えてきたんだ?」
「まあまあ。そうプンスカ怒らずに。な!月涼。」
こちらの話を聞きもせずに重慶は、茶化してくる。仁軌さんは、そんなやり取りを少し斜めに見ながら相変わらずだなとプッ笑うのだった。
「久しぶりだな。月涼。」
「ええ。お久しぶりです。」
仁軌さんと会うのは、半年ぶりだ。北光国の公女失踪事件以来の顔を合わせとなった。まあ、この事件の詳細は、また、詳しく話せるときに置いといて、とりあえず、今回の件について聞く方が先だと思い尋ねようとしたら、さっきまで鼻歌を歌っていた重慶がまじめに話始めた。
ことの発端は、北光国国王が流行り病にかかり危篤になったことからだった。