第十八話
月涼と延妃が無事に宮中から脱出したころ、藍は、輪と合流して事の顛末を伝えた。
「で、月涼様たちは、いったいどこに潜伏するつもりなんでしょう?」
「うーん。黄黄が連絡係になるからって言ってたから、そのうちわかると思うんだけど。その連絡が来るまでは、おとなしく宮中の状況を判断しないとね。それより、国王の容態に変化あったんじゃないか?って月が言ってたけど、どう?」
「よくわかりましたね。先ほど、一度、事切れかけたと話が出ていました。今晩が山ではないかと医師が集まって話しています。」
「輪、延妃の傍仕えの明典を本殿で見なかった?」
「ああ。いましたよ。廷尉を呼びに来たと騒いでいたので、すぐわかりました。」
藍は、明典が厨の状態を見て慌てて、本殿に行った?ということか?それとも月が言うようにすべての罪を擦り付ける手はずなのか?いったいどちらが正しいのかと迷って考え込んだ。とにかく明典の様子を見に行かないと判断がつかない。そんな、藍を見て、輪が話しかける。
「ねえ。ねえ。聞いてる?」
「あ、あー。ごめん。輪。明典のいる場所に連れてってくれない?」
「うん。良いわよ。」
輪は、明典が騒いでいたという場所に、藍を連れて行くと驚くことに明典が拘束されている。拘束されている理由が分からず、柱の陰に隠れて様子を見ることにした輪と藍は、明典に近づく者がいないかそっと観察をした。
「どうなっているんだ?輪。」
「私だってわからないわよ。でも下手に近づける状況じゃないわ。」
「誰かに聞けないかな?」
「こんな時に仁軌さんや仲達さんがいてくれたら役に立つのに…。」
その時だった。背後から藍の肩をガシッとつかむものがいた。
「うわ!!」
「呼んだか?藍もとい花花。」
「なんだ…。仁軌さん。驚かさないでよ。」
「楽しそうに隠れているから…。そっと近づいてやったんじゃないか~ははは。」
「しーーーー!!静かに。」
仁軌は、首をへこめながらクスリと笑いその状況に合わせてやることにした。
「で?お前たち何してるんだ?」
「あそこで縛られてる女官は、何をしたんですか?」
「あー。なんでも後宮の妃に毒を盛ろうとした犯人として拘束されていたぞ。その妃もいなくなって、えらい騒ぎでな。国王もやばいのに後宮でも騒ぎが起きたから、内乱の可能性もあるんじゃないかって廷尉が調べに回っている。」
「仁軌さん。あの女官と話せるタイミング作ってもらえませんか?」
「あー。もしかして、あの女官、お前が潜り込んでる妃の女官か?」
「そうですよ。そのいなくなった妃は、月が連れて行っちゃいましたから。」
「は?なんだって?誰が誰を連れてっただと?」
「だから、月が延妃を連れて逃げたんですってば!!」
「だいたい。どうやって潜り込んでんだあいつ。後宮だぞ?」
「こっちだってそう思いましたよ。変な道具使って変装して堂々と乗り込んできたんですからね。顔面蒼白でしたよ。こっちは!!」
仁軌はあきれるやら何やらだったが、とにかくこの状況を解明していかなくてはならない事だけは、分かった。だが、簡単に会わせるには、今は騒ぎが大きくなりすぎて危険なため、自分の部屋に藍と輪を連れていき仲達も呼んで、これからの手はずを考えることにするのだった。
「とにかく。私の宿舎に行って待ってろ。仲達も呼んでくる。お前たちがいても俺の部屋なら怪しまれない。もし、何か言われたら、騒動が収まるまで来るように言われたと言え。分ったな。」
藍と輪は、コクリと頷いて、足早にその場を離れることにするのだった。