第十五話
自分の寝所に延妃を横たわらせた後、月涼は、延妃の部屋を探れとルーリーに言った。
「おまえは、あの小うるさい小梅ちゃんを介抱するふりをして、延妃の所持品を探ってきてくれ。」
「えー。ヒステリーなタイプは苦手なんだけど…。はあ~。分りましたよ。さっき、つぶやいてた薬草を持ってるか?ですよね。」
「そうだ。多分、知られては困るものだから常に持ち歩いてるはずだ。」
ルーリーは、重い腰を上げて、小梅を寝かしつけた部屋に戻っていった。
『さて、お姫様の寝顔でも見ますか?』そうつぶやいた月涼は、さも既成事実があったかのようにわざと涼麗の姿から月涼の姿に戻り延妃のそばで、転寝を始めた。その翌朝の延妃の叫び声が凄かったのは、言うまでもない。
時は、藍が寝屋事当番を務めた日だ。藍の頭を真っ白にさせた人物が誰だったかである。藍にしてみれば何のため当番をさせたのか?である。自分で乗り込むぐらいならこんなことさせる必要がないはずだ。明典と二人並んで夜伽が終わるまで寝ずの当番の中、部屋のうちからから延妃が明典を呼ぶ声が聞こえた。
「明典、酒を持ってきておくれ。」
「ハイ。小主様。すぐ、花花を向かわせます。」
「いや、其方が取りに行っておくれ。花花には、別の様がある。」
「え?小主様?」
「聞こえなんだか?ソチに酒をと言って居る。花花は、少し中へお入り。」
「は、はい。小主様。」
藍が恐る恐る部屋の扉をすっと引き、中へ入ると、やはり考えた通りの人物がそこに横たわっていた。顔こそ仮面で隠しているが見え見えの変装にしか見えない。藍は、ぶー垂れそうな顔をしながら、文句を大声で発しそうになるのを我慢してマジマジろその顔をにらみつけながら言った。
「小主様、なに用でございますか?」
「ふむ。お前が、月涼の仲間だと聞いておる。」
藍は、腰を抜かしそうになった。いつから知り合いになったのか?しかも月涼と言う名まで言うなんて…。月は、いったい、自分の知らないうちにどこまで、この宮殿に入り込んでいるのか?そう思うと、つい、ムカッときてしまった。
「ひどいじゃないか!!つき!!俺の潜入の意味がないだろ!!自分だけで進めるならもう協力なんかしないからな!!」
月涼は、仮面をフイと取って藍に言った。
「さすが藍だな。まやかしの仮面をしているのにわかるなんて。」
「見え見えだよ。そんな仮面。ただ、目を隠してるだけじゃないか…。それに声まで変えられていないだろう。『つき』ってすぐわかったんだからな。ここに入る前から!!」
「おかしいな…。容姿も変わって見えるはずなんだが?延妃、変わっていないか?」
そう言って、もう一度、仮面をつける月涼。
「ええ。違って見えますわ。いつもの月涼とは、似ても似つかぬ容姿。でなければ、明典も騙されませんことよ。」
「ん?てことは、俺だけ見破ったってこと?」
「そうみたいだな…。今回、この宮中に入ってみたのは、この仮面が有効かどうか試したかったんだ。いつもそばにいるお前をだませたらって思ってさ。だが、見破るものがいるということは、何か条件がありそうだな。一応、入宮前に何人か試したんだけどな。そうなると、どこまで対応できるか分からんな。」
「そうですわね。この仮面があればいつでも月涼と会えて、退屈なこの生活から解放してくれるかと楽しみにしていましたのに…。花花が見破らなければ、この仮面は、成功だって月涼が言うから…。」
「だいたい、そんな変な仮面をどこで、手に入れるんだよ月は!!」
「それは、いろいろとな。青華国のルートは、面白いものが手に入るのさ。」
「また、そっちか!!リュート(※月涼の夫…留学しているため現在は別居中)様が留学から帰ってきたら言いつけてやる!!変なもの買いあさってるって。」
「おいおい…。面倒なこと言うな。藍…。リュートにだけは言うなよ。」
月涼は、困り顔で、今回この様にした経緯を珍しく説明すると言って、藍をなだめ始めた。藍と月涼のやり取りを羨ましそうに聞く延妃は、リュートが誰なのかかなり気になっていたがなかなか聞けずに会話に耳を傾けるしかなかった。