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4、アレックスは問う

 女学徒は、相手に突き飛ばされたのか肩を脱臼していた。

 事態を収拾した後、アレックスは女学徒を保健室に連れていった。折悪しく養護教諭が不在だったので、アレックスは両親に習った応急処置だけ済ませた。人体の治癒は魔力操作のなかでも高度なもので、アレックスは門外漢もいいところだった。

 女学徒は痛みに耐えるように終始無言を貫いていたが、固定具で肩を固定されると少し表情が和らいだ。

「あなた、強かったのね」

 女学徒のつぶやきに、アレックスは視線を上げた。

「まあ、それなりにな」

「RANK1位は伊達じゃないということね」

 女学徒が言った。


 RANKというのは、学徒たちのあいだで非公式につけられる序列を指す言葉だ。公式にはMSCCの結果や授業内実習の成績によってのみ評価されることになっているが、学徒たちはそれらを参照した身内ルールとしてRANKによる優劣をつけている。

 アレックスは総合的な成績として、RANK1位と言われていた。

 そして、アレックスの調べた限り、女学徒のRANKは不明だった。


「まあ、今となってはその一位も形無しだ」

 近くで姿を観察して、アレックスは確信していた。

 目の前の華奢な女が、あの日自分に膝をつかせた張本人であると。

「あんな連中相手に、どうして手こずっていたんだ」

 アレックスはつぶやいた。

 結果的にアレックスが介入して女学徒を助けた形になったが、MSCCでの女学徒の実力を考えれば、自分が出る幕などないはずだった。

「よく意味が分からないわ」

 女学徒は首とかしげた。

「おれを打ち負かすほどの実力があるお前が、どうしてあんな連中相手にいいようにやられていたんだ」

 アレックスは語気を強めた。すると女学徒は言った。


「だって、相手のことを何も知らなかったんだもの」


 今度はアレックスにとって意味が分からなかった。

「どういうことだ」

「情報は資源よ。資源があって初めて戦争は成り立つの。何も持たないこの身一つで、わたしにどうやって戦えと言うの」

「魔力を使えばいいじゃないか」

 すると女学徒はあきれたように言った。


「あなた、魔力について何も知らないのね」


 その言葉でアレックスは、決勝戦での自分の敗因をいまだに理解していないことを思い出した。

 そう、自分はまだ何も知らないのだ。

 改めてそのことに気付かされると、あの敗北以来、心の奥で抱え続けている疑問を抑えることは、これ以上難しかった。


「あの日、いったいおれに何をしたんだ」

 アレックスは単刀直入に言った。

「あの日というのは?」

「とぼけるな。MSCCの決勝戦だ。いったいどんな魔力を使ったんだ」

 一度口に出すと止まらなかった。

「おれを倒した魔力の正体はいったい何なんだ。あんな一瞬で勝負が決まる魔力なんて聞いたことがない。あのときつぶやいた言葉に意味があったのか。それともあらかじめ何らかの魔力操作を施していたのか。おれはどうして負けたんだ」

 本人を前にして、アレックスの抱えた不安が爆発した。疑問は次から次へと湧き上がってくる。

「いくら調べてもお前の情報は出てこなかった。おれを打ち負かすほどの実力があって、なぜ名前すら知られていないんだ。RANKにもそれらしき名前はなかった。おまえはいったい・・・何者なんだ」

 一息に言い切って、アレックスは深く息をついた。

 女学徒はすぐには答えなかった。

 アレックスは女学徒の目を見ることができなかった。

 少し間があって、女学徒は口をひらいた。

「質問は一つずつ順番にしてちょうだい。うるさいったらありゃしない」

 でも、と女学徒はつづけた。

「今日は助けてもらった借りがあるから、特別に答えてあげる」

 その言葉にアレックスが視線を上げると。女学徒の澄んだ目に正面からぶつかった。

 決勝戦で相対したときは、この目を見ることすらなかったのだとアレックスは思った。




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