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3、アレックスは遭遇する

 演習場は主要な校舎から南にはずれた一角にある。

 アレックスは石畳の道を歩きながら、女学徒のことを考えた。


 アンジーの指摘したとおり、アレックスはあの敗北を引きずったままでいた。いい加減に気持ちを切り替えたいのだが、あの女学徒の素性や魔力の正体がわからなければ、敗北から学ぶこともままならない。

 アレックスが学業に身が入らないのは、そんな漠然とした不安のためでもあった。


(ねえ、そんなに気にすることないのよ。上位3名に入れば士官学校には入学できるんだし)


 アンジーの言う通り、あの一回の敗北によってアレックスの将来が閉ざされたわけではない。以前としてアレックスの成績は士官学校を射程にとらえている。

 だが、敗北の意味が軽いのは、自分が学徒の身であるからということを、アレックスは十分にわかっていた。


 アレックスの両親は軍人だった。軍人に敗北は許されない。敗北後の学びもあり得ない。

 自分の両親のたどった道を知っているからこそ、アレックスは、敗北した上に敗因すらつかめていない現状は、我慢ならなかった。

 今日もアレックスは演習に励む。

 紙の上での知識など、未来の戦場では腹の足しにもならない。

 アレックスはそう思っていた。


 演習場に向かう途上、建物の陰に隠れた一角から声が聞こえたような気がした。少し進むと、幾名かの学徒が何かを囲んでいるのが見えた。

 アレックスは足を止めなかった。その一角は、学内の無法者が集まる場所で有名だった。

 どこの学校にも一定数いる連中で、なまじ魔力という強力な武器を持っているがゆえに争うことにためらいがない。ただ、表立って争えば進退にかかわるから、こうして目立たない場所で()便()()解決しているのである。

 アレックスにとっては見慣れた光景だった。


 そのまま通り過ぎようとしたとき、視界の端に映ったのは学徒たちの中心にいる、ひときわ背の低い学徒の姿だった。

 女だった。

 周囲を取り囲む学徒たちの隙間から、黒いざんぎり頭が見えた。学校指定の制服をきっちりとまとい、袖口から細く白い腕が見えている。

 どこか見覚えのある姿だった。

 さっきまで例の決勝戦を考えていたせいで、あの女学徒と姿が重なったのかもしれない。

 あるいは、目の前の女学徒があの日の・・・


 いずれにしても、目の前にあるのは無法者に囲まれた女学徒が一人という構図。

 起こりうる未来を想像すると、アレックスの足は自然と女学徒のほうへ向かっていた。

 1対多数の構図になることは間違いないが、アレックスの足取りにためらいはなく、彼の脳裏に恐怖も敗北の予感もないことは明白だった。

 アレックスにとって敗北を想像しうるのは、もはやあの日の決勝戦の女学徒だけだったのだ。



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