2、アレックスは悩む
MSCCから季節が二つ過ぎた。
アレックスは順調に学年を一つ上げたが、MSCCの傷跡は癒えていなかった。敗北という事実それだけでなく、対戦相手が無名の女学徒だったことが、アレックスの心に根深いしこりを残していた。
MSCCの閉幕後、アレックスは女学徒の素性を探ろうと試みたが、ほとんど収穫は得られなかった。この学校に在籍していることは間違いないようだが、姿を見たことはなかった。
アレックスが在籍しているあいだに、MSCCはあと2度開催される。
今後もあの女学徒と相まみえることを考えると、対戦相手の情報が何も得られていない現状は、これ以上ないほどに恐ろしかった。
「ねえ、ちゃんと聞かないとまた欠点よ」
物思いにふけっていたアレックスに、隣席のアンジーが小声でささやいた。
二人のいる教室では、必修科目の接触魔力操作・基礎の授業が行われていた。
数十年前に魔力の体系化が進んで以降、魔力は接触操作と非接触操作の2種類に大別されるようになった。
そもそも魔力とは自分の意図した対象を操作する力の総称である。対象は土や水や炎、洗車や銃であることもあれば、上級者になれば一定区間の雨雲を対象にとることもできる。
そのような数多ある魔力の在り方を整然と体系化したのが数十年前のこと。
そして現在、この学校ではその体系にのっとって、基礎知識から実践までを段階的に教授するようカリキュラムが組まれていた。
「あたし、もう補習はしてあげないからね」
アンジーは横目でアレックスを見た。
アレックスは実践的な魔力操作には自信があったが、基礎知識はからっきしだった。前回の筆記試験では、見かねたアンジーが手をさしのべてくれたのだった。
アレックスがMSCC筆頭の実力者である一方、アンジーは筆記試験においては上位3%に入る猛者だった。
「ちゃんと聞いてるさ」
アレックスはそっぽを向いたまま答えた。
アンジーは不満げだった。
「ねえ、まだあのときのこと引きずってるの?」
「あのとき?」
「例の決勝戦のことよ」
「・・・もう済んだことだろう」
「うそ。今でもあのときのことで頭がいっぱいのくせに」
アンジーの目が心配を示すように細められた。
「ねえ、そんなに気にする必要ないのよ。上位3名に入れば士官学校には入学できるんだし」
入学以来の付き合いであるアンジーは、アレックスが士官学校志望であることを知っていた。
「だから気にしてないんだよ、本当に」
アレックスは手を振ってアンジーを遠ざけた。
授業はいつの間にか魔力の接触操作の総括に入っており、講師が次週の課題について説明していた。
放課を知らせるチャイムが鳴り、アレックスは荷物をまとめ、アンジーを置いてそそくさと席を立った。
「ちょ、ちょっと、どこに行くのよ」
「実技の演習に行ってくる」
「来週の筆記課題はどうするのよ」
アンジーの声を聞き流して、アレックスは教室を後にした。
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