第9話 美咲との会話の乱入
学校の廊下で、美咲が突然俺に話しかけてきた。俺は少し困惑した。美咲とは別れてからあまり話す機会がなかったからだ。
「他の女の子たちと仲がいいようね」
「それがどうしたんだ?」
美咲は少し切なげに。
「別に、別れたあんたのことなんてどうでもいいけど」
俺はふぅ、とため息をついた。これは何の話だ?
「それで、話ってなんだよ?」
「なんでそんなに頑張れるの?」
俺は疑問に思った。頑張れるって、なんだ? 美咲の言葉には、何か別の意味が隠されているような気がした。
「どういう意味だよ?」
俺は美咲に問い返した。
美咲はしばらく黙っていたが、やがて聞き返してきた。
「サッカーにも、勉強にも、人間関係にも……あんたはいつも全力で頑張ってる……どうしてそんなに力を出せるの?」
俺は少し考え込んだ。確かに、俺は常に全力を尽くすようにしていた。でも、それがどうしてなのかは、自分でもよくわからなかった。
美咲が言ったことに、俺はしばらく考え込んでしまった。
「確かに、知らず知らずのうちに全力で取り組んでいるかもしれないけど、それが美咲にとってどんな意味があるんだ?」
そうやって俺は思った。俺が全力を尽くすのは、ただ単に自分自身に対する挑戦だった。でも、それが他人にどう映るのか、俺にはよくわからなかった。
「まあ、俺はただ、やるからには最善を尽くすんだけだ! それに、サッカーが好きだし、勉強も……まあ、それなりに、頑張っているつもりだけど、なかなかこれが成果が出ないんだよな」
俺はやれやれと思いながらも美咲に自分の気持ちを伝える。
「……何事もそうだけど、好きってだけで片付けられないびっくり 私とあんたの関係のように、それで終わったじゃない?」
俺は少し驚きながら。「それをいうために俺を呼んだのか?」
「いや、それだけじゃないけど……ただ、言いたかったの。あんたって、何事にも真剣に取り組むから、私、尊敬してるの」
「尊敬、か……」
俺は呟いた。まさか美咲からそんなことを言われるとは思ってもいなかった。
「というか、今更そんなこと言うなよ。暑苦しいんじゃなかったのか?だから俺と別れたんだろ?」
俺は少し苛立ちを感じて聞いた。
美咲ははっきりと「それはある」と答えた。
「今も汗臭いわ」と彼女は言ったが、続けて「でも、全力で好きなことに取り組むあんたには尊敬している、それだけ」と言った。
「それに、私は……」
美咲は何かを言いかけた。俺は彼女の表情を見つめた。彼女は言葉を選ぶように少し間をおいてから。
「あんたのそういうところが――」
その時、後ろから「あれ、優君じゃん」という聞きなれた声がした。振り返ると、理恵だった。ジャージ姿で、どうやら練習前のようだ。
「あれ?これはまずいか?」
元カノと話しているところを理恵に見られたら、どう思われるか。
「理恵、なんだよ?」
俺は聞いた。理恵は笑顔で、「練習前にちょっと時間があったから。優君と美咲さんが話してるの見て、声をかけちゃった」
美咲は少し困ったような表情を浮かべ、挨拶を交わした。
「こんにちは、理恵……」
理恵は美咲に気づいて、一瞬驚いたような表情を見せた。
「あれ?もしかして邪魔だった?」
理恵は少し心配そうに聞いた。
美咲は理恵の方を振り返りながら。
「ううん、別に大丈夫よ……こいつに用があるの?」
美咲の目は、俺と理恵の間を行ったり来たりしていた。
しかし、理恵は「ううん、別に? ただ、見かけたから」と答えた。特に用事があるわけではないようだった。
俺はそのやり取りを聞いて、ちょっと安心した。美咲と理恵の間には、特に何かあるわけではなさそうだ。
美咲と理恵の間に特に何かがあるわけではなさそうで、俺は少し安心した。でも、その安息はつかの間だった。
理恵はニコニコしながらも。
「二人で何を話していたの?」
と聞いてきた。俺は内心「やばい」と思いながら、理恵のやつ何を考えているんだ? 俺には分かる。顔は笑っているけど、それは本気じゃない。
何なんだーこの状況! 胃が痛くなる、ボールを蹴っていたい。
「……別に? 私たち二人のことは、理恵にはあまり関係ないことよ」
美咲がはっきり言った。その言い方は少しキツいと感じた。
「おいおい、はっきりと言い過ぎだろ」と俺は心の中で思った。
理恵の表情が少し曇ったのが見えた。彼女は「そう……」と小さく言い、ちょっと落ち込んだようだった。俺は心の中で何かがズシリと重くなった。
そう思ったら、理恵は急に元気を取り戻したようで。
「そうだよね、もう二人は別れているもんね」と言ってきた。その言葉には何か決意のようなものが感じられた。
俺は混乱していた。このドロドロした雰囲気は一体何なんだ?理恵の態度の変化が全く理解できない。いつもは明るくて、俺には妹みたいな存在だった理恵が、こんなにも強い気持ちを見せるなんて、俺には珍しすぎる。
「あーもう、こんなことよりサッカーの練習に行きたい」と、俺は心の中で強く願った。サッカー場では、こんなややこしい感情から解放される。ただボールを蹴る。それだけでいい。
美咲のことも頭に浮かんだ。彼女とのことはもう終わったはずなのに、なぜか記憶の片隅に残っている。美咲といた頃の俺は、今とは違っていた。サッカー一筋だった。でも、今は……。
理恵、梨沙、香織。それぞれとの関係が俺の心をかき乱している。こんなにも女の子たちと深い関わりを持つなんて、中学時代の俺には想像もできなかった。
まぁ、今はこの状況を何とかしないと。練習にも行けない。
理恵の発言の意図、美咲の目的は何なんだろうな?
姉ちゃんに言われた通りに気を付けないと。