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第6話 クレーンゲームで

 サッカーの練習が終わったあと、俺はボールを片付けていた。すると、梨沙が近づいてきた。


「優矢、一緒に帰ろうよ!」


 彼女は言った。彼女の帰り道は逆の方向だし、こんな時間に一緒に帰るのは珍しい。


「え、でもお前の家、逆方向じゃないか?」

「大丈夫、大丈夫! ちょっと遠回りしたいの!」


 そう言って俺の腕を引っ張った。

 梨沙はいつもこのように、ぐいぐいと物事を進めるタイプだ。

 俺は少し戸惑いながらも、彼女の提案に乗ることにした。何か理由があるのかな、と思いながら。




 俺たちは学校を出て、普段とは違う道を歩き始めた。梨沙はいつも通り明るく話していたけど、なんとなく今日はいつもと雰囲気が違う気がした。


 俺たちは普段通らない道を歩いていた。梨沙はいつものように話しかけてくる。「この間、あの子と出かけていたでしょ?」


 梨沙は恐らく理恵のことを指して言った。


「え、ああ、理恵と少し買い物に行っただけだけど」

「ふーん、どうだった?」


 彼女の声にはちょっとした興味と、何かを探るような感じがあった。


「まあ、楽しかったよ」


 なんだか、梨沙の質問が少し気になった。彼女はなぜそんなことを聞くのだろうか。


「そうなんだ……でも、優矢が楽しめてよかったね」


 そう言いながらも顔を俯いていた。

 彼女の表情にはいつもの明るさがなく、なんだか悲しげだった。

 俺は驚いた。


「梨沙、どうしたんだ?」


 いつもは明るくてノリのいい彼女が、こんなにしょんぼりしてるなんて珍しい。


 彼女は少し黙ってから、小さな声で。


「ううん、なんでもない!」


 でも、その声にはどこか寂しげな響きがあった。


 俺はふと気づいた。梨沙が理恵と俺が出かけたことをどこかで悲しんでいるのかもしれない。幼馴染としての理恵と俺の関係が、梨沙にとっては複雑な感情を呼び起こしているのかもしれない。

 そうなのか? 適当に俺が考えているだけかも。姉ちゃんに言われたことを思い返すとそう思ってしまう。


「ぷ! それにしても……優矢って、サッカー以外にも色んなこと楽しめるんだね」


 俺はちょっとイラっとしてしまう。


「なんだよ、それ……馬鹿にしてるのか?」


 確かにサッカーが一番だけど、俺だって普通の青春を楽しみたいと思うこともある。


 梨沙はクスクス笑いながら。


「でもサッカーが一番なんでしょ?」

「まぁ、うーん……それは、そうかも」


 それを聞いて、梨沙はいたずらっぽく言った。


「じゃあさ、私とも行ってよ。デートしてよ!」


 俺は驚く。


「お前、何を勘違いしてるんだ?」

「いやあれは明らかにデートでしょ! 理恵ちゃんとのこと」

「いやいや、あいつとはただの幼馴染だよ」

「ふーん……じゃあ、なおさらいいじゃん」


 彼女は急に走り出して。


「ねぇねぇ、ゲーセン行って遊ぼうよ! ゲーセン、今から!」

「ゲーセン、今から?」

「うん、うちの近くにあるんだよ。ほらほら、決めたなら行くしかない!」


 そう言って、俺の手を引っ張った。

 俺はため息をつきながらも、彼女について行くことにした。「相変わらず強引だな」と思いつつも、梨沙と一緒にいると何だか楽しくなってきた。



 ◆◆◆


 ゲーセンに着くと、騒音といろいろなゲームの光が目を引いた。メダルゲームやクレーンゲームなど、俺も来るのは久しぶりだった。


 梨沙は目を輝かせて、「ほらほら、あれ一緒にやろ!」と言って、あちこちを指差した。俺たちは時間の許す限り、ゲームで楽しんだ。


 そして、梨沙はクレーンゲームの前に立ち止まった。


「なんだよ、これ?」


 俺は梨沙の横に立った。そこには可愛いくまのぬいぐるみがあった。


「こんなのが好きなんだよ、お前」


 俺は軽く笑って言った。


 梨沙は少し照れながらも。


「い、いや……そうだけど、なんか文句ある?」

「怒ってるのか?でも、すごく欲しそうだな」


 梨沙の顔を見た。彼女の目はくまのぬいぐるみに釘付けだった。

 確かに、可愛いし梨沙もこんなのが好きなんだな。

 よし、ここは男として見せつける場面だろう。

 俺はある提案をしてここに宣言した。


「よし、俺が取ってやるよ!」

「え?別にいいよ。こういうのって普通に買った方が安いし」

「でも、欲しいんだろ?だったら俺が取ってやるから安心しろ」


 俺は決意を固めた。

 クレーンゲームに自信はなかったが、梨沙のためなら何でもやるぜ。


 何円つぎ込んだか分からないほど、俺はクレーンゲームに熱中した。

 隣で見守る梨沙は、「もういいよ、ありがとう……気持ちだけで」と言ったが、俺は「ここまできて引き返せないだろ! これ欲しいんだろ? 金の心配なんてするな。お前のために取ってやるから」と言い返した。


 そして、ついに何百回の挑戦の末、くまのぬいぐるみをゲットした。


「やったー!」と俺は叫んだ。


 閉店ギリギリの時間だったが、俺は梨沙に「ほら」と言ってぬいぐるみを投げて渡した。



「これなら文句ないだろ」


 俺はぬいぐるみを渡しながら言った。梨沙は、お金の心配をしているようだったが、


「気にするなよ……欲しかったんだろ、それ」


 俺は笑って言った。


「そうだけどでも……」


 梨沙は言いかけたが、俺はまったく気にしない。


「お前のために取ったんだから」


 強くそう言い放って梨沙の顔を見た。彼女は瞳を見開きながら顔をうつむけた。


「ん?なんだ?」

「あーもう、馬鹿! あんたって……でも、ありがとう! 大切にするね」


 梨沙は言った。彼女の顔が少し赤くなっているのが見えた。


「うーん……じゃあ! 私もお礼に何か今度あげる! これで貸し借りなしで」


 梨沙は言い、ゲームセンターからそそくさと出て行った。閉店ギリギリの時間もあったが、彼女の顔が赤くなっているのが気になった。


 俺はふと、梨沙との距離が近くなっていることに気づいた。


「やっぱり、俺たち、かなり距離が近くなってないか?」


 そう思いながら、梨沙を見送った。今日の出来事は、俺たちの関係に新たな一面を加えたようだ。


 家に帰る途中、俺は今日一日を振り返った。梨沙との時間は、いつもと違う楽しさがあって、何だか新鮮だった。あいつと一緒にいると、サッカーのこと以外にも目を向けられる。それが、俺にとっても大事なことなのかもしれない。


 家に着くと、俺の心はすっかり晴れやかになっていた。梨沙との時間は、俺にとって新たな発見と楽しみを提供してくれていると思った。

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