第5話 理恵と買い物
朝、学校に向かう途中で理恵に会った。
「おはよう、優君!」
彼女はいつも通り元気いっぱいに声をかけてきた。彼女の明るい笑顔は、見るだけで元気が出る。
「おはよう、理恵」
「ねえ優君、もう元気出た?」
理恵が俺のことを心配して聞いてきた。
こいつはいつも俺のことを気にかけてくれるんだ。
「ああ、もう大丈夫だよ」
理恵は「ふーん」と言って、ちょっと考え込むような表情をした
「そうだ!今日放課後、時間空いてる?」
「今日はたまたまサッカーの練習が休みだと思うから時間はあるけど」
「じゃあ、ちょっと買い物に付き合ってよ!」
そんなことを言い出した。
彼女の表情は、何か面白い計画を思いついたみたいだった。
「いいけど、何で俺? 他の女子の方がいいんじゃないか?」
「だって……ほら! 息抜きも必要じゃん」
理恵は俺を説得しようとしていた。確かにそうだけど、理恵と買い物か……ちょっと珍しいなと思った。
「そうだな、いいぜ!」
俺は笑って答えた。
理恵は俺がOKを出すと、とても嬉しそうな顔をした。「どこに行こうか?」と彼女が俺に聞いてきた。
俺はちょっと考える。どうするべきか?
「うーん、俺は別に……でも、サッカー用品とか見たいものがあるかも」
でもそれって、理恵との買い物にはちょっと合わないかなと思った。
「いや、これはまずいかな」
俺は少し困ってしまった。
しかしそれに対して理恵は笑う。
「じゃあ、私の見たいところに行ってもいい?」
「ああ、それならいいよ」
理恵が何を見たいのか、ちょっと興味があったしね。
俺たちは一緒に歩いていたけど、俺の頭の中にはずっと疑問が渦巻いていた。
「なんでそんなに嬉しそうなの?」
俺は理恵に聞いてしまった。
「俺はフラれた魅力ない男だぞ? サッカー馬鹿だぞ?」
理恵は立ち止まって、真剣な顔で俺を見た。
「だから、そんなことないよ」
その言葉に、俺は少しドキッとしてしまった。理恵の目は真剣で、彼女の言葉には何か深い意味があるように感じた。
「うーん、どうしてこんなに……」
俺は考え込んだが、理恵は「いいんだよ! 優君それで」と言って笑顔に戻った。
俺たちはまた歩き始めた。理恵は色んな店を見ながら楽しそうに話をしていた。彼女のそんな姿を見ていると、俺も何だかホッとした気分になった。
◆◆◆
放課後、ショッピングモールに着いて、俺たちは色んな店を回った。理恵は特に服屋や雑貨屋に興味があるみたいで、可愛いものを見つけるたびに「見て見て!」って言ってくる。彼女は小道具やアクセサリーが好きなんだなと思った。
「これ可愛くない?」
理恵が指差した小物を見て。
「お、いいじゃん」
俺は答えた。理恵の選ぶものはセンスがいい。
でも、ふと周りを見ると、ここってカップルが多いなって気付いた。俺と理恵もカップルに見えるのかな? なんか、ちょっと恥ずかしくなってきた。美咲ともここに来たことがあったけど、こんな気持ちになったことはなかった。
俺は理恵と歩いていると、なんだかドキドキしてくる。これってどういう気持ちだろう。サッカーで新しい相手と戦うときのワクワク感みたいな……いやいや、考えるな、考えるな。
「優君、ちょっとこっち来て!」
理恵が手を引っ張って、新しいカフェに連れて行った。彼女はいつも通り元気いっぱいで、俺はその元気につられて、考え事を忘れることができた。
場所を移して、カフェでコーヒーを飲みながら。
「今度の陸上の大会、応援来てね!」
理恵は予定が合うとき俺の試合を応援してくれるから、俺も彼女の大会を応援するのは当然だと思う。
でも、俺はちょっと複雑な気持ちになった。陸上部には美咲もいるから、あまり行きたくない気もするけど、理恵の頼みだし、仕方ないか。
「もちろん、行ってやるよ」
俺は答えた。理恵の走りを見るのはいつも心を打たれる。彼女の力強い姿は、俺にも勇気をくれるんだ。流石は陸上部のエースだ。
「理恵、お前の走りを見ると、俺も頑張らなきゃって思うよ」
理恵の努力と情熱は、いつも俺に刺激を与えてくれる。
しかし、理恵は心配そうに。
「あ……でも、陸上部には美咲さんが、ちょっとやめといたほうがいいかもね」
「……美咲のことは関係ない! 俺は走っている理恵が見たいんだ」
その言葉を言った瞬間、ちょっとまずいことを言ったかなと思った。
理恵は急に顔を背ける。
あれ? なんかおかしなこと言ったか?
「もぉー、またそういうこと言わないでよ」
理恵の声にはちょっと照れくさい感じがあった。
「分からないけど、とにかくよかった」
俺は心の中で思った。そして、理恵に向かって「次の大会、頑張れよ!」と応援した。
理恵は満面の笑みで答えてくれる。
「うん!優君のためにも頑張るよ」
俺たちは帰り道を歩いていた。すると、急に後ろから声がして、俺たちは呼び止められた。
「あれー? 優矢じゃん、どうしたの?」
振り返ると、そこにいたのは中村梨沙だった。サッカー部のマネージャーで、いつも明るくて元気な女の子だ。
「あ、梨沙……ただ、理恵と帰ってるだけだよ」
梨沙は俺たちを見てニコッと笑った。
「ふーん、デート?」とからかうように言った。
理恵はすぐに反論した。
「違うよ!ただの友達だもん!」と言いながら、ちょっと顔を赤らめていた。
梨沙と理恵は知り合いで、顔見知り程度の関係だった。でも俺はなんとなく、梨沙と理恵の間には見えない溝があるような気がしていた。
そして……突然、梨沙は俺に抱きついてきた。
「私ともデートしてよ」
俺は完全に固まった。
「な、な、なんだこの状況は…」
思わず口に出してしまった。
理恵は驚いた顔で梨沙を見ていた。彼女の顔は赤くなり、何か言いたそうだったけど、言葉にできないでいる。
「冗談だよ、ゆうくーん?」
梨沙は笑いながら離れた。彼女の様子はいつも通りの明るさだったけど、理恵は少し動揺しているように見えた。
「じゃあ、またね!」
そう言って、梨沙はその場を去った。
俺と理恵はしばらく黙って立っていた。空気がちょっと重たい。
「えっと、あの……理恵、気にしないでくれよ。梨沙はいつもああいう感じだから」
「うん、分かってる、でも……ちょっとビックリした……だって、あの人も」
「あの人も? 何だよ?」
「……ううん、別にはぁ……ライバルは多いな」
俺たちは再び歩き始めた。ちょっと気まずい雰囲気だったけど、理恵はいつものように話し始めた。彼女の話を聞いているうちに、俺たちはまた普通の会話に戻った。
「今日は本当にありがとう、優君」
「いや、こっちこそ! ありがとな!」
「ねぇ? また誘っていいよね?」
「おう! もちろんだ」
「……! あれがとう! それじゃあね」
理恵と過ごした時間は、いつも俺に新しい発見をくれる。彼女といると、サッカーのこと以外にも色々考えられるようになるんだ。
……それにしてもやっぱり距離が近くなってないか?