第4話 姉に相談したら
夜、俺は姉ちゃんの部屋にいた。20歳で大学生の姉ちゃん、美月の部屋はいつも明るくて、彼女の明るい性格そのまんまだったな。机の上にはテニスの用品が散らばってて、彼女がそれを片付けていた。肩まで届く黒髪を簡単に結んでいる姿は、なんとなくキレイで自然な感じがした。服装は動きやすいカジュアルスタイルで、ラフながらもなんかおしゃれだった。
「実はな、美咲にフラれちまったんだ」
その言葉を口に出すのが、重かった。
姉ちゃんは笑顔を浮かべながら、ちょっと驚いた顔をしたが、すぐにケラケラ笑い出した。
「あーあ、だってあんたどこかのサッカー小僧だもん! きゃははは、そりゃ愛想つかれるって」
「うるせーな」
俺は苛立ちを隠せなかった。
「俺だって自覚してるんだよ! でも、これだけはやめられないんだ……」
姉ちゃんは笑いを収め、真剣な表情になる。
「サッカーが好きなのはいいことだよ! でもね、恋愛ってのはね、ちょっと違うんだのよ」
俺の肩を軽く叩いた。
「女の子はね、サッカーだけじゃなくて、もっと色々なことを一緒に分かち合いたいものなの! あんたも少しは恋愛にも目を向けてみたら?」
俺は姉ちゃんの言葉に耳を傾けた。サッカーだけじゃないのは分かっている。でも、なんとなく恋愛ってのが難しい。
「確かに、美咲とはデートもしたし、お互いの好きなものを共有していたつもりだったけどな! でも、サッカーを優先していたところがあった……彼女よりサッカーを優先してしまったんだと思う」
姉ちゃんは頷く。
「なるほど、それが駄目だったのかもね……まぁ私は男じゃないから分からないけどね、あんたの気持ちもわかるよ! でも、女の子の気持ちは大事にして間違いのないようにしないとね! じゃないとほら」
そう言って、ちょうどテレビのニュースを指差した。
ニュースでは、どこかの大学で誰かが自殺したと報じていた。原因は女性関係だとか。関係者によると、その男性は女性を監禁して自分のものにしようとしたらしい。警察が現場を発見した時、部屋は血だらけで、一人の女性が包丁を持ちながら泣いていたという。
俺はサッカーボールを持ちながら、そのニュースに驚愕した。
「やばいな……これ」
原因は、男性が彼女にフラれ、その妹にストーカー行為をしていたらしい。
「アニメとか漫画かよ……いや、なかなかえげつないこれ」
「あんたはこうなったらだめよ」。
「ならねえよ!こんなのやばいじゃん」
俺はすぐに答えた。こんな事態には絶対になりたくない。
「でも恨みを持っててこうなるじゃん! あんたも元彼女の妹に……」
「そもそも美咲に妹はいないんだよ! いるのは兄ちゃんだけだ」
俺は急いで訂正する。
姉ちゃんはクスッと笑った。
「あーあ、仲良かったのにね」
「うるさい! とにかく余計なお節介だ!」
「そうよ、まぁ元気そうで安心したわ、話があるっていうからどんなことかと思ったら……私なんて、どれだけフラれたら気が済むのよ! はぁ」
俺は笑いながら、頭をかいた。
「なんだよそれ」
そんな軽快なやりとりの後、俺はふと真剣な表情になった。
「でもな、美咲とのことはもう過去のことだ! これからは前を向いて生きる! サッカーも、新しい恋も」
「ぷ! なにそれ……くさい台詞」
「あーうるさいうるさいとにかく俺は新しいシュートを決めまくるぜ」
「あんた、ゴールキーパーでしょ? 受け止めるの間違いじゃない?」
「あ……」
俺は姉の言葉に励まされ、胸に新たな決意を抱いた。どんな困難があっても、俺らしく突き進む。それが、俺のやり方だ。
「未練がないわけではないけど、もういい。美咲のことは……」
心の中にはまだ何か引っかかっているけれど、前を向くしかない。
「それより、俺が別れたって聞いて、3人の反応がなんだか嬉しそうだったんだ。それが気になって……」
「三人ってどういうこと?」
姉ちゃんは興味深そうに聞いた。
「ああ、それは」
俺は説明する。
「一人は幼馴染の理恵、もう一人はクラスの委員長、そして最後はサッカー部のマネージャーだよ! 3人とも、俺がフラれたって聞いて、なんだか嬉しそうな反応をしてたんだ」
「なるほど」
少し考え込んだ様子だった。
「それじゃあ、彼女たちはあんたのことを……」
「え?どういう意味?」
俺は聞き返した。
姉ちゃんは「ははん」と笑う。
「あんたも罪な男だね……こんなやつのどこがいいんだろう」
「は? どういうこと?」
俺は聞いたが、姉ちゃんは「私は分かるけど、教えなーい! 自分で考えたら?」
「んだよ、教えろよ
「はいはい、私は寝るからもう出てって! この相談料は今度何か奢ってよ」
そう言って姉ちゃんは俺を部屋から追い出した。
何なんだよ……くそ。
俺はちょっと不満そうに部屋を出た。姉の言葉を胸に、自分自身で考えることの大切さを感じた。なんで3人が嬉しそうな反応をしたのか、それを自分で理解しようと思った。
俺はちょっと不満そうに姉ちゃんの部屋を出た。姉の言葉を胸に、自分自身で考えることの大切さを感じていた。なんで3人が嬉しそうに反応したのか、それを自分で理解しようと思った。
自室に戻って、俺はベッドに横たわりながら考えた。確かに、俺には至らない点があった。でも、色々考えても仕方ない。今日はもう寝よう。練習で疲れたし、サッカーは俺にとって切り離せないものだ。
「迷うなよ、どんなに言われても否定されようと、これだけは譲れないんだ。だから、俺は……」
そう考えたが、それはなんだか俺らしくない。
「困難にぶつかったら、気合と根性でぶつかればいい!」
それが俺のやり方だ。サッカーにも、恋愛にも、全力で挑む。それが俺のスタイルだ。
気持ちを新たにして、俺はベッドに横になり、目を閉じた。明日もまた、全力で頑張るために、今日はゆっくり休もう。