第3話 詰め寄る女性たち
朝練を終えて、俺は木陰で一息ついていた。空を見上げながら水を飲む。心はまだ重く、美咲との別れが頭から離れない。
「まじで? 美咲さんと別れたの?」
梨沙の声が突然耳に飛び込んできた。彼女の顔は驚きに満ちていた。
「ああ、そうだよ」
俺は言った。彼女に話すことで、何かが軽くなると期待して。
「なーんだ、そんなことか! てか、それって寝取られじゃん! うけるー!」
梨沙は笑ったが、その笑い声が俺の心には響かなかった。
「うるせーな、そんな冗談言うなよ」
俺は苛立ちを隠せずに言い放った。彼女の言葉には、まだ美咲への思いが残っていることを痛感した。
でも、梨沙はすぐに笑顔を取り戻した。
「あはは、ごめんごめん! でもさ、女の数なんていくらでもいるじゃん! あんたならすぐ見つかるって!」
「そう簡単にいくわけねえだろ」
俺はため息をつきながら言った。空を見上げる。彼女の言葉はどこか心地よかったが、まだ心の整理がつかない。
「ま、そう言うけどさ、実は次のターゲットでもう決まってたりして?」
梨沙は茶目っ気たっぷりに言った。
俺は思わず苦笑いを浮かべる。
「まだそんな気分じゃない! まずはサッカーに集中するしかないだろ」
答えた。サッカーへの情熱だけが、今の俺を支えている。
「そうそう、サッカーがあるじゃん! サッカーでストレス発散して、新しい恋を見つけちゃえばいいのよ!」
梨沙は元気よく励ました。
「まぁ、そうだよな、ありがとな」
俺は感謝の気持ちを述べた。彼女の笑顔が、俺の心を少しでも軽くする。
「いつでもここにいるからね! キャプテンのピンチは私が救うよ!」
梨沙は笑いながら言った。その言葉に、俺は少し笑顔を取り戻した。
元気はもらえた。俺は本当にいいやつに恵まれていると思った。そんな時、梨沙が意味深な発言をした。
「なんなら私が貰ってあげよっか? いい物件だと思うよ?」
梨沙は笑いながら言った。
「冗談だよな? それに物みたいにいうなよ」
「えー」
相変わらずからかうのが上手いなと思った。
その後、梨沙の声色が変わった。
「そっか、別れたんだふーん……いいこと聞いちゃった」
「いいことってなんだよ」
「それはあんたが別れたこと」
「お前、俺をからかってんのか?」
「ううん、そういう意味で言ったわけじゃないんだけどな」
「どういう意味だよ?」
俺はますます戸惑った。梨沙がなんで恥ずかしがっているのか理解できなかった。
「あーもう、鈍感! 馬鹿! サッカー野郎!」
梨沙は小さくつぶやいた。
「そんなんだからフラれるのよ」
彼女の言葉に、俺は何かを感じ取ろうとしたが、すぐには理解できなかった。
「たく、もういいから戻るわ! じゃあね、サッカー馬鹿さん」
彼女は言って、軽やかに立ち去った。
俺は彼女の去る姿を見送りながら、自分が何か大切なことを見逃しているような気がした。梨沙の言動にはいつも何か意味があるのに、俺はそれを理解できていないのかもしれない。
「サッカー馬鹿か……」
ぼんやりと呟いた。まあいい、と俺は心を切り替えて、学校へ向かった。しかし、梨沙の言葉はずっと頭の中を駆け巡っていた。
俺は彼女の去る姿を見送りながら、梨沙の言葉に少し心が揺れた。彼女の言葉はいつも軽いけど、どこか心に響く。彼女はいつも俺のことを気にかけてくれている。その事実が、俺の心を温かくした。
「じゃあな」と声をかけると、俺もグラウンドを後にし、学校の建物へ向かった。今日の一日を、新たな気持ちで始めようと思った。
◆◆◆
だけど、授業中はどうにも集中できなくて、結局寝てしまった。先生に怒られたけど、俺の成績はそこまで悪くない。なぜなら、このクラスの委員長、鈴木香織のおかげで、なんとかやってこれたからだ。
授業が終わると、俺の目の前には鈴木香織が立っていた。彼女はいつも通り、しっかりとした姿勢で、真面目な表情をしている。香織の髪は長く、柔らかく波打つように肩にかかっている。彼女はいつも髪を綺麗にまとめていて、その丁寧さが彼女の性格を表している。
彼女の性格は、何事にも一生懸命で、クラスのことを第一に考える真面目さがある。いつも他人の気持ちを察して、周囲の人々を大切にする。だけど、少し内気で、自分の感情を表に出すことは少ない。それでも、俺や他のクラスメイトに対する思いやりは、いつも行動で示してくれる。
「今日もやるわよ、汐崎君」
香織は俺に問いかけた。彼女の声はいつも優しく、でもどこか厳しさが含まれている。俺は彼女のおかげで成績を保てている。彼女は俺のことを学業や人間関係で気にかけてくれていて、何かできることはないかといつも考えている。でも、俺は彼女のその気持ちになかなか気付かない。
彼女はクラスメイトからの信頼も厚く、教師や学校スタッフからも評価されている。委員長としての彼女の努力や責任感は、クラスの中で不可欠なものだ。
香織は俺のためだと言って、いつも俺に勉強を教えてくれる。彼女のおかげで、俺は学校生活をなんとかやり過ごしている。
「わかったよ、やるよ」
俺は彼女に答えた。香織の真剣な眼差しは、俺を本気にさせる。彼女は、俺の学校生活において、本当に大切な存在だ。
香織は成績トップでクラスの委員長、まさに絵に描いたような優等生。そして、俺と香織がこんな関係になったのは、ある偶然の出来事からだった。
あの日、帰り道でサッカーボールが香織に向かって飛んできたんだ。俺は無我夢中でボールを追いかけ、何とか彼女の前でキャッチして助けた。その瞬間、香織の驚いた顔とすぐに安堵の表情に変わる様子が、今でも俺の記憶に鮮明に残っている。
「ありがとう、汐崎君」
香織が言ったとき、俺はただほっとしていた。だけど、それがきっかけで、俺たちは少しずつ話すようになった。最初は小さな会話から始まったけど、徐々に彼女は俺の勉強を見てくれるようになった。
それからの俺たちの関係はちょっと奇妙かもしれないけど、なんだか自然なものになっていった。香織はいつも真剣に俺のことを考えてくれていて、その優しさが俺の心を温めてくれる。
香織は俺のことをよく見ている。今日も、俺が何か心にかかえているのを見抜いたみたいだ。
「汐崎君、今日はいつもと違うね。どこか心ここにあらずって感じ」
「敵わねえな」
俺は感心しつつも、香織にも相談することにした。今日で3人目だ。
俺は美咲との別れのこと、梨沙との会話、そして自分の心の中で起きていることを話した。話し終わると、香織は少し考え込んでいた。
そして、「そう」とだけ言った。
「他に何もないのか? 慰めてくれるとか?」
香織は真剣な顔で言いやがる。
「別にあなたの彼女に他の男がいて暑苦しくてフラれただけでしょ?大事なのはこれからどうするかよ」
その言葉に、俺は一瞬で心が落ち込んだ。泣きそうになる自分に驚いたが、香織は驚かない。
「あら、そんなのでへこたれるあなたじゃないでしょ?」
香織は続けて伝えてくる。
「それにあなたにはもっと平綱もの、そうサッカーがあるでしょ?暑苦しいならそれ以上に暑苦しくなって惹きつければいいのよ」
そして、感激しながら彼女は言い放った。
「私があなたのその暑苦しさに引き込まれた一人なんだから」
その言葉に、俺は嬉しさを感じた。彼女の言葉は、俺にとって心の支えだ。
「ほら、勉強にもどるわよ、もうすぐテストだしね」
「だぁー!」
俺は思わず声を上げた。テストのこと、すっかり忘れてた。なんとかしないと。
俺はふと気づいた。タイプは違うけど、俺は周りの人たちに支えられているんだ。理恵にも、梨沙にも、香織にも。
フラれたことなんて忘れよう。
俺には……そうだ! サッカーがあるんだから。
「うおおおおおおお! やるぞ!」
俺は気合いを入れ直した。サッカーに全力を注げば、他のことは何とかなる。そう思った。
香織はちょっと驚いた顔をしたけど、すぐに笑ってくれた。
「がんばれ、汐崎君」
そうやって励ましてくれた。
そう、俺にはサッカーがある。そして、このクラスにも素晴らしい仲間がいる。俺は元気を取り戻し、勉強に集中することにした。テストもサッカーも、全力で頑張るしかない!
でも、何だろうな、三人とも距離が近くないか? あははは、気のせいか。