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第23話 理恵と香織の気持ち

 帰り道、香織、理恵、そして俺は三人で歩いていた。静かな空気の中、理恵が突然立ち止まり、俺に向かって質問する。


「昨日は何があったの?」


 理恵の声には、不安と好奇心が混ざり合っていた。


 香織は理恵の方を向き、静かに答える。


「そうね、簡単に言うと、私は汐崎君に告白したの」


 その言葉に、理恵の顔色が変わる。驚きと戸惑いが入り混じった表情だった。理恵は俺と香織の間を交互に見つめながら、言葉を探す。


 俺は沈黙を続けていた。香織の告白と、梨沙からの告白、そして理恵との深い関係。これらすべてが心の中で渦巻いている。どう答えればいいのか、自分でも分からなかった。


 香織はさらに付け加える。


「私はずっと汐崎君のことが好きだったの……それを伝えるために勇気を出したのよ」


 その言葉に、理恵は目を伏せる。

 彼女の中にも、言いたいことがあるのだろうが、言葉にできないでいる。


「でも、梨沙ちゃんも告白したんでしょ?」


 理恵が小さな声で尋ねる。


 香織は頷きながら。


「ええ、そうよ! だから、汐崎君は大変ね……二人の気持ちを考えなきゃいけないのだから」


 俺はその状況の重さを感じていた。二人の告白に応える方法を見つけるのは難しい。それに、理恵の感情も気になっていた。


「理恵、俺は……」


 言葉を切り出すが、その瞬間、理恵は俺の言葉を遮る。


「私は、ただ……優君のことを心配しているだけ」理


 恵の声には、隠しきれない感情が込められていた。


 俺は三人の間の複雑な関係に、深く思いを巡らせる。自分の心に正直になる必要があると感じていた。誰を選ぶべきか、それとも誰も選ばないのか。自分自身の感情に向き合い、答えを見つけるためにもう少し時間が必要だった。



 俺の胃が痛くなる。サッカーの試合で感じる緊張よりも、もっと強烈で、不快な感覚だ。この状況は全然楽しくない。香織の告白、梨沙の突然の行動、そして今、理恵の言葉。それぞれが俺の心を引き裂いている。


 俺は一瞬、サッカーのピッチ上で対峙する相手を思い浮かべる。あの時はクリアな目標があった。ボールを奪い、シュートを決める。でも、今のこの状況は、そんな単純なものじゃない。


 理恵の隣を歩きながら、彼女の小さな声に耳を傾ける。彼女の心配する声音に、俺はただただ申し訳なさを感じる。彼女はいつも俺のことを思ってくれている。でも、俺は彼女の気持ちに応えられているのだろうか。


「理恵、本当にごめん……俺、まだ自分の気持ちがはっきりしなくて……」


 言葉を紡ぐが、心の中ではまだ答えが見つからない。


 香織の言葉が頭の中を駆け巡る。「私は汐崎君に告白したの」。梨沙の明るい声が反響する。「私は優矢のことが好きなんだよね?」。そして、理恵の心配する顔が浮かぶ。


「優君、大丈夫?」


 理恵が俺の顔を覗き込む。

 その心配そうな眼差しに、俺は改めて彼女の優しさに触れる。


「うん、大丈夫……ただ、ちょっと考えることが多くてね」


 返事をするが、心の中は複雑な思いでいっぱいだ。


 このままではいけない。俺は自分の感情と向き合い、決断を下さなければならない。それが俺に与えられた課題だ。香織、梨沙、そして理恵に対して、俺は何を言えばいいのか。それを見つけるために、もう少し時間が必要だった。




 香織の言葉に、俺はただただ呆然とする。彼女の言葉には、強い決意と本気の気持ちがこめられていた。それを聞いて、俺の心はさらに複雑な感情に包まれる。


 理恵が香織の言葉にどう反応するか、俺は心配で見ていられない。彼女はいつも強気で明るいけれど、今はどう感じているのだろう。


「香織……」


 理恵の声が小さく震える。俺は彼女の側に立ち、支えるように彼女の肩を軽く抱く。理恵は一瞬、驚いたような顔をするが、すぐに穏やかな表情に変わる。


 香織は自分の気持ちを堂々と表現して、理恵と向き合っている。彼女のその姿勢に、俺は尊敬の念を抱く。でも、俺の気持ちはまだ揺れている。


 俺は自分の心に問いかける。本当に俺はどうしたいんだろう? 香織と梨沙、それに理恵。それぞれに対して、俺はどんな感情を抱いているのか。


「香織……ありがとう! お前の気持ちはすごく嬉しいよ。でも、俺、まだ自分の気持ちがはっきりしなくて……」


 俺は正直に気持ちを伝える。


 香織は少し悲しそうな表情を見せるが、すぐに笑顔に戻る。


「分かってるわ! 時間が必要なのよね」


 理恵は俺と香織を交互に見つめて、何かを考えているようだ。彼女は俺たちの間に入り、言葉を紡ぐ。


「優君、私たちみんな、優君のことを待ってるからね……あなたがどうしたいか、しっかり考えて、それであなたはどうなの? 理恵……さん?」



 香織の質問に、理恵は一瞬言葉を失う。その顔には複雑な感情が浮かんでいた。彼女が口を開くのには少し時間がかかった。


「えっと、それは……」


 理恵の声は小さく、躊躇いがちだった。彼女は深く息を吸い込み、俺の方を一瞬見る。その目には不安と決意が交錯していた。


「香織さん、言ったけどあらためて言うけど……私、優君のこと、昔からずっと好きだったの! だけど、言えなくて、だから、その」


 理恵の言葉は静かだけど、その中には強い感情がこもっていた。


 俺はその言葉を聞いて、心が震えた。理恵がずっと俺に抱いていた感情を、今まで気づかなかった自分に少し落胆する。


 香織は理恵の言葉を聞き、複雑な表情を浮かべた。


「そう……私たちは同じなのね! 汐崎君のことを思う気持ちは」


 俺は二人の間に立ち尽くし、どう言葉を返すべきか迷った。彼女たちの思いが俺に向けられていることが重くのしかかってきた。


「理恵、香織……ありがとう……本当にありがとう。でも、俺はまだ、自分の気持ちがよく分からないんだ」


 俺はそう言って、二人に申し訳なさを感じながらも、正直な気持ちを伝えた。


「分かってるよ、優君! 無理に答えなくていいからね」


 理恵はそう言って微笑んだ。香織も同意するように頷いた。


 俺の心は未だに答えを見つけられずに揺れていた。しかし、理恵と香織の言葉が、俺の心に少しの安堵をもたらした。二人の思いやりに感謝しつつ、俺は自分自身と向き合う時間をもう少し必要としていた。



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