第21話 宣戦布告?
サッカー部の練習が終わり、夕暮れが近づいてきた。俺は練習場の片付けをしていた。心は重く、梨沙と香織からの告白、そしてあの謎の男のことが頭を離れない。もうすぐ大会もある。そんな中で俺はキャプテンとしてしっかりしなきゃならない。でも、心はサッカーに集中できず、がむしゃらにボールを蹴り続けるしかなかった。
練習後、後片付けをしていると、陸上部の理恵が練習を終えて俺のところにやってきた。
「優君、ちょっといい?」
理恵の声が練習場に響く。彼女の表情は真剣そのものだった。
「美咲さんとのことはごめんね……私、あのときちょっと……」
理恵の言葉が続く。
「美咲さん、優君を振ったのに、自分は悪くないみたいな言い方されて、私、それは許せなくて……」
理恵の言葉は、美咲への不満を表していた。優矢を振ったことに対して、彼女は美咲に対する怒りを隠せない様子だった。
「優君、大丈夫? 何かできることある?」
理恵の声には心配がこもっていた。理恵の言葉は俺の心に深く響いた。理恵は、美咲に対する怒りを超えて、俺への心配を示していた。
俺は、理恵の言葉によって、自分の心の中にある感情に気づき始めた。理恵の言葉は、俺に対する深い思いやりを表していた。これは、俺にとって大きな気づきだった。
練習場を後にするとき、俺は理恵に感謝の言葉を伝えた。
「ありがとう、理恵……本当に助かるよ」
理恵の表情は少し和らぎ、「いつでも相談に乗るから安心して!」と言ってくれた。
俺は自分の心と真剣に向き合うことを決めた。梨沙と香織、そして理恵の言葉が俺の心に新たな影響を与えていた。これからの俺の決断が、自分自身の未来を大きく変えることになると思う。心の中にはたくさんの悩みがあるが、俺はそれらに立ち向かう覚悟を決めた。
「ところで……昨日は何をしていたの?」
理恵の突然の質問に、俺は一瞬ドキッとした。理恵の声には、何気ない日常的な好奇心が込められていたが、俺にとっては重い質問だった。
「えっと、その……」
言葉に詰まる俺。昨日のこと、梨沙と香織からの告白のことを話すわけにはいかない。そんなことを理恵に話したら、どうなるかわからない。
その時、遠くから梨沙が手を振りながらこちらに歩いてくるのが見えた。
「おいおい、やばいぞこれ」
心の中で焦る。梨沙が近づいてくると、事態はさらに複雑になりそうだ。
理恵は梨沙を見つけてしまう。
「あ、梨沙ちゃんだ……こんにちは!」
挨拶を交わす。梨沙も笑顔で応じるが、俺はどう接すればいいのか、内心で混乱していた。
梨沙が近づいてくると、理恵は彼女に向かって言った。
「梨沙ちゃん、優君と何か話してたの?」
梨沙はにっこり笑いながら、「うん、ちょっとね」と答えた。その答えに、俺はますます焦りを感じた。梨沙は昨夜のことに触れるのか、それとも何か別の話題を振るのか。俺の心は、これから起こるであろう会話に対して、緊張と不安でいっぱいだった。
この瞬間、俺は自分の気持ちをどう整理すればいいのか、まだわからない。しかし、梨沙と理恵の間で、何か言わなければならない圧力を感じていた。この場をどう切り抜けるか、俺は必死に考えた。
梨沙の口の軽さを知っている俺は、彼女の登場にドキドキしていた。
「何を話していたの?」
理恵が興味深げに尋ねると、梨沙はにこやかな笑顔で答える。
「昨日のこと? 昨日なら、私の家で優矢と一緒にいたよ」
その言葉に、俺は内心で「まさか!」と思った。昨日の夜のことを理恵に話すことは、俺にとってタブーだった。しかし、梨沙の無邪気な発言は、そのタブーを簡単に打ち破った。
理恵は少し驚いた表情を見せ、「えっ、本当に? どういうこと?」と問い返した。梨沙の発言は、理恵に多くの疑問を投げかけるものだった。
俺は急いでフォローしようとした。
「いや、その、ちょっとした用事で……」
言葉を濁す。しかし、梨沙の発言が理恵の心にどのような影を落とすのか、俺には分からなかった。
梨沙は相変わらずの明るさで、事の真相を全く気にしていない様子だった。一方で、理恵の心中は計り知れない。俺はこの複雑な三角関係をどう解決すればいいのか、答えを見つけられずにいた。
この状況が、俺にとっては非常に困難なものだった。梨沙と香織からの告白に加えて、理恵との関係も複雑化していた。俺は混乱し、どう行動すればいいのか、答えを探し続けていた。
梨沙は驚いている理恵に気を留めることなく、明るく言った。
「どういうことって、そういうことだよ。ねぇ? 優矢」
俺は慌てて梨沙を引き離して。
「いや、あってるけど、あってないんだ! これじゃあまるで……」
言葉を濁した。梨沙の言い方は、事実を伝えているようでいて、実際の状況とはかけ離れたものに聞こえた。
理恵はますます困惑してしまう。そりゃそうだろうな。
いや、やばい、やばいぞこれは。
「優君……本当に何があったの?」
深刻な表情で尋ねた。彼女の目には、不安と疑問が浮かんでいた。
俺は、どのように説明すればいいのか、一瞬で頭が混乱した。昨夜の梨沙と香織からの告白、そして梨沙の家で過ごした一晩のことは、簡単には説明できるものではなかった。
「えっと、昨日は……ちょっと複雑で……」
俺は言葉を探しながら答えた。しかし、その言葉は理恵の不安を解消するには十分ではなかった。
この状況をどのように解決すればいいのか、俺はまだ答えを見つけられていなかった。梨沙の軽い発言が、既に複雑な状況をさらにややこしくしてしまった。俺は、この三人の間の微妙な関係をどのように整理し、誰も傷つけないようにするか、深く悩んでいた。
梨沙の言葉には複雑な意味が込められていた。彼女はさらに言葉を続け、無邪気な様子で言った。
「なんでー? 複雑じゃなくて簡単だよ! 説明すると私が優矢に告白して、それでかおるん(香織)も告白したの! だから今、優矢の返事待ちってところじゃない?別に隠し事にするほどのものでもないよ」
この言葉には、俺の心の中にある複雑な感情が反映されていた。梨沙と香織からの告白、そしてその告白に対する俺の返事は、ただ単純な恋愛問題ではなかった。それは、俺の心の中にある深い葛藤と、サッカー部のキャプテンとしての責任、さらには理恵との過去の関係にも関わっていた。
梨沙の明るい表現とは裏腹に、俺の心は混乱していた。彼女の言葉は、俺に対する彼女たちの深い感情を表していたが、同時に、俺が直面している複数の問題の重さをも象徴していた。
理恵は梨沙の言葉に驚いた表情を見せる。
「えっ、それって本当なの? 優君、どういうこと?」
俺に問いかけた。理恵の目には、混乱と心配が見て取れた。
俺は深く息を吸い、どう答えるべきかを考えた。この状況を簡単に説明することはできない。しかし、正直に話すことが最善だと思い、言葉を選びながら答えようとした。
「えっと、理恵、実は……」
俺はゆっくりと話し始めた。この一連の出来事が俺にどんな影響を与えるのか、その答えを見つけるのは簡単ではないが、少なくとも、この場の人たちと正直に向き合うことが、今の俺にできる最善の行動だった。
理恵の表情は不穏な雰囲気を醸し出していた。彼女は梨沙の思わぬ告白に、明らかに動揺していた。その一方で、梨沙はこの場においても自分の気持ちを隠さず、率直に言葉にした。
「はぁ……もういいや! 私はね、優矢のことが好きなの。だからこんなにアピールしてるの! それだけよ! 好きな人に振り向いてもらえるように素直になって、積極的になるのは当り前でしょ?」
梨沙の言葉は、俺に対する感情をストレートに表していた。梨沙の言葉は単なる告白以上のものを含んでいた。それは梨沙の真剣な想いと、自分の気持ちに対する確固たる信念を示しているように思える。
この状況は、俺にとっても複雑で困難なものだった。梨沙と香織からの告白、そして今目の前にいる理恵との過去の関係。これらすべてが俺の心を揺さぶっていた。
理恵は梨沙の言葉に深い衝撃を受け、しばらく言葉を失っていた。
そして、理恵は俺の目をじっと見つめながら、静かに言葉を紡いだ。
「優君……私、ちょっと信じられない。本当にそうなの?」
俺は深くため息をつき、正直に、しかし慎重に答えた。
「うん、本当……だ! でも、俺もまだどうすればいいかわからないんだ。すべてがめちゃくちゃ……俺はだらしないけど決めきれていない……だけど、やっぱり隠し事はよくないよな! 悪かった、別にまだ誰とも付き合っていないし、昨日のことはちゃんと説明する! だから」
この一連の出来事が俺の心にどんな影響を与えるのか、まだ分からない。しかし、一つ確かなことは、俺がこれからの選択に対して真剣に向き合わなければならないということだった。この状況をどうにかするためには、俺自身の心としっかり向き合い、自分の感情を理解する必要があった。
そして、ここに複数のバトルが開始された瞬間? だった。




