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第20話 料理対決?

 朝が明けると、昨夜の告白とそれに伴う緊張感はすっかり消えて、平穏な日常の雰囲気が部屋に戻った。外から差し込む朝日が、部屋の中を優しく照らしている。俺はソファに座りながら、女の子の家で一晩を過ごし、さらに告白されたという事実に思いを馳せていた。心の中は落ち着かない感情でいっぱいだった。


 キッチンの方からは、梨沙と香織の声が聞こえてきていた。梨沙は香織のキッチンを借りて、朝食を作り始めている。彼女の動きは慣れたもので、料理器具を器用に扱いながら、さまざまな食材を手際よく準備していた。一方で、香織は梨沙の隣で手伝っていたが、料理が苦手なのか、動きは少し不器用でぎこちなく見えた。香織は時折、分量の計測を確認しながら慎重に行動している。


「かおるん、料理できないんだ……意外」


 梨沙が軽嫌な口調で言う。


「ええ、親がいつも作ってくれるから、自分で作ることはあまりなかったの」


 少し赤面しながら香織は答えた。梨沙が香織につけた愛称「かおるん」は、二人の間の親密さを表していた。俺はそんな二人のやり取りを聞きながら、いつの間にかこんなに仲良くなったのかと驚きを隠せなかった。


 キッチンからの香ばしい匂いが部屋中に広がり、俺の胃袋を刺激していた。そんな中、梨沙が慌ただしく動く横で、香織が時折、小さな失敗をしたり、梨沙に注意されたりしている様子が見えた。俺は、ただ座って見ているだけでは申し訳ないと感じ、立ち上がりキッチンに向かった。


「手伝おうか?」


 俺が提案すると、梨沙は「うん、ありがと!」と明るく答え、香織も「お願いするわ」と感謝の表情を見せた。そこからは三人で力を合わせて料理を進めた。時折、梨沙の手際の良さに感心しながら、香織が慎重に料理をする姿に微笑む。一緒に料理をすることで、なんとなく昨夜の重たい空気が和らいでいくように感じられた。三人で作った朝食を前にして、俺はほっと一息ついた。



 朝食の準備が整い、テーブルには梨沙と香織が作った料理が美しく並べられた。梨沙の手による料理は、色とりどりのパン、スクランブルエッグ、そして他の付け合わせがあり、見た目も手が込んでいて豪華だった。一方、香織が作った和食は、卵焼き、味噌汁、ご飯など、シンプルながらも心を込めて作られていることが伝わってきた。ただ、卵焼きは少し形が崩れており、味噌汁やご飯も見た目には美味しそうではなかった。


「さあ、お腹減ってるでしょ? 食べてね、優矢!」


 梨沙が促すと、俺はまず梨沙の料理から手をつけた。一口食べると、その味わいに思わず目を見開く。梨沙の料理は見た目だけでなく、味も素晴らしかった。


 次に、俺は勇気を出して香織の料理に手を伸ばした。一口食べると、塩分が多すぎて少し厳しい味がした。しかし、ゴールキーパーとしての精神を持ち前に、俺は香織の料理を食べ続けた。香織の表情は緊張していたが、俺が食べる様子を見て少し安心したように見えた。


「香織、これも美味しいよ」


 俺は励ますように言った。


 香織は「ありがとう、まだまだ練習中なの」と恥ずかしそうに答えた。梨沙は俺と香織の様子をニヤニヤしながら見ていたが、その笑顔には優しさがあった。


 朝食の時間は、昨夜の緊張感から解放され、和やかな雰囲気が漂っていた。料理を通じて、三人で共有する時間は、少しずつ昨夜のことを忘れさせてくれるようなものだった。ただ、俺の心の奥底には、梨沙と香織からの告白への答えをどう出すかという問題が残っていた。それぞれの感情に対して、真剣に向き合わなければならないという重圧を感じつつも、この一時の穏やかな時間を心から楽しんだ。




 香織の料理の評価は、俺にとって難しいものだった。彼女の料理は見た目には劣り、味も正直言ってイマイチだった。特に塩分が多すぎるのが気になり、食べるのが少し大変だった。でも香織の努力を考えると、正直な感想を言うのは忍びなかった。彼女の期待に応えたいという気持ちから、俺は思い切って「おいしいよ」と言った。香織の表情は最初は不安げだったが、俺の言葉に安堵し、笑顔を見せた。


 その一方で、梨沙は自分の料理の方が美味しかったと主張し、香織と比較してしまった。彼女の言葉に、香織の表情は一瞬で悔しさに変わった。香織は黙ってうつむき、その様子が少し心を痛めた。


 梨沙の挑発的な言葉を言い放つ。


「結婚するなら料理ができる方がいいよねー? ねぇ? 優矢?」


 俺はどう反応すべきか迷った。彼女の言葉には冗談めいた感じがあったが、香織への影響も考えると複雑な気持ちになった。


 朝食が終わると、俺は梨沙にマネージャーとしての責任を思い出させる。


「梨沙、もう帰る時間だ……てか、人の家だろ? それにお前はサッカー部のマネージャーだろ?」


 梨沙は少し拗ねたような表情を見せたが、俺の言葉に従った。



 この一連の出来事は、俺の心に深く刻まれた。俺はサッカーの練習へ向かいながら、心の中で深くため息をついた。昨夜の告白と今朝の出来事が、俺の心にどんな影響を与えるのか、まだはっきりとは分からない。



しかし、俺はこの状況を何とかしなければならないという思いを新たにした。梨沙と香織、それぞれの感情に真摯に向き合い、自分自身の気持ちをしっかりと見つめ直す必要があると感じていた。



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