第13話 満たしてあげよっか?
カラオケの後、俺たちは夜道を歩いていた。長い時間遊んだ証拠に、もう外は暗くなってた。
「今日は楽しかったなー! 優矢もそうでしょ?」
ニコニコしながら梨沙は言った。
夜道を歩きながら、俺はふと周りの静けさに気づいた。街の喧騒が遠くに感じられる中で、梨沙との歩調が心地よくリズムを刻んでいる。空には星がちらほらと輝いていて、その美しさにしばらく見とれてしまった。
梨沙との会話が途切れた時でも、この静かな夜の雰囲気がすごく心地よかった。歩く足音と時折聞こえる虫の声が、なんだか心を落ち着けてくれる。今日一日の出来事を振り返りながら、俺は夜の安らぎに包まれていた。
普段は感じないこの静けさと、梨沙の存在がある安心感。こんなにも穏やかな気持ちになれるのは、久しぶりのことだった。何も言わずとも、梨沙と一緒にいるだけで、心が安らぐ。まるで長い一日の疲れを癒やしてくれるような、そんな感覚だった。
でも、同時に俺の心は複雑だった。梨沙と過ごす時間はいつも楽しいけど、心のどこかで理恵や美咲のことが引っかかっていた。梨沙はただの友達なのか、それとも……?俺の心はまるでジェットコースターみたいに上がったり下がったり。
「なんで俺はこんなに心が揺れるんだろう……」
思いながらも、梨沙の存在がどれだけ俺にとって大切か、改めて感じていた。彼女の笑顔、彼女の声、それが俺の心をいつも癒やしてくれる。でも、それ以上に何かを求める自分がいることに、戸惑いも感じていた。
彼女と過ごす時間はいつも特別で、心が軽くなる。でも、それだけじゃない何かが、俺の中で渦巻いていた。梨沙に対する感謝、そして、彼女に対するもっと深い感情……それらが複雑に絡み合っていた。
「ああ、楽しかったよ! ありがとうな」
俺は答えた。確かに美咲と理恵のことで悩んでたけど、梨沙と一緒にいると、そんなことを忘れられた。でも、いつかはあいつらとのことをどうにかしないとな……。
そんなことを考えていると、梨沙が突然立ち止まって、俺の方に近づいてきた。「ねえ優矢、今日は本当にありがとう。ちょっと気分が晴れた?」
梨沙が俺の目を見つめながら聞いてきた。
「うん、晴れた……な」
俺は正直に答えた。梨沙のおかげで、心が軽くなったのは確かだった。
「よかった!」
ほっとしたような笑顔を梨沙は見せた。
その表情を見て、俺もなんだかホッとした。
「梨沙はいつも俺を助けてくれるな……感謝してるよ」
梨沙は「私たちは友達だもん。助け合いってことで!」
笑って言った。彼女の言葉に、俺は改めて友情の大切さを感じた。
夜の空を見上げながら、俺たちはゆっくりと家の方へ歩いていった。梨沙との時間は、いつも俺にとって大切な時間だった。
歩いている間、俺はずっと未来のことを考えてた。今日、梨沙と過ごした時間は本当に楽しかった。でも、心のどこかで、理恵や美咲とのことが引っかかってる。特に美咲との別れや、理恵との最近のやりとりは、俺の心に大きな影を落としているんだ。
でも、今日梨沙と一緒にいて思ったのは、過去にとらわれてばかりじゃダメだってこと。未来は変えられる。俺自身が変わることで、周りの人との関係も変わるはずだ。
梨沙には感謝してる。彼女のおかげで、こんなにも明るく考えられるようになった。これからの俺は、もっと前向きに、自分の未来を切り開いていくんだ。理恵や美咲との関係も、自分なりに一歩ずつ解決していく。そして、梨沙との友情も大切にしながら、自分の心に正直に生きていく。
「ありがとう」と言葉に出してみたけど、それだけじゃ足りないくらい感謝してる。梨沙はいつもそばにいて、俺のことを支えてくれる。こんなに心を開ける友達がいるって、本当に幸せなことだよな。
そう思うと、理恵や美咲との複雑な関係も、ちょっとだけ距離を置いて考えられるようになった。彼女たちとのことも、いつかちゃんと向き合わなきゃいけないけど、今は梨沙との時間を大切にしようと思う。友達って、こんなにも大切な存在なんだなって、今更ながらに気付いた。
梨沙の言葉を聞いて、俺は自分の心の中を深く見つめ直した。いつもはサッカーと美咲や理恵のことばかり考えていたけど、目の前にこんな素敵な女の子がいることに、今更ながら気づいたんだ。梨沙のことを考えると、なんだかドキドキする。こんな感じ、久しぶりだ。
彼女の鞄についてるクマのぬいぐるみを見たとき、俺は彼女の優しさに改めて気づいた。あんなに頑張って取ったぬいぐるみを、大切にしてくれてるんだって。そう思うと、心が温かくなってきた。
「次も何か楽しいこと考えておくね!」
梨沙が言ったとき、俺の心はワクワクした。彼女と過ごす時間が、ますます楽しみになってきた。梨沙の明るさと元気な態度が、俺の心をいつも救ってくれる。彼女といると、日常の悩みを忘れられるんだ。
夜道を歩きながら、俺はふと自分の成長を感じた。いつもは自分のことばかりで、他人の気持ちに鈍感だった。でも、梨沙と過ごすうちに、少しずつ他人を思いやる心が芽生えてきたような気がする。
梨沙のおかげで、今日は本当に素晴らしい一日だった。これからも、彼女との時間を大切にしていきたい。梨沙のそばにいると、なんだか自分も前向きになれる。そんな彼女とこれからも、一緒に楽しい時間を過ごしていきたいと思った。
すると、梨沙が急に俺の耳元で囁いた。
「ねぇ、じゃあ他の女の子を考えられないようにしてあげよっか?」
その甘い声と息が耳に触れると、ビクッとしちゃったよ。拒否する気はないけど、というか、できない感じだった。
「何を考えてるんだ?」
俺は心の中で思った。梨沙は言葉を続けた。
「私ならあんたの心も体もどっちも満たしてあげるよ」
え、それってどういう意味だよ?
「あんた、彼女いたことあるなら分かるでしょ? そういうこと! それに、今日はうちに親がいないんだ」
梨沙が言った時の顔は、なんだかとても蕩けていた。
俺はそれで何となく察してしまった。誘われてるのか? でもどうしてだ?
「どうする?私はあんたのためなら何でもするよ?」
俺の決断は……どうしよう? 頭が混乱してる。でも、梨沙のそんな甘い顔を見てると、心が揺れる。こんなこと、普通はないんだからな。梨沙とこうやって一緒にいるのも、なんだか特別な気がする。でも、こんな状況になるなんて、正直言って驚きだよ。
梨沙の言葉に、俺の心はドキドキしてた。これからどうなるんだろう?俺たちの関係は一体……何なんだ?
梨沙の言葉を聞いた瞬間、俺の心臓はバクバクと激しく打ち始めた。こんなにも直接的な誘いを受けたのは初めてだ。彼女の言葉の意味は明らかだけど、正直、俺は何をしていいか分からなくなっていた。
「あんたのためなら何でもするよ」
という梨沙の甘い声に、俺の心は熱くなる。でも同時に、これが本当に正しい選択なのか、という疑問が頭をよぎる。梨沙とはずっと友達だったし、こんな関係になるとは思ってもみなかった。
梨沙の誘いに対する俺の心の中は複雑で、一歩進む勇気と一歩下がる理性がせめぎ合っていた。この瞬間、俺たちの関係が変わってしまうかもしれない。それが怖いけど、同時に新しい関係の可能性に心を奪われていた。
彼女のそばにいると、いつも安心感を感じる。でも今、その安心感が一瞬で緊張感に変わってしまった。どうすればいいんだ?この状況で正しい判断ができる自信がない。
彼女の言葉に、俺はただ立ち尽くしていた。心の中では、彼女とのこれからを想像しながらも、一歩踏み出すことができないでいる。このまま彼女に従うべきか、それとも距離を置くべきか、俺の心は答えを見つけられずにいた。




