第12話 そんなの気にすることないじゃん
場所を移して梨沙と一緒に公園のベンチに座ってた。
俺は理恵と美咲のことで頭がいっぱいだった。
「どうすればよかったんだろうな……」
俺は思わず口に出した。
「気にすることないよ!」
梨沙はそう言ったが、俺の中のモヤモヤはそう簡単には晴れなかった。
「でもさ、俺が何か違うことをしてれば……」
俺が話そうとしたとき、梨沙は突然ベンチから立ち上がった。
「よし! カラオケ行こう!」
「は? カラオケ?」
俺は戸惑った。
「うん、こういう時は遊んだ方がいいよ! 私の奢りだから、安心して!」
梨沙は笑顔で言った。
「でも、今……」
「こういう時は遊んだ方がいいよ!」
「でも、今こんなことしてていいのかな……」
梨沙は笑ってたけど、俺は遊んでいる場合なのかと心の中で思っていた。理恵と美咲のことが頭から離れなくて、カラオケで歌ったって、本当に楽になれるのか?
でも、梨沙は俺の腕を引っ張ってくる。
「私の奢りだから、安心して!」
「そういう問題なのか?」
「そういう問題よ! ほら、あの時のお礼はするって言ってじゃん」
「それがカラオケかよ!」
「そうだよ? 何か文句ある? ほらほら行く行く!」
その元気な態度に、ちょっとだけ引っ張られてみる気になった。
カラオケで歌うことで、少しは心が晴れるかもしれない。でも、心の中はまだモヤモヤしてる。理恵と美咲のこと、あいつらのことばかり考えちゃって……。
「カラオケで、少しは気分が変わるのか? こいつが遊びたいだけじゃ……」
俺は思いつつ、梨沙について行くことにしたんだ。
「カラオケで少しは気分が変わるかもしれない」と、俺は心の中で思う。梨沙と一緒にいると、いつもなんとなく楽しくなるから、今回もそうなるかもしれないよな。
でも同時に、「でも、心の中のもやもやはそんなに簡単に消えるものじゃない」とも思ってた。理恵と美咲のことが、まだ俺の心に重くのしかかってる。カラオケで歌っても、それがすぐに晴れるとは思えないんだよな。
梨沙は元気いっぱいで、「今日は楽しもうよ!」って言ってるけど、俺の心は完全にはついていけない。なんだか、心が二つに割れてるみたいだ。
「カラオケでちょっとは気分転換できるといいな」と思いつつ、俺は梨沙について歩いてた。まぁ、何事も試してみる価値はあるか。そんなことを考えながら、俺たちはカラオケボックスに到着した。
◆◆◆
カラオケの個室に入った瞬間、なんだか緊張してきた。カラオケ自体久しぶりだし、女の子と二人っきりっていうのもドキドキするよな。
梨沙は俺の隣のソファに座って、選曲を始めた。
「んー、なに歌おうかな~♪」
鼻歌まじりで言ってる。梨沙はいつも通り元気いっぱいで、その様子を見てると、俺も少しリラックス出来るような、出来ないような。
でも、俺の頭の中にはずっと疑問が渦巻いてた。なんで俺たちはカラオケに来てるんだろう。こんな時に、何歌っても心は晴れないような気がして……。
「おい、梨沙」
俺は彼女に声をかけた。
「やっぱり……なんで俺たちはカラオケに来てるんだ?」
梨沙は選曲を一旦中断して、俺の方を向いた。
「えっ、だってさ、優矢がちょっと元気なさそうだったから、気分転換になるかなって思って」
梨沙は笑顔で答えた。
その答えを聞いて、俺はなんとなく納得した。梨沙はいつもこうやって、俺を気にかけてくれるんだ。でも、どうしても理恵と美咲のことが心に引っかかってて……。
「お前……俺のために?」
「うーん、そうだね! サッカー部のマネージャとしてこういうメンタルケア? もしっかりしないとね」
「メンタルケア……そんなことまで考えているのか?」
「優矢は難しいこと考えなくていいのよ! 私がしたいからしてるだけだし」
素直な疑問。メンタルケアという難しい言葉に逃げられた。
俺は少ない脳みそをフル回転させて考える。
うーん、まぁ、俺のことを心配してくれているんだろう。
梨沙は再び選曲を始めた。俺も何か歌を選んでみようかな。
少しは気が紛れるかもしれないし……。
とりあえず、俺もマイクを手に取って、画面を見つめたけど、心の中はぐちゃぐちゃだ。
「何を歌おうかな……」
俺はカラオケの曲リストを眺めてた。
理恵と美咲のことが頭をぐるぐる回ってて、歌詞の一つ一つがなんだか重く感じられる。普通なら気軽に選べる曲も、今はどれもピンと来ない。
「うーん、美咲と理恵……」
俺の頭の中は後悔でいっぱい。カラオケの画面を見つめながら、ずっと考えてた。
「優矢、何か選んだ?」
「あ、うん、ちょっと待って」
梨沙が聞いてきたけど、どうしても心が重くて、歌いたい曲が見つからない。
というか、俺はそこまで歌が上手くない、カラオケに来ないのもあるけど。
結局、俺は適当にポップな曲を選んだけど、マイクを握る手はなんだか震えてた。本当に、これでいいのかな……?
梨沙は俺を気遣ってくれてる。それは分かる。でも、理恵と美咲のことが頭から離れなくて、カラオケで楽しむ気になれないんだ。
「とりあえず、歌ってみるか……」
「あー遅い! 私が先に歌うね!」
「あ、おい」
「いいじゃん、二人しかいないんだし楽しもうよ」
「へいへい……」
曲が始まると、俺は少し緊張しながらもマイクを握った。梨沙の隣で、梨沙が楽しそうに歌ってるのを見て、俺も自然と口ずさんでみた。
最初は心が重かったけど、徐々に歌に集中するうちに、少しずつ気持ちが軽くなってきた。梨沙の笑顔を見ると、なんだかこっちまで元気が出てくる。
「意外と楽しめるかもな」
理恵と美咲のことはまだ心に残ってるけど、少しは頭を切り替えられた気がする。
俺は一曲終わると、梨沙に「何を歌うの?」と聞かれる。
梨沙の提案で来たカラオケだけど、思ったよりもいい気分転換になってる。
カラオケでの時間が過ぎていく。
梨沙が恋愛の曲を選曲して歌っている。かなり切ない歌だ。
好きだった二人が色々あって失恋したが片方が未練があるという。
どこかで聞いたような内容だな。てか、こいつも俺の前でそんな曲を歌うなよ!
心の中で突っ込んだが、曲が終わった瞬間。
梨沙がマイクを持って、全力で俺に。
「元気を出せよ! サッカー部のキャプテン!」
梨沙は大声でマイクを通して言ってくれる。
俺は耳を塞いで、「うるせー」と言った。
近くでマイクで大声を出されると、耳が痛いんだよ。
梨沙は俺を指差しながら。
「何があったかは分からないけど、細かいことでクヨクヨしてんじゃないぞ! キャプテン!」
いや、そうだよな。ただ……あぁ、もういいか。
梨沙は俺の言葉を遮って「それじゃあ1曲目いってみよう!」って言った。彼女のテンションは俺とは全然違う。俺はただ、彼女が歌うのを聞いていた。何となく、その明るさが伝わってきて、少し心が軽くなった気がする。
歌が終わると、俺は無理にでも笑顔を作ってみた。
「おう、上手いじゃん」
「えへへ、ありがとう!」
梨沙の笑顔は、なんだか俺を元気づける。
カラオケで歌う梨沙を見ていると、理恵と美咲のことで頭がいっぱいだったけど、少しずつ心が開けてきたような気がした。梨沙のおかげで、心のもやもやが少し晴れたような気がする。
「次はまた俺が歌ってみるか」
俺はマイクを握った。理恵と美咲のことはまだ心にあるけど、少しは気分を変えられそうだ。
梨沙はカラオケボックスの中で、まるでステージの上にいるみたいに歌ってた。彼女の声は部屋じゅうに響き渡って、なんだか俺まで元気をもらってる感じがした。
「それにしても梨沙って、こんなに歌が上手かったっけ?」
俺は内心で感心した。彼女の歌声は、明るくて力強くて、何だか俺の心を軽くしてくれる。
「どう?楽しめた?」
歌が終わると、梨沙はって聞いてきた。俺は「ああ、意外とな」と答えた。理恵や美咲のことが頭から離れないけど、梨沙と一緒にいると、なんだか気持ちが晴れる。
梨沙の明るさが、俺の暗い気持ちをちょっとだけ晴らしてくれる気がした。彼女のエネルギーが、俺にも少し伝わってきたみたいだ。
そして、しばらく歌い終わった後。カラオケボックスの中で、梨沙が俺の横に座った。
「お前、俺のことを考えてくれてるんだな……」
俺は感謝の気持ちを込めて言った。
梨沙は笑いながら。
「当たり前じゃん! 私たちは友達だもん! それで……優矢が頑張ってくれないとサッカー部は優勝が出来ないでしょ? 私はあんたに惹かれてサッカー部のマネージャになったのよ」
梨沙の明るい笑顔と、そんなに簡単に折れない強さが、俺にも力をくれた。
「ありがとう、梨沙! お前がいてくれて、本当に助かるよ」
「な、なにを急に?」
「いや、こんなに明るくて可愛いマネージャーが俺なんかの相手をしてくれているし……こんな嬉しいことないぜ」
「……あ、あんたにしか」
「ど、どうしたんだよ?」
「ううん、何でもない! あーよかった……私もあんたがキャプテンでよかったよ! だから、いつまでも真っすぐな優矢で居てね!」
俺は素直な気持ちを伝えた。
梨沙はそう言いながらも、嬉しそうに笑っていた。
カラオケでの時間は、梨沙のおかげで、俺にとって大切な時間になった。彼女の励ましとサポートが、俺を支えてくれていることを、改めて感じたんだ。
「梨沙、ありがとうな」
「いいってことよ、楽しんでくれてうれしい!」
俺は彼女に感謝の気持ちを伝えた。梨沙は再びにっこり笑った。
カラオケでの時間は、思ったよりも楽しくて、俺の心も少し軽くなった。梨沙のエネルギーに感化されて、俺も心から楽しむことが出来た。




