第11話 本音で話す
美咲が俺に近づいてきて、静かに言ったんだ。
「あなたの、その何にでもまっすぐなところが、嫌になったの……そんなに頑張って、どうなるの?」
俺はその言葉を聞いて、心が凍りついたような気がした。美咲が俺のことをどう思っていたのか、今までよくわかってなかったけど、その言葉は重くのしかかってきた。
「そんなに頑張って、どうなるの?」
その言葉が、ずっと頭の中をぐるぐる回ってた。俺はいつも全力で何かに取り組むのが当たり前だと思ってたけど、それが美咲にとっては重荷だったのかもしれない。
「俺はただ、全力でやることが好きなだけなんだけど……」
俺は返事をした。でも、声はどこか自信を失っているように聞こえた。
美咲の顔は、悲しげで、どこか遠くを見てるようだった。
「あなたはいつも、自分のことしか考えてない! 周りの人の気持ちに気付かないで」
美咲はさらに言葉を続けた。
その言葉には、俺への怒りと、もしかしたら失望したような感じが混じってた。美咲は、俺が変わることを期待してたのかもしれない。でも、俺はその期待に応えられなかった。
「……それは、そうかもしれないけど」
俺は言った。でも、それが何に対しての謝罪なのか、自分でもよくわからなかった。俺はただ、そこに立って、美咲の言葉を受け止めることしかできなかった。
美咲の言葉には、俺への怒りと、失望したような感じが混じってた。俺が変わることを期待してたのかもしれない。でも、俺はその期待に応えられなかったんだ。
「そんなの勝手よ! 優君はあなたと違ってサッカーに打ち込んでるの! 変な理由で優君の気持ちを踏みにじった人の言葉なんて!」
理恵の怒りはますます増してた。
でも、美咲は静かに言ったち。
「私は優矢のようにはなれないし、あなたのようにはなれない! そう、弱い人間なのよ」
小声で話す美咲の声には、何か諦めのようなものが感じられた。
俺は、その場に立ち尽くしてた。美咲の言葉に、なんか胸が痛んだ。彼女が自分自身を弱いと言う様子は、何とも言えない気持ちにさせられた。美咲が俺に期待していたこと、そしてその期待を裏切ってしまった俺自身の無力さに、何かを感じた。
「……悪いな」
俺は思わず口に出した。でも、それが何を意味してるのか、俺にもよくわからなかった。ただ、彼女の言葉に心が動いたことだけは確かだった。
「悪いってなんで謝るの?」
美咲が俺に聞いた。その質問に、俺はちょっと言葉を失った。確かにな、なんで俺は今、美咲に謝ったんだろう?
「まぁ、確かに暑苦しいのはそうだし……俺もサッカーのことばっかりで、お前のことをちゃんと考えてなかったかもしれない、あの時は、必死で練習についていくのも大変だったし……中学とはまた違ってな、今更こんなこと言うのも変だけどさ」
俺は正直に話した。
美咲は俺の言葉を聞く。
「そう」とだけ答えた。そして、彼女は突然、「やっぱり私はあなたと別れて正解だったと思う」とはっきりと言った。
その言葉を聞いて、俺の心はグサッと痛んだ。でも、その痛みよりも、理恵が突然美咲の頬をバシッと叩いたことに、驚きを隠せなかった。
理恵の行動は、完全に予想外だったから。
理恵が美咲の頬をバシッと叩いた瞬間、美咲の顔に驚きが浮かんだ。でも、それはすぐに何かを悟ったような、複雑な表情に変わった。彼女は痛そうに顔を押さえながら、苦笑いを浮かべたんだ。
「なんで……」と彼女がつぶやいた。その声には、何かを受け入れたような、でもまだ納得できないような感じが混じってた。
美咲は理恵をじっと見つめて、「そんなに私が悪いの?」と言った。その言葉には、自分自身に対する疑問が込められているように感じた。
理恵が何をしたかに対しての怒りよりも、美咲のその複雑な反応が俺を驚かせた。彼女はいつもクールで、何も感じていないように見えるけど、今回は違った。彼女の目は、なんとも言えない深い感情を秘めているようだった。
理恵は怒りに震えながら、美咲をじっと見つめていた。彼女の目には、悲しみや怒りが入り混じっているように見えた。
「あなたなんかに、優君のことを言われたくない!」
理恵が怒鳴った。
理恵が美咲の頬を叩いた瞬間、俺の心は完全に止まった。まさか、理恵がそんなことをするなんて。俺の中で、驚きと戸惑いが大きな波を作った。
「おい!」って、俺は思わず叫んだ。でも、声には力がなかった。この状況が信じられなくて、何をどうしたらいいのか、さっぱり分からなかった。
俺は、理恵と美咲を交互に見つめた。理恵の怒りに満ちた目と、美咲の複雑な表情。この二人に何が起こってるんだ?俺は彼女たちを止めるべきだったのか?
心の中で、心配と無力感が入り混じってた。でも、今の俺には、それがどうすればいいのか分からない。ただ、二人が傷つくのを見たくないって、強く思ってた。
理恵が美咲をにらみつけながら。
「あんたなんかに、優君のことを言われたくない!」
理恵の目には怒りと悲しみが混じっているように見えた。
美咲は冷静に発言する。
「そんなに怒る理由ないでしょ? あなたは優矢と付き合っているわけでもないのに、どうしてそんなに想えるの?」
理恵はそれに黙り込んだ。俺は二人を見て、何と言えばいいのかわからなかった。
「……理恵、お前、もういい! お前の走りを見て俺は勇気を貰えたし、もう美咲とは何でもない、それで俺のためにお前が悪者になる必要はない」
俺は、理恵と美咲に対してやっと本音を言えた。それを言った後、心の中には不思議な安堵感が広がったんだ。
「やっと言えたな」
俺は心の中でつぶやいた。
自分の気持ちを正直に伝えることの大切さを、今回のことで改めて感じたよ。過去のことに囚われて、ずっと重たい思いを抱えていたけど、今は少し肩の荷が下りた気がする。
理恵と美咲が去った後、俺はふと自分自身を振り返った。過去に何が正しくて、何が間違っていたのか、今更考えても仕方ないけど、せめてこれからは、もうちょっと周りの人の気持ちに気を配ろうと思った。
美咲は何も言わずに、そこから走り去ってしまった。後ろ姿は何とも言えない寂しさを感じさせたよ。
理恵も、俺の前まで来て「ごめん」と小さく言って、その場を離れていった。彼女の顔は、悲しみに満ちているように見えた。
理恵と美咲が去る時の光景は、なんとも言えない気持ちを俺の中に残した。
理恵は、美咲の頬を叩いた後、悲しみに満ちた表情で立ち去った。彼女の後ろ姿は、まるで何か大切なものを失ったように見えた。理恵の肩は少し震えていて、深い悲しみが感じられた。
一方、美咲は何も言わずに走り去った。美咲の姿は、まるで何かから逃げるようだった。振り返らずに急いでいる様子は、なんだか逃げ出したい心情を表しているように思えた。
俺と美咲、理恵と美咲の関係は、ますますこじれていくばかりだ。こんな風になるなんて、思ってもみなかったよ。
「もう、何が何だか……」
俺は心の中でつぶやいた。この状況をどう捉えればいいのか、俺にはさっぱりわからなかった。美咲に対する未練、理恵への感謝、そして今起こったことへの困惑。全部が心の中でぐちゃぐちゃに混じり合っていた。
理恵が美咲の頬を叩いたこと、美咲が逃げるように去ったこと。これらすべてが、俺の心をかき乱していた。自分が何を感じているのか、それすらもわからなくなってきた。
そんな時、梨沙が現れる。
「やっほー、って、うわ……なんかやばいことになってない?」
こいつの明るい声に、なんだかホッとした。梨沙の無邪気さが、この重い空気をちょっとだけ和らげてくれた。
「話聞いてあげよっか?」
梨沙が言ってくれた時、俺は「いや、まぁ……あぁ」と答えた。この状況を誰かに話せるって、思っただけで心が軽くなるかも。




