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異世界あるある短編

ブサイクな村娘と盲目の王子様

作者: 川崎悠
掲載日:2023/05/17

「私、ブスです。王子様」

「えっ」


 目に包帯を巻いた、金髪で整った顔立ちをした男性がベッドで上半身を起こしている。


 そんな彼を看病をしていた村娘サリアはベッドの傍に座っている。

 彼はサリアの手を取り、先程まで情熱的な愛の言葉を囁いていた。


 ……のだが。


「つまりブサイクです」


 と、村娘サリアは、落ち着いた声で自分の事を卑下する言葉を吐いた。


「ブサ、イク」

「はい。王子様……なのですよね? 貴方は」

「そ、そうだ。エドワード・メーリッヒ。この国の第一王子に相違ない」

「ではエドワード殿下、とお呼びすれば良いでしょうか」

「む。私の事はエド、と……」


「ですから私、ブスです」

「ブ……。その。あまり自分の事をそのように卑下するものではない、のではないか……?」


「いや。ここは、ハッキリとさせておきたいと思いまして」

「はっきりと」

「はい」

「ブ……ス、と」

「はい」


 村娘サリアは、自身の赤い髪を掴まれてない方の手で弄りながら、面倒くさそうにそう告げた。


「エドワード殿下は、あれですよね。ちょっと今、私に対して夢を見ていますよね」

「ゆ、夢?」

「はい。……たしかに私は、傷ついていたエドワード殿下を助けました」


「うむ。賊を辛うじて返り討ちにしたはいいが、部下達はやられてしまった。

 馬車も潰れ、馬もやられてしまい、私も怪我をしていた。

 慣れない森の中で、はっきり言えば絶体絶命だったのだ。


 ……そこにサリア。君が通り掛かり、手当てをして、助けを呼んでくれた」


「はい。それは否定しません」


 エドワード・メーリッヒ王子が言ったように、彼女は山菜取りに出掛けていた所、この地方ではありえないような現場へと出くわした。

 まるで戦争の後のような悲惨な光景だ。


 野生の獣の解体などを知っているサリアをしても、アレな光景が広がっていた。


「はっきり言ってグロい現場でした」

「グロい現場」

「はい」


 しかし、とはいえ、サリアはただの村娘。

 人が死んでいる。

 だが、戦いのようなものは既に終わっている様子で暴漢が周りに潜んでいる気配はない。


 チラリとでもいいから生存者が居ないかぐらいは確かめても良さそうだと判断した。


 あまりに遅ければ、血の臭いを嗅ぎつけた獣が群がってくる為、サリアとて危ない。

 かなり嫌だが、さっさと生存者の確認だけして去ろうと彼女は決めた。

 そこで見つけられないのなら、悪いが、その者はそれまでの命だ。


 そうして見つけたのが、少し離れた場所に居た男、エドワード・メーリッヒ王子だった。

 包帯を巻く前に見た瞳の色は青色で、かなりの美形。


 絵に描いたような金髪碧眼の、身分もそのまま王子様という風だった。



「私への手当は適切だと聞いた。サリアがいなければ、私はあそこで確実に死んでいただろう」

「はい」

「本当に感謝している」

「人として当然の事をしたまでです。ですが感謝の言葉は受け取ります」

「……私は、感動したんだ」


「まぁ、命が助かった感動はありますよね。分かりますよ。良かったですね」

「そうではない。これは運命の出逢いだと、私は、」



「──ですから私、ブス(・・)です」


「……ブス」

「はい」

「ブス……」

「はい。ブスです」


 村娘サリアは念入りにエドワードに繰り返した。

 2人の会話においての重要なテーマ(・・・)だからだ。


 だから何を置いても、話が進む前にその部分の念を押した。



「命を助けられたんだから感動しても仕方ありません。

 たとえ王子殿下と言えど人間でしょうから。

 それが同年代の異性であれば、私だってキュンとぐらいしていると思います。はい」


「う、うむ」


「ですが私はブスです」


「やめないか? ブスブス言うのは。そういうのは繰り返しても良い事はないと思う。もっと、こう。自分を肯定する言葉を普段から繰り返していくべきではないだろうか?」


「でも大事な事なので」

「大事な事」

「はい」


「しかし、サリアの声はとても可憐な女性のものに聞こえるのだが……」


「声だけで判断されても困るのですが……。別にエドワード様の目は、一生見えないままではないようですし」


「そ、そう、だな。声だけでは……うむ」


「エドワード殿下」

「あ、ああ」


「貴方の中で私、かなり美化されてませんか? それこそ絶世の美人のような姿に」

「…………」


「してますよね? 脳内で美人化。運命の出逢いとか思っていらっしゃるのですから」

「……うむ。可憐な声に似合う容姿だと、想像はしているが……」


「はい。殿下の頭の中でだけは凄く美人な私ですが。現実を見ると、ただのブスです」

「ただのブス」

「はい」


 エドワードは、流石に取っていたサリアの手を離した。

 村娘サリアは、ごく自然に取られていた手を引き、傍にあったタオルで拭き取る。



「仮にこの出逢いを、運命の出逢いのきっかけであったとしましょう」

「う、うむ」

「殿下の目が見えない間、私達は互いに愛を紡ぎ合います」

「あ、ああ」


「そして、看病の果て。ようやく貴方の目が治ります。……村の人間が、何とか領主様などに助けを求めに行ってますので、そもそも完治前にこの場所は発つ事になるかと思いますが……」


「そ、そうなのか?」

「はい。流石に王子を守れる場所ではありませんので」


「しかし、追手などに知られては困るから、黙って匿っておいて……」


「え。もう連絡には動いているのですけど」


「……そ、そうか。まぁ、そうだな。黙っていて良いとは限らないし、普通は緊急連絡を回すな……。それに掛かった費用などは、必ず王宮から補填するし、謝礼なども用意するつもりだ」


「ありがとうございます。まぁ、領主に謝礼が送られて、それが私達の村まで降りてくるのか未知数ですが……」


「厳重に言い聞かせておく」


「あまりお金だけドーンと渡されても場合によっては悪影響ですので、可能であれば領主様とご相談の上、ついでに今の内に村長に話など聞いていて下さると嬉しいです」


「う、うむ」


「もちろん、王子殿下を助けるのは当然の行為と言えばそうなので、高望みは致しません。今後、関わらない方が良いとご判断でしたら、慎ましく過ごします」


「そ、そうか。君は聡明だな、サリア」


「あくまで常識的な反応だと思います」

「そうか? そうかな……」


「話を戻しまして」

「ああ」


「私達が、この短い期間で、恋愛感情を盛り上がらせ、いざ貴方の目が完治し、私の姿が見えるようになったとします」

「あ、ああ」

「貴方は頭の中で思い描いていた絶世の美女と恋愛していたつもりでしたが……」

「…………」


「でも、現実の私はブスでした」


「……う、うむ」

「幻滅しませんか? ギャップのせいで、普通以上に醜く感じるかもしれません。下手をすれば『よくも私を騙したな!』と私は貴方に斬られてしまうかも……」


「顔の美醜で斬ったりはしないが……。そもそも、それは王子とて罪に問われるぞ」

「そうなのですか?」


「王権と司法権は別だからな。一緒にするとロクな事がない。まぁ、特権などはあるにはあるが……。流石にその理由で人を斬ったら王子でも罰を受ける。というか、そもそも人の信条として斬らん」


「……まぁ、難しい国の法や理屈は分からないのですが」


「そ、そうか。すまない。とにかく顔の美醜で人は斬らない。そこは信じて欲しい」


「それはとても有難い事です」


「うむ」


「でも私はブスなんです」


「…………」


「盛り上がる程に盛り上がっても、顔を見た途端、ドーンと気持ちが冷めると思います」

「……そう、か」


「はい。なんとなく、そうなりかねない事は想像できますよね? 命の危険を救ってくれた人、で盛り上がっていて、妄想が膨らんでいて……。でも現実は、思い描いたような理想の美女じゃなかった」


「…………」


「なまじ、今、殿下の目が見えない事も悪い影響ですよね。いくらでも最高の美女を思い描けるでしょうし……。現実にいなそうな美女とか……」


「そう、か……?」


「殿下も困りますよ」


「困るのか?」


「はい。妄想の中の美女への恋が忘れられなくなって、現実の貴族令嬢様達の容姿にまで幻滅しちゃったら……どうされるのです? 理想の美女しか娶るつもりのない王子や王様とか、目も当てられないのでは?」


「それは……そうかもしれない」


「はい。分かってくださいましたか? 今、私達の間で重要な事は、貴方と私に愛が芽生えるかどうかではなく。私がブスな事が重要なのです」


「そう、なの、か?」

「はい。そうなのです」

「そうか……」


 実質として、これでは王子がフラれた形となる。

 また失恋する要素にはなりえておらず。


 未だエドワード・メーリッヒ王子は、村娘サリアを頭の中で美しく思い描いていた。


 そんな時だ。



「おおい。サリア? 王子様の体調はどうだ」

「ああ、トーマス」


 村の若い男、トーマスがエドワードを寝かせている部屋へと入ってきたのだった。



◇◆◇



「……トーマス、とは」


「あ。お目覚めですね。王子様。その。助けはすぐに来ますからね。もてなしは出来ませんが、不自由はさせませんので。自分達の村一同、精一杯、お助け致します」


「あ、ああ。ありがとう」


 トーマスは好青年といった風に答え、王子の為に用意してきた品を広げた。


「体力とか困るでしょうからね。清潔にした包帯とか、ちゃんと用意できましたので。あと、リンゴも。水も汲んできてますよ」

「ありがとう。トーマス。力仕事をさせたわね」


「いや。流石にただの行き倒れでは済みそうにないからなぁ」


 エドワードを助ける事や、村娘サリアが王子と2人きりであった事など気にも留めず、トーマスと呼ばれた男は、サリアと共に王子の看病を始めた。



「……聞こえるにトーマスとやら。貴方は若い男性のように思えるが」

「え? はい。そうですね。若いと思いますよ」


「……年齢は?」

「えっと。今年、成人したての18歳ですが……」

「……サリアはいくつであった?」

「私は17歳です。誕生日が来ていませんので」


「…………」


 エドワード・メーリッヒは2人が同じ年齢の男女である事を悟った。

 2人が気心の知れた関係である事も。


「トーマス」

「え、はい。何でしょうか、王子様」

「私の事はエドワードでいい。呼び方が気になるのであれば、様付けでも、殿下付けや、殿下呼びでも構わない」

「あ、それではエドワード殿下、殿下と」

「ああ」


「それで何でしょうか、殿下」

「……聞きたいのだが。トーマスの目から見て、君にとって。

 サリアは、美しく見えるか? それとも可愛いか?」


「ちょ、殿下!?」


 エドワード・メーリッヒ王子は、まだ疑っていた。

 この可憐な声をした村娘サリアが美しい娘である事を。


「は? えっと、それは一体?」

「答えてくれ」


「えーっと。その」

「…………」


 言い淀む村男トーマス。口を噤む村娘サリア。

 そしてトーマスは戸惑いながらもエドワード・メーリッヒの問いに答えた。



「こ、こんなヤツ、別に、そのブ……、じゃあ絶対にないけど。

 他の女達より地味、って言うか。

 目立たないって言うか、パッとしないって言うか。

 こ、こいつの良さなんて、そこらの他の男共には全く伝わらないんですよ!

 サリアは村に居る他の女達や、俺が見た事のある女達とは、全然違うんです!

 俺にとっては彼女だけですよ、こんなのは!」


「……まぁ!」


「そ、そうか」



(やはり……ブス……なのか? それも、物凄く……?)


(声だけが可愛い、ブサイク。そういう人間も居るのか……)



 長い歴史の中。多くの美しい者が貴族に迎えられた結果、王国の貴族令嬢は、美しい令嬢が数多く居た。

 貴族社会で生きてきた王子のエドワードにとっては、女性とは美しい者が基本だった。


 とはいえ、未だ王ではないエドワードは、王国内の各領地の視察に出向く事が多々ある為、平民の女達とて見ている。

 美醜があるのは分かるが、美しくないからと言って、人間性が損なわれるワケではない。


 殊更に自分をブスだと卑下するような女性とは、さすがに会った事がないのだが……。



(他人に言われる程、自分で強く主張する程、ブスなのか……)


 エドワード・メーリッヒ王子の初恋は、徐々に熱を冷ましていく。


 美しいから惚れたワケではない。

 最初から彼女の容姿を目にする事がエドワードには叶わなかった。


 サリアの、怪我人を(いたわ)る献身的な優しさにこそ惹かれたのではあるが……。


 それも命を助けられた事から来る、一時的に熱くなっただけの感情かもしれない。

 エドワード・メーリッヒ王子は、そう考え始めていた。




「なんて事言うの、トーマス!?」

「ちょ! だって、こんな場所で! 何なんだよ!?」

「貴方! 許さないんだから!」

「サ、サリア、ちょっ……」


 エドワードには見えないが、サリアはトーマスの肩をバシバシと叩いている。

 それは2人にとっては、いつも繰り返していた日常の光景だった。



(随分と親し気に感じる。これが平民の触れあい、暮らしというものか……)


 エドワードは領地の視察に出向く事はあるが、それは王子の責務としての行動だ。

 いつも護衛が傍に居るし、彼を王子だと認識していない者と話す機会はない。


 だから、近くで繰り広げられる民のやり取りに、何か……幸せなものを感じた。



「……2人は随分と仲が良いのだな」


「「えっ!?」」


 村娘サリアと村男トーマスは、エドワードの言葉に綺麗に声を揃えた。


「そ、そんな事……ありませんよ。私達は……まだ」

「そ、そうですよ、殿下。こんな、裏では勝ち気で、危ないって何度も言ってるのに1人で山菜取りに出かける、お転婆娘と」


「余計な一言が多過ぎるのよ、トーマスは!」


「いつも1人で森の中に入るからだろ! 今回なんてタイミングが悪かったら……王子を助けるどころか、戦いに巻き込まれてたかもしれなかったし! 俺がいつもどれだけ心配して……!」


「そ、それは……流石にあんな事、頻繁にあるワケじゃないから……。

 私のせいじゃないわ! 普段は、山の獣とかの対策は取ってるもの!」


「山の獣への対策をしてたって、危ない事には変わりないんだから1人で行く事ないだろう!? 俺は、いつでも時間を作って一緒に行くって言ってるのに!」


「トーマスだって忙しい時があるのに、そんな事させられるワケないでしょ!

 だいたい誰の為に美味しい山菜をいつも探していると思って……!」


「山菜よりサリアの身の安全の方が大事だろ!」


「私は好きでやってるだけよ! 貴方だって、いつも私の山菜料理が美味しいって言ってるじゃない!」


「美味しいのと安全は別の話だろ!? 好きでやる事は良いから、安全の為に一緒に行こうって言ってるんだよ! 何かあった時にすぐ助けられるし!」


「なんでよ!」


「な、なんでって……そりゃ、その」


 村男トーマスは、そこで口を噤む。

 唐突に傍で始まった口喧嘩にエドワード・メーリッヒ王子は、驚くばかりだったが……。



(どうにも2人の仲が悪いようには感じない)


(遠回しの話し方は、貴族特有かと思っていたが……もしや、王国民全体の傾向なのか?)


 エドワード王子は、王国の国民性に新たな発見をした。



「聞きたいのだが」

「あ、は、はい! エドワード殿下!」


 トーマスは、横入りしたエドワードの言葉に幸いとばかりに喰いつく。

 サリアは、そんなトーマスの逃げに頬を膨らませて不満そうにした。



「……サリアにとって、トーマスはどのような男なのだ?」

「えっ!?」


「私は今、君達の姿が見えない。だから教えてくれ。サリアには、トーマスがどのように見えている?」


「そ、それは……その」

「…………」


 言い淀むサリアの姿を、トーマスは真剣な目で見つめ、黙り込む。


「……、そのっ、だからっ……えっと。べ、別に!

 気にならなくて! 格好良い所なんて少ししかないし!

 優しいだけが取り柄って言いますか!

 細かい気配りばっかりで……。力仕事とかはいつもやってくれますけど!

 私が作った料理をなんでも美味しいって言う(した)音痴(おんち)なんですよ!?


 だいたい大きな町にいつも一緒に買い物に行く時だって、荷物が多くなるからって常にひっ付いてくるお節介だし!

 あと、他の女の子達と、私への扱いをはっきり変えてくるんです!


 そうされると、いつも私は仲の良い女友達にニヤニヤ笑われて、からかわれるし……!

 呆れられてるんですよ!? 女友達はもう全員が結婚してるし、もう! もう!」



「そ、そうか……」


(たとえ顔が美しくない、いや、平凡以下なのだとしても。

 女性に対して、それだけで扱いを変えるのは良くない事だな……)


(私は王子だからこそ、振る舞いが紳士過ぎても良くない場合があるとはいえ……だ。

 この出逢いに私は感謝し、普段の振る舞いや、人への接し方を考えるべきかもしれない……)


 エドワード王子は、この出来事を運命の出逢いではなくとも、何か教訓を得た、良き思い出にしようと考え始めていた。


 まだ彼には正式な婚約者が居ない。

 政略的な候補も居はするが……どこか踏み出せなかった。


 尊敬し合える女性とこそ結ばれたいという気持ちが邪魔をして、国王に決断を踏み止まらせていたのだ。


 しかし、そろそろ婚約相手を決めなければならない、ギリギリの時期も迫っている。

 そんな時にサリアと出逢ったからこそ、この出逢いが運命だと燃え上ったのだが……。


 容姿が優れない、という言葉だけで冷めてしまう恋ならば長続きしないかもしれない。


 今、目が見えれば、それでもサリアへの気持ちは変わらないと判断を下せたかもしれないが。


 王子である自身の伴侶を選ぶには、この出逢いと初恋は、夢を見過ぎだと思える程には頭は冷静になれた。



(至らぬ事ばかりだ。私には、この2人のように問題を指摘し合えるような伴侶が相応しいのだろうな)


 王子である、或いは次期国王になるかもしれない自分に対して、サリアとトーマスのように意見を言えるような相手。


(……婚約者候補の一人であるマリーナ・サリュエル公爵令嬢などは気の強い令嬢だ)


 エドワードの頭に、1人の令嬢の姿が思い浮かんだ。


(彼女は、私の婚約者を決める場だと言うのに、美しく着飾る事や、好意を表すよりも、苦言とも言える強気な言葉を投げかける令嬢だった……)


(今までは、その気の強さに辟易していた面も強かったが……どうだ)


(この2人のように言い争いが出来る相手というのは、美しさや、愛よりも得難いものではないだろうか?)


(特に自分は王族なのだ。ロマンチックな運命の出逢いよりも大事にすべき義務がある)


 そこまで王族らしく考えたエドワード・メーリッヒだが。

 次には、少し、自分勝手な事も考えた。



(…………まぁ、その。マリーナ・サリュエル公爵令嬢は、気が強い点が問題だったが……美しさは抜きん出ているし)


(サリアが……失礼だが、そこまで? ブス? な事と比べれば、マリーナは、それこそ絶世の美女だと思う)


(これもまた更に失礼な話なのだが……サリアの姿を如何に美女かと思い描いた時、実はマリーナ・サリュエルの姿を思い浮かべていた……)


(彼女の気の強さが、未来の夫婦生活において魅力の一部となるならば……はっきり言ってマリーナは最高の伴侶となるだろう)



「……うむ」


 やはり、これもまた運命の出逢いなのかもしれない。

 この出来事は、エドワード・メーリッヒの生涯の伴侶を決める上で必要な出来事だったのだ。


(私を守って死んでしまった部下達には申し訳ないが……)


 馬車が崖の上で襲われた時。

 襲ったのは騎士団のような集団ではなかった。


 おそらく金持ちの馬車程度の認識だったろう賊達だ。


 近隣の領地を移動していた間に目を付けられたのだろう。

 移動を早める為、護衛を少数にしていたのも仇になった。


(……頭が冷えれば、申し訳なさに潰されそうになるな……)


 王子と護衛。その命には差がある。

 とはいえ……。


(熱に浮かされて、辛い事を見ないフリをする時間も、終わりだ)


 自分を守ってくれた護衛騎士達の家族にも立派であったと伝えなければならないし。

 そもそも彼等を弔ってやらなければならない。


 どうも村人達が騎士達の遺体を運んでくれたらしいが……。



「サリア。トーマス」

「は、はい。エドワード殿下」


「……村長を呼んでくれるか? 既に領主に知らせてあるのならば、直に迎えも来るだろう。その前に、この村や自分を救ってくれたサリアに対して、どのように礼をすれば良いか、話し合いたい」


「そ、そうですか。では村長を呼んで参りますね……」

「ああ。頼む、サリア」


 と、赤髪の村娘サリアが部屋を出ていく音が聞こえた。


「トーマス」

「は、はい」

「……これは、あまり他人の私が言うものでもないと思うのだが……」

「はい」


「……彼女に好意を抱いているのならば、素直な言葉で告げるのが良いと思うぞ?」

「えっ!?」


 エドワードには、トーマスがサリアを好いているように聞こえていた。

 貴族流ではないものの、明らかに好意があると言っているように感じたのだ。



「……もうしないが、告白しておく。私は、先程まで……その。サリアを口説いていた」

「えええ!? お、王子様が!?」


「ああ……。幸い、頭は冷えたが……。トーマスよ」

「は、はい」


「女性を口説く際は……ストレートで良いのだ」

「は、はぁ」


「……まぁ、そう言う私にも婚約者がまだ居ないワケだが」

「え、いらっしゃらないんです?」

「……父に甘えて婚約者を決めるのを遅らせていた」

「そ、それはまた」


「だが、私はトーマスとサリアのやり取りを聞いて決めた」

「えっ!? ま、まさか……」


「ああ。目が治れば、ある公爵令嬢に対して求婚しに向かうつもりだ」

「こ、公爵! 令嬢様、ですか?」

「うむ。だからだ」


「は、はい?」


「トーマスよ。王子である私も、結婚に向けて一歩踏み出す。勇気を出して、だ」

「…………」


「だから、だ。トーマス。お前も踏み出すといい。ストレートに、素直に、サリアに愛を語るのだ」

「え、ええ……? でも、そんな恥ずかしい……」


「うむ。そうだろう。だが、お前はしなければならないのだ」

「えっ」


「……私も、この時期になって今更に求婚に向かうのは恥ずかしい。『え、今更ですか?』と言われた時の事を考えると、なんだか情けない気持ちにさえなる。というか、下手したら既に別の男性と婚約してるかもなどと思ったら、凄く怖い」


「王子殿下が」

「王子も人間だ」

「それはそうですけど」


「なので、私一人がそんな事をするのはイヤだ」

「ええ?」

「というワケで、王子として命令(・・)する。トーマスよ。サリアの事が好きであるならば、お前も私と同じく求婚せよ」

「そんな!? 王子命令!? そんなのあるんですか!? いえ、王族に逆らいはしませんけど……!」


「あるのだ。今作った」

「今作った!?」


「代わりに、この後、手紙を私に送る事を許す」

「ええ?」



「お前達の恋路が上手くいったかいかなかったか。それだけでも報せよ。……その際、個人的に必要な物と、村や領地などの環境においてして欲しい事があれば、一緒に手紙に書くといい。

 サリアと相談しても良い。サリアに贈る何かが欲しいと言うのなら用意してやろう。


 村娘サリアは、エドワード・メーリッヒ第一王子の初恋(・・)の相手だ。

 トーマスよ。お前は、それほどの女に求婚するのだと心得よ」


「……王子殿下の、初恋相手」


「ああ。……まぁ、その。なんだ。容姿が……その。振るわないらしいが、うむ。それでもだ」

「え? 容姿が振るわない?」


「ああ。彼女は自分で自分が、その。ブスなのだと強く主張していてな……」


「はぁ……? サリアはブスなんかじゃありませんよ。他の男が何と言ったって絶対に」



「うむ。そうだな。そうだろうとも。トーマス。


 お前に(・・・)とっては(・・・・)、そうなのだろう。


 そう思うのならば毎日でも、そうサリアに言ってやるといい。

 その際、いちいち『周りが何と言っても』とか、そういう事は言わなくていい。

 周りと比較するな。そういうのは本人が一番気にしている物らしいからな」


「いや、本当にブスじゃないんですが……。むしろ可愛い方というか」


「分かっている。先程の2人のやり取りで、お前がサリアに心底惚れている事は。どんな相手でも愛さえあれば美しく見える。それで良い。それで良いのだ。私は真実の愛を見てはいないが、聞いた。うむ」


「いや、その」


「良いのだ。人は見た目ではない。愛こそが大事。そういう夫婦があっても良い。それは私にとって救いある事だ。お前だけでもいい。お前がサリアを生涯愛し続け、そして美しいと囁き続けてやれ」


「いや、だから」


「王子命令だ。トーマス。サリアに求婚し、愛を囁き、お前の感じるままに彼女を美しいと褒め讃えよ。

 そして……長く幸福に過ごせ」


「…………」


「私は、王となっても、お前達のような民草が居る事を常に覚えていよう。

 私が守る国の下には、想い合い、愛し合う者達が居るのだと」


「……エドワード王子」


「誰も信じないかもしれないが……自慢に、誇りに思うと良い。お前の愛した女は、王の初恋の相手なのだと」


「いや、信じる……どうかな。流石に話が盛り過ぎと思われるかな……」


「お前の胸の内に秘めておくだけでも良いさ。誇りに思っていろ」


「……はい。エドワード……殿下。未来の国王陛下」

「うむ」



 そうして、話し終えると村長がやって来た。

 エドワードは、話し相手をトーマス達から村長へと変え、しばらくの後、領主が送ってきた護衛と馬車によって村を出ていった。


 村にまで伝わるのは遅かったが、その後、公爵令嬢に求婚した第一王子が、正式に彼女を婚約者に据えたと聞く。


 婚約者が決まった事で長く保留されていた立太子も済み、エドワード・メーリッヒ王子は、未来の王となる事が決まった。



 マリーナ・サリュエル公爵令嬢は気が強く、よく王子に意見したが……。

 今までと違い、エドワード王子は微笑んで、彼女との討論を真剣に楽しんだ。

 そんな彼の姿勢に、サリュエル公爵令嬢は絆され、良好な関係を築くようになった。


 またエドワード王子は、いつもサリュエル公爵令嬢を美しいと褒め称えた。

 社交界でも同じだ。美しく、彼女に似合うドレスを用意し、彼女を喜ばせた。


 政略結婚だった事が嘘のように、もはや互いに愛し合う婚約者同士となっていったのだった。



◇◆◇



「さ、サリア」

「え、トーマス……?」


「あ、あ、あ、……愛して! います! 僕と結婚! して、ください!」

「────!」


 トーマスは、王子が去り、いつもの日常が帰った村の中。

 サリアの前に跪き、彼女にプロポーズした。


「と、トーマス。ほ、本当に? 本当に言ってるの?」


「あ、ああ……! 恥ずかしい、けど。本心だ。ずっと、ずっと好きだった。愛してる……。サリアの事、ずっと可愛いって思ってた。村一番の美人だって今も思ってるし……、一緒に居たい」


「トーマス……」


「しょ、将来的な事とかも! 考えて! ました! 家はあるし! 2人一緒に暮らせる……今も、ほとんど変わらないけど」

「トーマス。いいのよ。そんなの。私は今まで通りの生活でだって構わない。ただ、貴方が……私と夫婦になってくれるだけで」

「じゃ、じゃあ!?」


「受けるわ。そのプロポーズ。……遅いくらい。ずっと待ってたのに」

「ご、ごめん。その。恥ずかしくて……」

「分かってる。私も言い出せなかったから」


「……うん。サリア。僕のこと……」

「ええ! 愛している。ずっと愛していたわ!」



 こうして。

 村娘サリアとトーマスは結婚する事になった。


 そうは言っても2人の生活は、ほとんど変わりない。

 村の中では有名だが、ほとんど結婚しているも同然の2人だった。


 まだ結婚していないと言われて首を傾げられる程だ。


 この2人が夫婦でないなら何なんだ、と村人達は長く疑問に思っていた。



 2人がしばらく結婚に向けての準備を送り、幸せに過ごしているとトーマスはサリアに尋ねた。



「でも、良かったのか、サリア?」

「うん?」

「……実は、エドワード王子に口説かれてたって聞いて」

「え、誰に?」

「王子本人に」

「あー……」

「あ、別に責めてるワケじゃないぞ? 単に、その。俺で良かったのかなって」


「分かってるわ。それに貴方だからいいのよ。だって」

「だって?」


「……王子殿下に言葉を掛けられた時、貴方と離れるのがイヤだって思ったの。だから」


「あっ。それで自分のことを?」

「うん。『私、ブスです。王子様』って言ったのよ。彼、目が見えない状態だったし。その、別に私も自信があるワケじゃないから嘘でもないじゃない?」


「あはは!」


 トーマスは、愛おし気にサリアを抱き寄せた。


「サリアは、こんなにも可愛らしくて綺麗なのに? 王子に嘘を吐いたね、サリア」

「……もうっ!」


 互いの想いを確かめ合った2人は、今まで以上に親密な仲になった。

 何よりもトーマスは王子の言葉を守り、サリアを愛し、本心から美しいと囁き続けた。


 その為、前まで以上に情熱的な関係へと発展したのだ。

 エドワード・エーリッヒ王子の配慮により、地方の経済も活性化して、豊かになった村。


 良い事尽くしの村だが……。

 サリアとトーマスの2人の情熱的な関係を見せつけられる事にだけは困っている。



 ~Fin~


【村娘が傷ついた王子様を助けて】シチュエーションから始まるラブコメ系で1本!


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― 新着の感想 ―
こんなにブスを連呼してる小説、初めて……!(絶賛) 全員可愛いです。
[良い点] 王子の悟り。 公爵令嬢から気の強い可愛い私好みヒロインの香りがするので、婚約申し込んでからこの二人が心情的にくっつく話が見たかった。 [一言] ちょっとこの話の主旨とはずれますが、王子様や…
[良い点] レビューから来ました! [一言] なんていい話(*^^*)
2024/08/21 12:06 退会済み
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