エピローグ
あれから数日が経過した頃、俺たちはヴォルグで瓦礫の片づけや、復興の手伝いをしていた。
大きな瓦礫を運び、うんと腰を伸ばしているミリルに問いかける。
「よぉ、ミリル。体はもう平気か?」
「あっ、タロウさん! えぇ、まぁ、おかげさまで……」
「ミリルは本当に何も覚えてないのか? 創造神に体を乗っ取られた時のことも、どうしてあの十字架をしていたのかも」
「そうなんすよね~。ここ一ヵ月だか二ヵ月だかの間、たまーに寝落ちすることが増えたなぁ、程度には違和感はあったんですけどね。あの十字架も、気づいたら首にぶら下がってたので、なんかおしゃれだったのでそのまま使ってました!」
「生き方がおおざっぱすぎる……」
「あはは! ……けど、皆さんにはご迷惑をおかけしたみたいで、その分頑張って恩返しさせていただきます!」
「気にするな。お前は被害者で、悪いのは創造神だ。それはもうみんな知ってることだ」
「はい……。けど、カルシュ騎士団長やみんなが死んじゃったのは、やっぱりちょっと寂しいですね……」
落ち込んだ様子のミリルだったが、その向こうで同じ騎士団の連中がこちらに向かって手を振った。
「おーい、ミリル! こっちも手伝ってくれー」
「あ、はーい! 今行くっす!」
元気よく返事をしたミリルに、一言だけ告げる。
「お前にはまだ仲間がいる。これから騎士団がどうなっていくのかはお前たち次第だ。がんばれよ」
「はいっ!」
満面の笑みを浮かべ、ミリルは仲間たちの元へ走って行った。
次の瓦礫を運ぼうと思ったら、野太い男たちの声が聞こえてきた。
「おーい! ツカサの姉さん! これってこっち運べばいいんですかい?」
「ツカサの姉さん! これどこに置けばいいですか?」
「ツカサの姉さん!」
そんな野太い男たちの声に、ツカサが短いため息を吐いて応対する。
「何度も言うが、その呼び方はやめろ……」
「いえいえ! ツカサの姉さんは俺たちの命の恩人ですから!」
「はぁ……もうわかったよ」
「はい! ツカサの姉さん!」
「…………」
こんな具合で、ツカサへのあらぬ噂は日に日に薄らいでいる。
視界の端でエマが仕事をさぼって干し肉をむさぼっているのに気付いたが、それには気づかないふりをしてそっとやりすごした。
その後しばらく瓦礫撤去の仕事をしていると、思いつめたような表情を浮かべているソフィアを発見した。
「ソフィア、大丈夫か?」
「あ、タロウ様……。えぇ、もちろん大丈夫ですよ」
「記録神のことを考えていたのか?」
「……はい」
ソフィアが住んでいた国、ヴィラルを滅ぼした仇敵、記録神。
創造神を葬った時に出現した魔法陣が放つ禍々しさを思い出すと、それだけで鳥肌が立った。
「記録神と戦うの、リリーはあんまりおすすめしないかなぁ」
いつの間にか空中に浮かんでいたリリーは、どこか心配そうに眉をひそめている。
「相変わらず神出鬼没だな……。で? 記録神と戦うなってのは、相手がそれだけ強いってことか?」
「う~ん……。立場上、あんまり具体的なことは言えないんだけどねっ。記録神っていうのは、元々そんなに強い唯一神候補じゃなかったんだけど、文字通り記録を司ってる神様だからねっ。選定の儀を繰り返せば繰り返すだけ、その記録を次に持ち越せるみたいだから、最近じゃあ、もう誰も敵わないくらい強くなっちゃってるんだよねっ」
「記録を持ち越せるって、つまり……俺以前のフェンリルとの戦いが記録されてたら、こっちの手の内はすでに筒抜けかもしれないってことか?」
「そうなるねっ!」
「そうなるねって……」
「けど、タロウくんががんばるって言うならリリーは応援するよっ! おすすめはしないけど!」
「あぁ、そう……」
そう言い残し、リリーはいつものようにその場から霧のように消え去った。
今までの選定の儀の記録を持ってる敵だなんて、そんなのどうやって倒せって言うんだよ……。
と、思わず弱音を吐きそうになったが、ソフィアが心配そうな表情を浮かべていたのでぐっと言葉を呑み込んだ。
「そんな顔するな。ま、俺たちならなんとかなるさ」
「タロウ様……」
そこへ、レイナが背後から忍び寄ってきて、俺の体をひょいっと持ち上げる。
「あら? タロウ、昨日よりちょっともふもふ感が増した?」
ソフィアが慌ててレイナから俺をぶんどった。
「ちょっと、レイナさん! 私の許可なくタロウ様をもふもふするのはやめてください!」
俺許可制なの?
レイナは物欲しそうにこちらに手を伸ばしている。
「あぁ~、もう~……」
と、残念がったレイナは、少し真剣な口調に変わり、
「それはそうとね、ようやく記録神に繋がる情報が手に入るかもしれないのよ」
「なにっ!? それは本当か!?」
「えぇ。あなたたちも知ってると思うけど、ほら、神鬼と一緒にいて、今リラボルで拘束されてるエリザって人が持ってる魔眼。あれで、ミリルが持ってたカミガカリを見つける十字架を調べれば、敵の拠点が分かるかもしれないらしいの」
「敵の拠点が……? つまりうまくいけば、こちらから先手を打てるってわけか」
「えぇ、そうなるわね」
レイナの言葉に、ソフィアが意を決したように言う。
「行きましょう、タロウ様。今度こそ、記録神の好きにはさせません!」
こうして、俺たちの次の目的が決定した。




