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第30話『創造神と記録神(きろくのかみ)』

 真の力を解放した創造神は、戦意さえ削いでしまう程の圧倒的な覇気を放っていたが、その場では最も腕の立つレイナだけがその事実に気づき、それ以外の冒険者たちは勢いを弛めなかった。


「何が全力だ! さっきまでと同じじゃねぇか!」


「そうだそうだ! やっちまえ!」


「おぉぉぉぉ!」


 そうやって剣を振り上げた冒険者たちだったが、次の瞬間には向かっていった全員が、一瞬で肉片へと変えられてしまった。


 創造神の体中から生えたモンスターの腕が、細切れになった冒険者たちの肉を掴んでいる。


 そのあまりの速さに、レイナは愕然とした。


(速すぎる……まったく……見えなかった)


 創造神は自分自身の手を苛立ったように見つめている。


(ちっ! いつの間にかカオスちゃんの存在が消えてるじゃなぁい……。これじゃあ、本来の力の半分しか出せないのにぃ!)


 レイナが怯えているのに気付き、創造神は打って変わって勝ち誇ったように言う。


「あらぁ? やっと自分の立場が分かったようねぇ~。そうよぉ! あんたたち人間はねぇ、そうやって絶望に顔を歪めているのがお似合いなのよぉ! おほほほほ!」


 創造神は戦意を失ったレイナではなく、その後ろに立っているエマを睨みつけた。


「まずはガキィ、あんたからよぉ。散々私のことバカにしてくれちゃってぇ。うふふ。どうぉ? これから殺される気分はぁ? 怖いぃ? 泣きたいぃ? 頭を地面にこすりつけて私の足を舐めるなら、四肢切断くらいで勘弁してあげなくもないわよぉ? おほほほ!」


 脅しをかける創造神だったが、エマは驚くほど平常に、創造神の女の姿をした上半身と、蜘蛛の姿をした下半身の境目を指差して言った。


「上半身の付け根」


 怯える様子もなく、どこか自信ありげにそう言ったエマに、創造神は間抜けな声を漏らす。


「は? あんた、何言って――」


 そして、どこからともなくその声は轟いた。



「《狼の大口(ネメシス・アギト)》ォォォォォォォ!」



 創造神の背後から出現する巨大なフェンリルの頭部。しかも、そのフェンリルの頭部は通常よりも二回り以上大きくなっている。


 そして、その向こうにいる一匹の犬。


 創造神はタロウの姿を見つけると、ぎょっと目を見開いて驚いた。


「まさかあの状態から回復するなんて――」


 バクンッ。


 巨大化した《狼の大口(ネメシス・アギト)》のフェンリルの頭部が口を閉じると、エマが指摘した通り、ちょうど創造神の女の姿をした上半身以外を口の中に含むように、鋭い牙で切断することができた。


 残った創造神の上半身がドサッと地面に落ちると、フェンリルの頭部はたった今口に含んだ蜘蛛の姿をした胴体をボリボリと咀嚼し、ごくんと一息に飲み込んだ。


 それからぺろっと舌が出てくると、そこにはフェンリルの唾液塗れになりながらも、無傷で気を失っているミリルの姿が現れた。


 フェンリルの舌に乗ったミリルを、後ろから走ってきたソフィアが慌てて抱え込む。


「ミリルさん! 大丈夫ですか!?」


「う、う~ん……」


「よかった……。無事みたいですね……」


 役目を終えたフェンリルの大口が消えると、上半身だけ残された創造神を、近づいてきたタロウが見下ろした。


「さて。お前には聞きたいことがたくさんある。すべて話してもらうぞ」


     ◇  ◇  ◇


 タロウが目を覚ましたのは、レイナたちのところにくる数分前だった。


 瓦礫になった民家の中で目を覚ましたタロウの視界いっぱいに、何故だか汗だくで息を荒くしているソフィアがいたので、驚いて思わず前足でソフィアの顎を蹴り飛ばしてしまった。


「うわぁ!? な、なんだ!? ……あ、あれ? ソフィアか? すまん……。てっきり変態かと……」


 ソフィアは蹴られた顎を押さえながら、


「い、いえ……大丈夫です……元気になってなによりです」


「ところで、ここはどこだ? 創造神はどうなった?」


 そこでソフィアから詳しい話を聞き、自分自身が瀕死の重傷を負っていたこと、そして、その傷をソフィアが治療したこと、その間ペティが近づくキメラを討伐して守ってくれていたことなどを聞かされる。


「そうだったのか……。ありがとう。ソフィア、ペティ」


 ソフィアはデレデレと口角を緩め、ペティは恥ずかしそうに大きな体で会釈をした。


 ソフィアは心配そうにたずねる。


「ところで本当に怪我はもう平気ですか?」


「あぁ。それどころか、今はすこぶる調子がいい。なんだろう……。沸々と、力が湧いてくるような感覚だ」


「そうなんですか? ならよかったです!」


 安堵するソフィアを他所に、ペティは心配そうに告げる。


「すすす、少し前に……キメラたちが全員……あああ、あっちの方向に吸い寄せられたの……ももも、もしかしたら、なにかあったのかも……あわわ! べべべ、別にあったかもっていうだけで、確証とかはなにもないんだけど!」


「ふむ……。それは怪しいな。よし。行ってみよう」


 そうして、タロウたちはレイナたちと合流することになった。


     ◇  ◇  ◇


《狼の大口(ネメシス・アギト)》で創造神の蜘蛛の胴体を食いちぎった直後。


「さて。お前には聞きたいことがたくさんある。すべて話してもらうぞ」


 ……なんてかっこよく言ってはみたものの、え? 何さっきの《狼の大口(ネメシス・アギト)》。なんかすっげデカくなかった? え? え? 俺寝てる間にレベルアップした? あれ?


 つーか勢い余ってミリルまで食っちまったことに気づいて慌てて吐き出したんだけど、マジで危なかったぁぁ! もう少しで一緒に飲み込むところだったわ!


 内心で心臓バクバクなのを悟られないようにできるだけ平静を装うと、上半身だけになった創造神が今にも泣き出しそうな顔で媚びるように言った。


「お、お願いぃ! 見逃してちょうだい! あんたも同じ転生者なんでしょ!? そ、そうだ! あんたも私たちと手を組めばいいじゃなぁい! 一緒に世界を治めましょう! ねっ? ねっ?」


「あんたも、ってことは、他にも仲間がいるんだな? 聞いたぞ。ミリルがしてる十字架のペンダント、あれがカミガカリを探すレーダーみたいな役割をしてたって。言え。その仲間ってのはどんな奴で何人いる? あの十字架のペンダントはどこで手に入れた? ……あ、そうだ。あと『ハレルヤ草』を盗ったのもお前か?」


「な、仲間っていうのは他の唯一神候補のことで、私たち、一緒に手を組んで、その中の一人を唯一神に推薦する計画なのぉ。で、でねぇ、その方が唯一神になったら、私たちも一緒に世界を治めるお手伝いをさせていただけるのぉ。仲間は全部で何人いるのかは知らないんだけどぉ、最低二人はいるはずよぉ。あのペンダントもその仲間からもらったのよぉ。『ハレルヤ草』はもう食べちゃったわぁ……。唯一神候補には効果がなかったみたいだけどぉ」


 唯一神候補同士で組んでるのか……。


 そしてヘイトス、残念だったな。『ハレルヤ草』食われてたわ……。


「どうしてソフィアを……カミガカリを探してたんだ?」


「そ、それは、あの方からの命令なのぉ。カミガカリって呼ばれる、神を覚醒させる魔力を持った人間を体内に取り込むと、尋常じゃないほど強くなれるって言ってたわぁ」


 神を覚醒させる魔力……。


 もしかして、さっき発動した《狼の大口(ネメシス・アギト)》が異様に大きくなってたのって、ソフィアの治癒魔法を通して、俺の体にソフィアの魔力が送り込まれたのが原因なのか?


 そう言えば、さっきまであれだけ絶好調だったのに、今は普通に戻ってるな……。


「言え。さっきから言ってる、『あの方』ってのは誰だ」


 創造神は一度言い淀むも、その名を口にする。



「『記録神(きろくのかみ)』、クライム様よぉ……」



 記録の神? 記録を司る神か……?


 聞いただけだとあまり強そうじゃないが……。


 いったいどんな神なんだ?


 俺が創造神にたずねる前に、ミリルを介抱していたソフィアがボソリと呟く。


「記録神……」


「なんだ? ソフィアは知ってるのか? もしかしてこの世界だと有名な唯一神候補か?」


「知ってるも何も……。記録神は三百年前、私の住んでいた国、ヴィラルを滅ぼした最強最悪の邪神の名前です」


「なっ!?」


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