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第38話 柴犬vs神鬼

「神鬼……。やっぱりお前がセバルティアンの言っていた、暴力を司る鬼の神か……」


 そう呟くと、頭の中で女の声が響いた。



【警告。唯一神候補からはスキルを複製することができません】



 ちっ。予想はしてたけど、やっぱりか。


 バルバはちょいちょいと、先ほど《狼の大口(ネメシス・アギト)》でダメージを与えられた右足首を指した。


 なんだ?


 警戒しながらも、バルバが指示した右足首を見ていると、あろうことか、傷口が瞬時に塞がり、何事もなかったかのように元通りに治ってしまった。


 これは――自己再生!? しかも、俺の治癒力を遥かに上回る回復速度だ!


 さっきバルバに殴られた傷も治癒していない俺に、バルバは嘲るように笑った。


「ガハハ! 見たか! これが俺とお前の力の差だ! 神としての格が違うんだよ!」


 この異常な回復速度は神としての治癒力を大きく超えている。おそらく、超速自己再生が奴の神格スキルなのだろう。


 消耗戦は明らかに不利。さて、どう戦うか……。


 作戦を考えるまでの時間稼ぎに、余裕を見せているバルバに言葉をかける。


「どうしてあんな人目につく場所でエマを攫った」


「くくく。神の俺がどうして人目を気にする必要があるんだ?」


 傲慢……。それに自惚れか。その性格は前世からのものか、それともそれだけの力を手に入れたゆえなのか……。


「お前の目的はなんだ」


「目的? そんなの決まってんだろ。俺が唯一神になって、この世界の絶対の神になることだ。そのためには強い手駒がいる。お前も見た目は弱そうだが、腐っても神……。それに、さっきの攻撃を見た限り、なかなか悪くはない。おい、犬。お前も俺の下僕となれ」


「冗談じゃない。誰がそんな話に乗るもんか」


「俺がここまで譲歩してやっているんだぞ? 少しはわきまえたらどうだ」


「譲歩? お前がなにを譲歩したって言うんだ」


「譲歩だろうが。お前が俺の下僕になると言うまであの町に留まり、無関係の奴らを一人ずつぶっ殺すって手もあったんだからな。それをわざわざこんな人気(ひとけ)のないところまで来てやったんだ。これが譲歩でなくてなんだというんだ」


「はっ。笑わせるな。お前、さっきから嘘の臭いがぷんぷんするぞ。さっき俺の能力を見た反応からして、自分以外の唯一神候補との戦闘経験はないんだろう? あの町には冒険者も複数いる。いくら自分の力に自信があると言えど、俺を相手にしながらでの多対一の戦闘は不利だと考え、こんな場所まで移動してきたんだろ。……つまり、お前は単に、犬の俺にビビってるだけってこった」


「……よし。決めた。これからお前をボコボコにして、瀕死に追い込んで、それから目の前でこの女を拷問し、心をポッキリへし折って手駒にしてやる。ま、素直に俺に服従を誓うってんなら、女の命だけは勘弁してやらんでもないがな。くくく」


「なるほど。そうやってセバルティアンにも《服従紋》を刻んだわけか」


「あー、そうそう。最初は王族になってやろうと計画してたんだが、結構警備が厳重でよぉ。しかたなく辺境に住んでる公爵のハイデヒューリ家に潜り込もうと思ったわけよ。で、たまたまそこに仕えてたじじいをとっつかまえてきて、目の前で村一つ滅ぼしてやれば、あっという間に俺への服従を誓ったぜ。で、ハイデヒューリ家の娘に毒を盛り、人形化したところで、俺がその娘を篭絡し、そのまま公爵の地位を手に入れようって算段だったんだが……あのじじい、あっけなく失敗しやがって……。ま、おかげで有能な手駒候補が見つかったし、許してやるか」


「お前は……人を何だと思ってるんだ! 村一つ滅ぼしただと? いったい今まで何人殺してきた!」


「さぁな? そんなのいちいち覚えてねぇよ。前の世界でも散々人殺しまくって、ヘマして捕まって死刑にされたと思ったら、突然女神を名乗る奴が現れて、無理やり神なんかにされちまったんだ。少しくらい楽しんだっていいじゃねぇか」


「楽しむ……だと?」


「お前は何にも感じねぇのか? そんなはずねぇだろ? この体の底から湧き上がってくる圧倒的な力! しかも、人間に恐怖を与え、畏怖を与えることで簡単に信仰が手に入り、ますます強くなっていく! だったら殺すしかねぇだろ、人間なんてよぉ!」


「畏怖による信仰……? あぁ、そうか……。信仰は、そんな方法でも手に入るのか……」


「おっ。ようやく俺の仲間になる気になったか? 手始めによう、さっきの町に戻って半分くらいぶっ殺そうぜ! そしたら俺もお前も、一気に信仰が手に入って今よりもずっと強くなるぞ!」


 なるほど、な……。


 こんなクズにも、唯一神になる権利が与えられてるってわけか……。


「……前の世界で死んだと思ったら、急にフェンリルだの柴犬だの唯一神だの言われて今日までやってきたけど……。今、決めた。お前みたいなのが唯一神を名乗るくらいなら、俺が唯一神になってこの世界を導いてやるよ」


「くくく……。どうやらお前は、俺との力量差も見極められないほどの雑魚だったってわけだな。とんだ見込み違いだ」


「デカいだけで強くなった気になってんじゃねぇぞ、クソ野郎」


 バルバは苛立ったように舌打ちをすると、


「犬らしく、威勢だけはいいみてぇだな……。いいだろう。予定通り、まずはお前を半殺しにしてやるよ!」


 バルバがその場で拳を振り下ろすと、次々と土が棘状に隆起し、それが地面を伝ってタロウの足元まで接近してきた。


 タロウは棘が自分にぶつかるよりも早く、周囲に生えている木々を足場に飛び回り、そのまま移動し続け、相手に狙いを絞らせないようにした。


 バルバはタロウの動きを目で追いながら、


「ほぉ。はえぇじゃねぇか。だったら、こんなのはどうだ!」


 バルバは腕を高々と振り上げると、それをエマの頭に向かって躊躇なく振り下ろした。


 エマを人質に取られている以上、当然そうくることは想定していた。



 ――お前の攻撃よりも、俺の移動速度の方が断然早い!


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